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「顔に出る」と日頃から言われている僕が落ち込んだ様子を隠し通せるわけも無く
教室に戻る早々皆から心配されてしまった。
大丈夫だよ。事情は判ってくれたから。
グレタと友維にはくれぐれも抗議やらに行かないように頼んだ。
これ以上話を面倒にしたくないから。
僕の周囲以外は、いかにもバレンタインデーな空気に戻る。
それだけ特別な一日なのだろう。
僕が休み時間の度に反省文に取り組むのを邪魔されずに済んだのは
魔女も桃さんも他のクラスメイト達とそれぞれチョコの交換を行っているからだろう。
姿が見えないのは隣のクラスに藍さんもリナさんもいるから。
当然と言えば当然だが、結局一つも貰えぬまま放課後になってしまう。
反省文を書き上げ、職員室に入ると碓氷先生は他の教師と談笑していた。
本当にすみませんでした。
「だな。黒板吹っ飛ばした不祥事なんて前代未聞だ。」
「と思ったら、お前の姉ちゃんはもっと凄いことやらかしたんだ。」
はい?
「壁ごと黒板吹き飛ばしたんだとよ。」
「笑っちゃったよ。」
笑いごとか
「教頭に怒られたよ。笑いごとじゃないって。」
「その時の担任がその教頭でさ、今回の当事者はその弟ですって言ったら」
「んっんんっ。こ、今後このような事のないようキツク言っておくように。」
「で済まされちゃったよ。」
「ったくお前の姉ちゃん何やったんだよ。」
碓氷先生はそう言って笑ってくれたが僕は笑えなかった。
反省文として今回の件の詳細を書きながら
「魔女」とは何と恐ろしい存在なのだろうと改めて考えていた。
怪我人が出なくて良かった。
ボソリと零れた本心だった。
「グレタはそんなつもり無かったってよ。」
え?
「すぐ来たよ。私の責任だって。」
「ユイを脅すつもりで懲らしめるつもりでそうした。後ろには人がいないの判ってたって。」
「ただちょっと怒って出力上げ過ぎて学校を壊しただけです。って。」
「リオには抗議に行くなって言われてるから。これはお願いですってよ。」
「責任取って帰国するとまで言ってきた。」
「殆ど同時に妹も来たぞ。私が悪いんだって。」
「委員長もあの三人も。桃も来た。」
プレゼントの交換にでも行っているのだと思った。
「今回の件は事故として処理する。」
「ま、反省文は面白そうだから貰っておくけどな。」
「理緒。本物の魔女を甘く見るなよ?」
どんな意味で言っているのだろう。
「ホレ。これは私からだ。」
碓氷先生は僕に包みをくれた。去年のように市販のチョコそのままではない。
「ヨシ、利根先生からもホレ。」
あ、ありがとうございます。
「お礼はその問題のお前の手作り和菓子でいいぞ?」
明日持って来ます。
「おう。魔女っ娘共待ってるんだろ?もういいよ。」
あ、はい。あの、ありがとうございました。
「うん。」
教室に戻ると皆待っていてくれた。
友維とグレタが駆け寄って「ゴメンね」と言った。
いや僕が悪いだけだから。それに処罰は無いから大丈夫だよ。
「これでバレンタイン禁止なんて事になってたら理緒君伝説になれたのに。」
そんな伝説いりません。
んー、皆いるのか。時間あるならうちに寄ってよ。
皆の分もあるんだ。
「あ?醍醐味味わえなかったんだから明日学校で渡せよ。」
え。面倒だから持ってこなかったかのに。
「ダメですね。そもそも理緒君が持ってこなかったからこんな事になったんですよ。」
「それにホラ委員長は今日委員会で渡せないでしょ。」
「委員長から理緒君に渡すモノあるって言ってましたからね。」
判りました。じゃあ明日。
帰宅すると紹実さんに向かって皆が散々愚痴をこぼした。
紹実さんはお腹を抱えて笑っている。
「そりゃお前、理緒が悪いよ。こっそりと和菓子作るとか何者なんだよ。」
聞きましたよ。
「あん?」
学校の壁吹っ飛ばしたんですってね。
「いっ。誰に聞いたんだよ。」
教頭が当時の担任だって。
「あれは、違うっ」
紹実さんの破壊工作を聞いて、食事を済ませて皆で一息ついていると
「じゃあお前達結局明日渡すの?」
「仕方ないじゃないでいか。こんな事になったんだから。」
「ふーん。まあいいか。」
「何ですか?」
紹実さんが席を外す。すぐに戻って来たその手には紙袋
「ホラ。私からだ。」
あ、ありがとうございます。
「チョコたくさん貰えるだろうからチョコじゃないぞ。」
「それに市販のだから。」
はい。ありがとうご
ありがとうお姉ちゃん。
「ひゃーイヤラシイ。ナニソレ。何なのそれ。」
「ちょっとズルいぞ。私にもくれっ。」
あ、チョット待っててください。
工房に走って練り切りを一つ取ってきた。
どうぞ。
「これがその言ってた和菓子か。」
皆の分もあるんだけど
「明日でイイって言ってるでしょ。」
「じゃ遠慮なく。」
パク。
「ンマーーイ。何だコレ。お前何者なんだよっ。」