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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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彼女達3人は殆ど毎晩食後にコーヒーを飲みにやってくる。

「紹実さんも是非。」

と連れ出して工房に入り浸る。当然ノトも工房に入り浸る。

それから魔法談義が始まる。

「本場の」と言うのはても心苦しい。

僕も話を聞くたびに胸が痛むのだが

「ヨーロッパ各地で起きた魔女狩り」についての話は避けられない。

処刑された大多数が「魔女」ではない者。

宗教観の違い。審問官の言い掛かり。他者の誹謗。

無知がもたらした恐怖。

ウィッチだとかヘクセだとか呼ばれた人達は誰かがそう呼び始めただけに過ぎない。

実際、悪魔崇拝や似たような名称の宗教が存在した事もあり、

いつの間にかイメージが植えつけられただけだった。

医師や祈祷師と呼ばれた人達が、どうして好んで他人を傷付けようか。

その者達は全く逆の、他者の幸せのためにこそその身を捧げていたのに。

他者の苦しむ姿に心を痛めて祈りを捧げていただけなのに。

魔女がその存在を表に出さなくなったのは「魔女狩り」そのものを恐れたからではない。

「魔女」そのものの存在を否定してしまえば

魔女狩りなんて馬鹿げた騒動は治まる。

無関係な人々が傷付く事がなくなる。

時代が移り変わり、本場でさえも魔女の数は減少する。

医療と科学の進歩によって、「魔法」は不要となり、

本来の意味であるウィッチであったりヘクセとしての在理由が無くなったのだ。

宗教の多様化やファッションとしての「魔女」の固定観念。

その姿は「魔女」って言葉がとても広義に使われているのでそう呼ばれているに過ぎない。

本場にしても日本にしても「魔女」は自らを「魔女」とは呼ばない。

○○家の誰それとしか名乗らないのだと言う。

特定の呼び方なんてない。

「だから皆も自分達の事を好きに呼んでいいんだよ?」

「私は魔女ですよ。」

「私もです。」

僕は違うけどね。

「そう言えば前に聞きたかったこと思いだしたわ。」

何です突然。

「どうでもイイ事だと思ってたから忘れてたんだけど。」

と前置きして

「紹実ちゃんて理緒君の従姉なんですよね。」

「そうだよ。」

「でも紹実ちゃんのお母さんが結婚した時姓が変わって三原ですよね。」

「理緒君に三原を名乗らせないのは理由があるんですか?」

「え?うん?そういやそうだな。」

「気にした事無かったんですか?」

「三原紹実が有名人だからあえて合わせなかったのかと。」

「あ、それ、それだ。」

今思い付いたな。

「三原紹実」を僕の身内としてその存在をアピールするのはメリットとデメリットどちらが大きいだろうか。

魔法の使えない魔女を「最強の魔女の弟」として危険は無いものか。

本来なら、僕は「三原理緒」になるべきだ。

「あー、そうだな。うん。そうするか。」

今日から僕は三原理緒?

「いや、それはどうでもいいや。お前今日から私をお姉ちゃんて呼べよ。」

は?

「そうね。せめて紹実さんじゃなくて紹実ちゃんよね。」

「いや紹実ちゃんはダメだ。」

「どうしてです?友達みたいでいいって。」

「理緒は家族だからな。」

「それもそうか。」

え?何がどうなってる?せめて姉さんとか姉貴とかダメなん?

「ダメだな。お姉ちゃんだな。」

「そうですね。理緒君はお姉ちゃん。て言うのが似合うと思いますよ。」

似合うって何だ。

「なんですか?」

僕に失礼な発言をした藤沢藍がちょっとイラっとしながら何故か神流川蓮を睨んだ。

「別に?」

と神流川さんはニヤニヤしていた。

何だ?

この日から僕は紹実さんをお姉ちゃんと呼ぶことになった。

何だかとても恥ずかしい。

何だろう。この甘ったるい響き。


そんな談笑が毎晩のように続いてた。ある夜渡良瀬葵が

「今は何やってるんだ?」

空の段ボール箱を繋げてノトさんのオモチャ作ってる。

「いやそうじゃなくて。実験とかのこと。」

今は実験と言うより検証かな。絵本が本当に魔法の書なのか。

「魔法の書。か。これ全部読んだのか?」

いやいや全部は無理だよ。ほんの一部。

「そうか。」

しっかり読んだのは100冊程度だろうか。

僕はその中からいくつかの魔法を「科学的に」実践しようとしていた。

「科学では説明できないから魔法なのに?」

「いきなり本質を突いたな。」

「プラズマじゃない?プラズマよ。」

「何でそんな事するんだ?」

「魔法を否定したいんですか?」

そうじゃないよ。

最終的な理想は魔法と科学の融合。

電気をエネルギーとして利用した人は魔法使いじゃないかとさえ思う。

小さな電流によって動作のオンオフ。回路図なんてまるっきり魔法陣だ。

実際近頃は化学の実験をしていない。

机の上のビーカーやフラスコ等々は全て棚にしまった。

今その大きな机には回路図(魔法陣?)が散乱し

壁に掛けてくれた大きなホワイトボードを使い「科学」に変換している。

たまには回路を作るのに「はんだ鏝」を使う事もある程度。

本を読んでいると、いくつかの魔法が「化学」によって成り立っている事を知った。

が、材料が入手困難なため再現を断念した。

姉に聞くといくつかの材料は簡単に手に入ると教えてくれた。

「違う名前で呼ばれているだけ。魔女の暗号だよ。」と笑った。

段ボールのトンネルにノトさんがダッシュして突っ込んでいるのを眺める。

固定しないと一緒に滑るな。改良が必要だ。

「トンネル効果って知ってますか?」

え?あ、うん。

量子力学の「壁がボールを突き抜ける確率」がどうのって話。

「あれです。」

何がだ。あ、壁抜けの事かっ。

藤沢藍は唐突だ。

でもあれって電子レベルの話しで人体レベルじゃとても。

「だから魔法だって言ってるでしょ。」

ぐぬぬ。

「何だ?そのトンネル効果って。」

「あれでしょ?セーター着たら袖の部分から頭が出る確率。」

「なんだそれ。」

本来は運動エネルギーに関する話だけど

えーっと、壁にボール投げるとそれが壁の向こうに行く確率の話です。

電子レベルでは不可能ではないからボールを構成する素粒子が壁の素粒子を通り抜ける確率は0ではない。

ただ日常の物質では限りなく0だから不可能って言っていい話なんですけどね。

「判ったような判らないような。」

「考えすぎると気が遠くなるよ。」

理論はつまりそのトンネル効果なのだろう。だがそれを現実にしてしまうのが魔法なのかもしれない。

「そんなバカな。」

とは言い切れない。何せ僕は目の前でそれを見ているのだから。

良く出来た手品で、壁に切り口があったりするのかもしれない。ただ騙されているのかも知れない。

彼女が突然こんな事を言ったのはあの日僕が壁を調べていたのを見たからだろう。

「壁抜けくらいなら理緒にも出来るのに。」

と姉はとてもとても簡単に言ってのける。

僕にできるワケないじゃないか。

「理緒の言う科学がそれを邪魔しているのかもね。」

科学では解明できないから魔法だ。

何て言葉を真っ向から否定しようとしている僕には当然の話しだ。

魔法を科学的見地から実証する事こそが僕の使命。

「じゃあ実験してみな。」

実験?


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