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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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「科学の発展は挑戦から。ほれそこに立って。」

紹実さんに言われるまま僕は壁の前に立たされた。

「壁を抜ける知識はあるはずだ。」

なにそれ。いつのまに?

「ねずみのマリー」

子供の頃読んだ絵本のタイトルだ。

猫に追い詰められたネズミのマリーは壁に手を伸ばし

僅かに綻んだ小さな小さな針のような壁の隙間を見付けた。

マリーはその綻びをその小さな手で掻き穴を広げる。

そしてマリーは

古い古い言葉で「寝ている家人を起こさず部屋を出る」意味の「おまじない」を口にする。

気付くと僕は手を伸ばしたまま外にいた。

全身に、鳥肌が立っていた。

ドアを開けて戻ると「壁抜けて来いよ」と笑われた。

「呪文なんて精神統一の方法でしかない。」

「藍はもう使ってないだろ?」

「え?ええ、はい。今は使ってません。」

藤沢藍は僕が簡単に壁抜け出来た事に驚いている。

「そうする方法を知っていればそうできる。」

あ、いや僕が知りたいのはその方法なんだよ。

「それがねずみのマリーなの。」

あれは壁抜けの方法が載っている教科書。

その絵やその言葉一つ一つに意味がある。

僕は今まで、母と祖母から一体いくつの本を読ませてもらった?

その全てが魔法の教科書だとしたら?

「やっぱり理緒が最強の魔女かもな。」


少々一般的とは言い難いと思うが

それでも僕は高校一年生である事を満喫していた。

相変わらず男友達と呼べるほどの男子生徒との付き合いは無いし

双子の女子高生とも無駄で不毛な争いを繰り広げていた。

時には県外から魔女が現れて僕の唇を狙うのだが

僕(の指輪)を守護する5人の魔女は恐ろしく優秀で

尽く返り討ちにし、勧誘し説得に成功する(脅迫強制もあっただろうが)

「魔女以外」の誰かが指輪狙う事が無いのは幸いだ。

少なくとも表面的にはそう見えていた。だからこそ満喫できていた。

夏休みも間も無くのある日

神流川さん。あの

「ちょっと待って。」

うん?

「要件の前に一つだけ約束しなさい。」

内容によるよ。

「結構しっかりしてるのね。」

迂闊に信じるなと教えてくれたのは神流川さんじゃないか。

「それよ。」

それ?

「下の名前で呼びなさい。」

はい?

「おかしいでしょ。私は理緒君て呼んでいるんだから。」

おかしくは無いでしょ別に。じゃあ蓮さんて呼べばいいの?

「ちっ。ちゃんで呼べよヘタレ。」

ヘタレて

蓮ちゃんはちょっと恥ずかしいよ。

「何でよ。呼ばれたからってにゃんぱすーとか言わないわよ。」

「語尾にのんなーとか付けないから呼びなさいよ。」

真っ赤になってまで言う事だろうか。

そんなに怒らなくても。判りました。呼びます。呼ばせていただきます。

「うん。呼べ。」

で神流川さん。

「おい。」

今のはホラ。フリがあったから。

「まったく。あなた時々私より性悪になるわよね。で?」

ああ、うん。蓮さん夏休みは帰省するの?

「単身赴任のサリマーマンじゃ無いから予定してないわよ。いつでも帰れる距離だしね。」

それじゃ何も予定ないの?

「当たり前でしょ。いくら最近何も無いからっていつどんな敵があなたを襲うか判らないのよ?」

ああいやごめん。そうなんだけどさ。えっと夏休みの予定を聞きたかっただけなんだ。

「だからあなたに合わせるしか無いって言ってるのよっ」

ああそうか。ごめん。そうだよね。ゴメン。

「そんなに何度も謝らないでよ。悪かったわ強く言ったりして。それで何なの?」

あ。うん。それでね、その。夏休み皆で海に行かない?

「海?」

うん。宮田さんがね、道場の行事の手伝いで人探しているって言ってて。

荷物運びや食事の手伝いすれば宿代は無料。海の家で雑魚寝らしいけど。

「ふーん。」

ただ交通手段だけ何とかなればって話だけど。

「いいわよ。行きましょうよ海。」

そっか良かった。

「他の皆も行くって?」

さあ、これから聞くとこ。

「あらそう。」


渡良瀬さんも「了解した。」と快諾。結構嬉しそうだった。

藤沢さんに話をすると

「いいですよ。それでその交通手段にアテはあるんですか?」

いやまだなんだ。これから何か考えないとね。

「それじゃ私に任せてください。」

え?

「日程と行先と人数判ったら教えてくださいね。」

あ、うん。

宮田さんにその事を話すとすぐに教えてくれて

「双子はどうするんだ?声掛けなくていいのか?」

足の問題があるからね。それが決まってからにしようと思ってるんだ。

「そうだな。でも置いて行ったら怒るかもな。」

宮田さんから聞いた日程と行き先を藤沢さんに伝えると

「その道場の方たちは何人なんですか?」

え?さあ。

「とっとと確認してください。」

何なんだ一体。

その場で電話をさせられ確認すると

子供達13人と小室道場から2人。それと宮田さん本人。

「鏑木姉妹には声掛けましたか?」

いやまだだけど。

「ちゃんと確認しておいてください。まったくもう。」

何でこんなに怒られているのだろう。

鏑木姉妹から「行くに決まってるでしょ。」と言われたと伝えたのを最後に

藤沢さんは僕に確認をしなくなった。

それどころか宮田桃をすらすっ飛ばし小室道場の人と直接打ち合わせ。

一体何を企んでいるのやら。


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