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震える膝をを抑えながらエレベーターを降りると魔女達が一斉に駆け寄った。
その表情を見る限りどれだけ心配してくれたのやら。
隣に委員長が居るのを見て飛び掛るのを止めてくれたが
僕達2人の笑顔で、魔女達の緊張も解けた。
握手を交わし、ビルを出て、さあ帰ろう。
「何言ってるのショッピングよ。」
「そうですよ折角こんなとこまで来て。」
「お前は私達が何しに来たと思っているんだ。」
何しに来たんだよっ
せめて紹実さんと碓氷先生に電話だけでもさせて。
「理緒君は薫ちゃんに電話して。私が紹実ちゃんに報告するから。」
報告って内容知ってるの?
「知らないけど判るわよ。顔に書いてあるから。」
碓氷先生が交渉の窓口になってくれていた。
交渉の準備。だけではなく、交渉そのものの窓口。
だからこそ「代表者」とか「交渉の責任者」が別人で高校生で挙句男子では驚きもしただろう。
改めて碓氷先生を訪れると利根先生もいた。
「立派な生徒さんを育てましたね。」
「って言われてニヤニヤしっぱなしだったのよ。」
利根先生はその正体を明かすと同時に、交渉の窓口として碓氷先生との間に入った。
その上で、改めて「委員会」に協力を約束していた。
「カオルンが育てたわけじゃないのにねぇ。」
そんな事ありません。碓氷先生の指導があったからこそ。
と言うか、うまい具合に誘導された気がしないでもないのですけどね。
「策士だもんね。」
「いやいや。さすがに私もこんな事になるなんて思いもしなかったよ。」
最初はただ本当に僕の指輪を守るためだけだった。
「それは違うわ。」
違う?
「指輪じゃないわよ。カオルンはずっと理緒君を守っていたのよ。最初からずっと。」
皆そうだった。指輪ではなく、いつも僕の心配をしてくれた。
体が弱くて倒れてばかりでいつも皆に心配を掛けて
まあそれでも魔女の代表に仕立てられてしまったのは事実だ。
「私は何も言っていないぞ。」
碓氷先生はニヤニヤしている。
判ってますよ。僕が決めた事ですから。
僕の意志で、僕が決めた事だ。
崖で背中を押しておきながら「お前が勝手に飛んだ」と言われているような気もするが
碓氷先生はずっと「お前なら飛べる」と言ってくれていた。
でも懸念が無いわけではありません。
「うん?」
僕を狙った魔女達は連絡が付く状態になってます。
ネットワークも殆ど組み上がっている。
でもその子達の親の世代は?その上の世代は?
僕に言わないだけでこの事に反発した魔女も居るはずだ。
それを縁伯母さんや母、紹実さん。それに碓氷先生と利根先生が説得したのだろう。
そうでなければ「日本の」なんて言われる筈もない。
どんなに大きく見積もっても「日本の高校生の」程度の筈だ。
「あー、その心配は全く必要ないよ。」
どうして?
「おまえのお婆様に感謝しろ。」
祖母に?
「それから二人の母親にもな。」
「それに私とか紹実さんなんかが特殊なんだよ。」
「仕事に就いて「普通」に生活すれば魔女としての活動なんてしなくなる。」
「おまえを狙う魔女に学生が多いのも、それが理由だ。」
「今更魔女とか。って思うものなんだよ。」
「学生の頃学んだ授業の内容を忘れていくように、魔法も忘れてしまう。」
現代の社会生活において、魔法を使う機会なんてどれほどあるだろうか。
えっと、それと家族に感謝しろつてのは
「お前私があの2人を尊敬しているって言ったの忘れたか?」
憶えています。
「あの人達は日本どころか今や世界中で尊敬される魔女なの。」
「その2人が日本の魔女の代表としてお前を指名したんだそ。」
「おまえもうちょっと自覚しろよ。」
えーそんな事言ったってぇ。
「お前が望むなら世界を魔女のモノにできるんだからな。」
いやそれはさすがに無いでしょ。
魔女は脅威ではない。僕が脅威になるようなら他の魔女が黙っていない。
「それだよ。」
それ?
「理緒が魔女の代表として認められた理由。」
僕は魔女の代表であると同時に、魔女の一人でしかない。
「お前卒業したら忙しくなるぞ。覚悟しとけよ。」
母達からも釘を刺されました。
「でもその前に」
でもその前に。僕には行くべき場所があり、すべき事がある。
「死ぬなよ。」
縁起でもねぇっ
「その日の来る前に委員会側から草案が届くだろうからな。」
「お前ちゃんと目を通せよ。」
そんなんお任せしますよ。
「イヤイヤダメだろ。お前委員会にもそう言ったらしいけど。」
「それは信用とかと別問題だからな。ただの責任転嫁とか面倒で逃げたとかしか思われないぞ。」
そんなつもりは
「それが大人の世界なの。」
僕はまだまだ子供だ。いつまで子供でいられるのだろうか。




