138
波乱のバレンタインデーが終わり、その週末小室家でチョコやら配り、
暦では春なのに寒い冬のある日の朝。
「理緒、この後ちょっと職員室に来い。」
先生は教室でも下の名前で呼ぶ。
それでもいつもと様子の違うその呼び方は魔女達も勘付いただろう。
それは3月最初の日曜日に決まった。
「言う事まとめておけよ。」
チェックしますか?
「いや。必要ないだろ。お前に任せるよ。」
信用しているのか、放任なのか。
「代表者一人での交渉。って事になっているからな。」
男子高校生って話は
「勿論してある。当然驚いてはいたけど。」
それで、こちらの条件は
「飲んだよ。委員会全員だ。まあ最後は殆ど脅しだけどな。」
え?
「交渉に応じない場合はお前を中心に実力をもって魔女の権利を確保する。ってな。」
事実、噂を元に僕を襲った魔女達から始まった「ネットワーク作り」は
僕の連絡網から碓氷先生、利根先生を中心に
宮田さんの知人の柏木梢さんの「継ぐ者」のネットワークと同調。
今や日本中の魔女と連絡を取れるまでに広がった。
そしてその誰もが、「委員会」とは反対の立場を表明してくれた。
魔女は魔女の権利を守るため、いつでも立ち上がる。
できれば、そんな事はしたくない。
「判ってるよ。」
「私達にはそれだけの覚悟があるって意味だ。」
はい。
だからこそ、委員会の構成員全員一同に集める事が出来た。
実際にそうするかは当日にならなければ判らないだろう。
都内の、大きなビル。1階の談話室で待たされた。
交渉はこのビルの会議室で行われる。
男性と女性が1人ずつ迎えに現れた。
僕が黙って付いて行こうとすると蓮さんが制した。
「委員会の方ですね?最初に断っておくわ。」
「私は、私達は御厨理緒がそうしろと言うからそうするのよ。」
「もし彼が何も発しない場合、私達は私達の意志で行動する。」
ちょこの期に及んで脅迫とかヤメテ。
「これでも抑えて言っているのよ。」
この人達なら大丈夫だよ。
「ホントお人好しね。少しは警戒しなさいよ。」
カーテンとか閉まって薄暗い部屋だったらどうしようかと思ったけど
テレビや映画の見過ぎかな。普通の(?)会議室。
円卓の会議テーブル。
部屋に入ると全員が立って迎え入れてくれた。
席に着くなり、僕を迎えに来た男性が興奮気味に
どうやらこの会の委員長だか会長だかに報告する。
「先程魔女達に脅迫されました。」
付き添いに来た魔女達の目付きは即ち決意。
彼は僕に向き直り吠えた。
「あれが魔女の本性ではないと言い切れるのか?」
「やはり魔女は危険な存在ではないのか。」
「今は君がいるから抑えていると自分で白状したぞ。」
「将来的にその枷が外れない保障はあるのか。」
保障?そんなものはありません。
貴方達委員会が将来的な「魔女の脅威」を語るように、
「委員会」がそうならない可能性だって否定できません。
それは歴史が証明してくれている。
「魔女狩り」
それは名前ばかりの行為。
「自分達に都合の悪い存在」を排除するための方便として「魔女」が選ばれただけだ。
「あいつは魔女だ」と体制が決め付け、魔女ではない者を迫害した。
貴方達がそうではないと、何者に保障できますか?
そして魔女の次は何を狩るつもりですか?
「我々はそのような行為に及ばない。」
委員長が続ける。
「君の言う歴史に学び、愚行は繰り返さない。」
委員会には権力がある。その矛先が魔女以外に向かない可能性はない。
だから委員会は解散すべきだ。と。それと同じ事だ。
「屁理屈だ。」
いえ事実です。僕は貴方達に襲われた。
魔女では無かった僕は、実際に襲われた。
ただ指輪が欲しいと。その所有者と言うだけで銃で撃たれた。
委員会とはとても危険な組織だ。
魔女に潰されたとして、何者が咎めようか。
全員が言葉を失った。やはり僕が撃たれた事も知っている。
きっと指示を出した人物もいる。僕を撃った連中を雇った側の人だ。
僕は脅迫するために皆さんを集めたのではありません。
委員会の皆さん全員に集まっていただいたのは、魔女の真意を聞いていただき、
その上で協力を求めたいからです。
「あなたの言う魔女の真意とは何でしょうか。」
魔女は脅威ではない。魔女は人々の恐怖の対象ではない。
魔女達は、幼い頃からそう教育されています。
魔女が闘いを挑むのは魔女だけです。
それはスポーツであるとか、武道に似ています。
同じ競技者同士の高め合い。
逆にお伺いしたい。ずっと聞きたいと思っていました。
どうして委員会は魔女を敵視するのか。
魔女達は、そのイメージから常に悪者扱いされている。
正確に言うなら、本物の魔女を示す日本語は存在しない。
貴方達は、魔女達が本気で「魔女以外」の人々を襲うとお考えでしょうか。
であれば、その根拠を教えていただきたい。
事実を提示していただきたい。
それができない以上、
魔女はその名前だけで言われなき圧力を受けていると言わざるを得ない。
「魔女はこんな事ができる」「あんな事ができる」
その可能性だけを根拠に全てを否定する権利なんて誰にもない。




