表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Kiss of Witch  作者: かなみち のに
141/141

141

そして春が訪れる。

グレタは今月末でその留学期間を終え帰国する。

「日本に来て良かった。素敵な魔女にたくさん出会えた。」

アメリカでは殆ど魔女に出逢わなかったそうだ。

「私も本場チェコの魔道士の空中浮遊が見られたので幸せですよ。」

「何言ってるの。私を飛ばしたのはアイでしょう。」

皆が笑顔だ。

きっと素敵なお別れになるだろう。

「グレタは国に帰ってもまたすぐ何処かに行きそうね。」

「実はイングランドかスコットランドにでも行こうかと思っていたのよ。」

「でもどうして判ったの?」

「判らないわよ。何となくそんな気がしただけ。」

蓮さんの魔女としての本質はここにあるのだろう。

過去と現在を見て、未来を見通す。それは決して具体的な映像ではない。

だがそれは時として予言のようであったり、希望でもある。

僕自身、彼女の「大丈夫よ」には何度も救われた。

「レンはどうするの?」

「どうって理緒君のお嫁さんになるのよ。」

また始まったぞ。これには何度も酷い目に合わされた。

「その前によ。高校卒業してすぐってワケにもいかないでしょ。」

「そうね。うん。ちょっと柄じゃないけど真面目に答えるとね。」

「理緒君と2年間一緒にいて、ちょっと面白そうな事思い付いたのよ。」

イヤな予感が「しない」のはどうしてだろうか。

「私保母さんになる。」

保育士。幼稚園とか保育園の「せんせい」

あ、もしかして

「そうよ。幼い頃から洗脳するのよ。魔女は素敵だーって。」

半分本気に聞こえる。

もう半分も本気だろう。それは「魔女」に限った話ではないが。

「アオイはカウンセラーになるのよね。アイはどうなの?私にはあなたの将来が見えないわ。」

「言ったはずですよ。私は理緒君に付いて魔女の修行を続けます。」

「でもその前に。」

あの家族とは縁を切る。と言った。

「育てていただいた恩はありまずか相手方にとつてもそれが最善かと。」

「私にとって家族はもう既に違う場所にいますから。」

それはきっと三原家であったり、小室家や橘家でもあるのだろう。

僕も似たようなものだ。

藤沢家の魔女が彼女だけのように。御厨家の魔女は僕だけになった。

鏑木姉妹は?

「カナちゃんはパティシエよね。」

「う、うん。いつかフランスにも行ってみたい。いずれは小さくても自分のお店を持ちたい。」

「その時は連絡してね。フランスも長かったからそこそこ案内できるわ。」

「リナは?」

「私は・・・」

鏑木リナは僕を見た。

「私は、やっぱり理緒と一緒にいたい。」

「ひゃっ。」

「告白?ねえ告白なのっ。」

「藍が理緒の彼女みたいな空気になっているのが気に入らないのよっ。」

「それに、私は最強の魔女になるって野望は捨ててないわ。」

そんな野望あったんだ。

「何言ってるのよ。だから理緒を襲ったんじゃない。」

後日談になるが、結局2人は僕に付き合って「魔女修行」する事はない。

2人は進学し、同時に僕の母と縁伯母さん、そして紹実さんと碓氷先生に振り回されてしまう。

そして僕は

卒業してすぐにセンドゥ・ロゼを訪れる予定だ。

僕には知らなければならない世界がある。

理想をキレイゴトで終わらせないためにも、僕は知らなければならない。

皆が揃って「理緒は知らなくていい」と言った世界。

理想も希望も無い世界で「魔女」として何ができるのか。


「待ち合わせとかしてみたい。」

急にどうしたの。

「いつも出掛ける前から一緒だったから。」

「駅前で待ち合わせて「ゴメン待った?」「ううん今北産業。」」

なにそのコント

「コントって言うな。」

「今やれよ。理緒、そこ立て。」

「それこそコントじゃないのっ。理緒君も立たなくてていいのよっ。」

何でもないただの冗談に聞こえるかも知れない。

でも蓮さんのこの一言は、僕たちにとってとても重要な意味を持つ。

日常の定義は僕には判らない。

この一言で

今までの日常が終わり、新しい日常が始まるのだと

僕たちは揃って実感した。


僕にとって魔女とは「祖母」であり、「母」であり、「姉」であり「妹」であり、

そして「友」でもある。

これほど魔女に囲まれた「男子」も珍しいのではないかと思う。

僕の出会った魔女達から幻滅されぬように、

僕は「魔女」として生き続けなければならない。

ただの「魔法使い」ではない。

僕は「魔女」。男なのに「魔女」。

受け入れよう。その矜持、その誇り。

箒に乗って空は飛べない。

呪文を唱えるだけで傷は癒せない。

僕に世界を変える力なんて無い。

だからこそ、僕は僕の日常を必死に、真剣に守り続ける。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おつかれさまです! まさかの、委員会との交渉、そしてその成功。 理緒君、この子はいろいろ大丈夫なのだろうか……とハラハラしていたのがいつしか、覚悟をもって進みはじめていて。 その姿を、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ