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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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事故だった。事になった。

平日のバレンタイン。

生涯で初めて「楽しみ」だと思ったバレンタインデー。

それが間違いだった。

朝から様子はおかしかった。いや前夜から。いやその前の週末から。

3人の魔女は橘家にお邪魔する事なく三原家の屋敷でチョコ作りに励んだ。

桃さんは佳純ちゃんと小室家に。

鏑木姉妹は何とグレタを自宅に招いた。

トゥルデルニークと呼ばれるお菓子をを作りたかったそうだが

「ぐるぐる巻けない」ので断念したのだとか

友維はそのグレタに請われ鏑木家へ。

「そもそも何で私が贈るの?男性が貢ぐのよ。」

「せめてカード交換くらいよとか言えよ。」

バレンタインの日本の風習は「文化の違い」になるのだろうか。

こんな事を言い出すと思ったので

グレタに「和菓子」を用意した。

これが失敗だった。

勿論全員の分も用意した。ただ持ち運ぶのに結構神経使う。

3人の分も、鏑木姉妹も、友維の分もある。

勿論桃さんの分も家に帰ってから。と思っていた。

「ワガシ?って言うのよね?自分で作ったの?」

結構簡単なんだ。

桃の形の「練り切り」。

桃の缶詰を使って練り込む水に足して、桃も白あんに混ぜたり、

結構試行錯誤だったがどうにか形になった。

薄い桃色のソレは我ながら美味しそうではあった。

工房に籠って作っていたので誰にも何も話しておかなかった僕も悪い。

友維が鞄を置いて「兄が誰からどんなチョコを貰ったのか」を確かめるため

クラスメイト2人を引き連れて教室に現れた。

僕の机の周囲に女子が集まり、僕の作った「桃の練り切り」を眺めているその時だ。

「お、これ誰の?美味しそうじゃん。」

「あっ」

ヒョイ。パク。

「んぐ。んまーい。ナニコレ。これ作ったの何者だよっ。」

と満面の笑みで、「魔女の誰か」の贈り物程度に思っていた友維。

ドガン

と爆音と共に焦げ臭い匂いが教室に漂った。

友維の髪が微かに焦げている。そしてその後ろの黒板がブスブスと焦げ、大きく凹んでいた。

「ユーイー。」

グレタの掌は友維に向いていた。まさか。

「ちょっグレタっ何す」

ドガッ

かろうじて友維はしゃがみ躱した。おかけでもう一度黒板に当る。

黒板はバラバラと半分ほど砕けて落ちた。

教室に悲鳴が響く。パニック教室。

怒りの収まらないグレタ。

三度目の攻撃に藍さんと蓮さん、そしてカナさんが慌てて結界を張る。

三重の結界。グレタの「魔法」はそれをも破壊した。

本場チェコの魔道士の実力を見て感心してしまった。

いやそんな悠長な場合ではない。

狙われる友維との間に入り、グレタを制した。

「どきなさいリオ。食べ物の恨みは恐ろしいって日本語であるのでしょ。」

待って。まだあるから。ね。

「そう、なの?」

うん。学校には持って来て無いけどまだあるんだ。だから落ち着いて。

「判ったわ。でもユイは許さないわよ。」

「ちょっと待って。何だよ話が見えないよ。」

「ユイが食べたのはリオが私にくれたお菓子なのよっ。」

「せっかくバレンタインにリオが作ってくれたのに。」

グレタが泣き出した。

「わーゴメンてグレタ。悪かったよ。知らなかったんだってば。」

「何で言わないんだよっ。」

殆ど八つ当たりのように友維が僕を責める。するとそれに乗っかり

他の魔女達が

「どうしてグレタにしかあげないの?」

「私達の分はどごてすか。」

だから帰ったら

「学校で渡すから醍醐味があるって言った筈だが?」

そんなん僕は関係な

「関係ないわけないでしょ。何やってるのよっ。」

委員長が碓氷先生を呼び連れて来た時にはもう収拾が付けようのない状態だった。


「突然黒板が爆発するはずないだろ。」

べべ弁償します。

「問題をすり替えるな。」

怖い。碓氷先生が怖い。

「どうしてこうなったのか話せ。」

朝の出来事を全て説明した。

碓氷先生は呆れている。

「ったく。誰の責任になるんだ?」

「黒板吹き飛ばしたチェコ人か?そいつの御菓子横取りした妹か?」

「それとも結界を張りそこなった魔女共か?」

いえ、僕です。責任は僕にあります。

処罰を受けるなら僕だけにしてください。

「ったく。反省文書いてこい。」

あ、はい。でも何て書けばよろしいでしょうか。

まさか魔女が魔法で黒板吹き飛ばしたなんて

「まったくもうっ。」

ひぃゴメンなさい。

「しっかり教育しろよっお前の責任ってのはそーゆー事だぞっ。」

ええっ?

「当たり前だろっ。日本中の魔女はお前をロールモデルにするんだ。」

「もう少し自覚しろよ。」

ロールモデル?自覚?しかも日本中とか大袈裟過ぎやしませんか?

「いや、大袈裟じゃないぞ。お前は今や日本中の魔女の中心なんだ。」

「お前の意思決定が魔女の行動原理になるんだ。」

「委員会との交渉ってのはそーゆー意味があるんだぞ。」

改めて、責任の重さを痛感させられた。

「反省文は書けよ。私が見るだけだから状況を正確に正直に書け。」

「その上でどうしてこうなったのか分析して、問題点と反省点と改善策を書いてこい。」

判りました。

あ、あの。

「何だ。」

これでこの学校のバレンタインが禁止になるなんて事は・・・

「はぁ。判らん。黒板吹っ飛ばした前例なんて無いだろうからな。」


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