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「何を言ってるんだ?」
何って、僕が魔女じゃなくて普通の高校生だったら
「その時はその時で別の出会いがあっただろうよ。」
「ここじゃない何処かで他の誰かとな。」
「私はお前か魔女として産まれてくれて良かったと思っているよ。」
「お前は私を許してくれる。」
「もし他の誰かだったら、恨まれて憎まれてどうやって責任を取るか判らず苦しんだかも知れない。」
「とは言っても紬さんの子だからな。魔女じゃなくてもいずれ出会っていただろうな。」
もしそうなっていたら。
僕達はこうして今日のように笑い合っていただろうか。
魔女ではない僕を、彼女は受け入れてくれただろうか。
いや「どうして僕は魔女じゃないんだ」なんて嫉妬に狂って母を恨んだかも知れない。
不思議だ。
可能性なんてとても広い筈なのに。どうしてこうなったのだろう。どうして僕はここにいるのだろう。
この日、僕達は結構遅い時間まで話を続けた。
意味が無くて、意味のある会話。
この先も、何度もこんな「持て余したような」時間を共有できるといいな。
碓氷先生が気を使ってくれたのか、それとも委員会が何かを察したのか
バレンタインウィークに入っても連絡はなく、
魔女達の準備は着々と進められていた。
怖い。
大きな鍋で怪しげな物体を煮込んでいる映像が頭に浮かんだ。
「今年は大人しくしてなさい。」と全員から脅された。
(小室さんにも橘さんにも、佳純ちゃんからも釘をさされた)
期待。と言うかチョコをたくさん貰えるのはそれなりに嬉しい。
贅沢な悩みだがそんなにいただいても困る。
皆で食べ合って味較べ的な展開になるのだろうから
僕の名前を使って自分達がチョコを食べたいだけなんじゃ?的な。
お返しを考える身にもなって欲しい。
自分達が食べたいだけでそうしているのにどうして僕が「お礼」とか押し付けられるのか。
いやまあ要らなくはないから。欲しいから。
チョコ欲しいから。
何だったらクラスメイトの見ている前で美少女達からチョコ受け取りたいからっ。
「何もそんなに一気にぶっちゃけなくても。理緒ちょっと変わったな。」
「私からそれとなく言って」
いやいやそんなんダメですよ。
「何だよその顔。どっちなんだよ。止めていいのか?」
ああっ止めて。でも止めないで。
「メンドくせぇな思春期。」
「心配するな上手く言ってやるから。」
紹実んさの上手く言ってやるってのもなんか不安。
「失礼な奴だな。」
「これでも私は高校で養護教諭やってたんだぞ。思春期の扱いくらい慣れてるわ。」
それとなくですよ?クラスメイトに自慢したいからとか言ったらダメですよ?
「判ってるよ。」
僕はこの時気付くべきだった。彼女は魔女なんだ。
かつて「最強の魔女」と呼ばれた凶悪な魔女なのだ。
「おいお前ら。」
「ん?」
「なんですか?」
「バレンタインのチョコは学校で渡せよ。」
ちよーーーーっ
「はい?」
「何言ってるの?」
「理緒がそうして欲しいんだとよ。」
いやーーーーっ
いいいい言ってない。そんな事言ってないっ
「えーっ今朝言ってたじゃん。」
「何を今更。最初からそのつもりよ。」
「そうですよ。誰かの目があるからこそ盛り上がるんじゃないですか。」
「今年こそのその醍醐味を味わうからな。お前休むなよ。」
「そうよ。そっちのが心配よ。風邪とか引かないでね。」
「このところ冷えますからね。心配だから一緒に寝ましょうか。」
また始まったぞ。魔女達は僕の予想の遥か上を進んでいた。
と言うか紹実さんはどうしていきなりバラスか。
実は魔女って性悪なんじゃないのか?
「それとなく言ったじゃん。それに最初からそのつもりだったって言ったろ?」
「何が不満なんだよ。」
それとなく。の意味が通じていなかった事が不満なんですよ。
「それとなく。なんて曖昧な事言うからだ。魔女のくせに。」
魔女の魔法は「曖昧」では意味がない。言い切る。断定。
なるほどそれで魔女達は皆揃いも揃って口が悪いように感じる事があるんだ。
皆正直者なのも時として無遠慮なその態度も魔女だからこそなのかも。
「ヘンな納得の仕方するな。」
「まあでもお前みたいな思考回路の魔女も珍しいかもな。」
「あ、それ私も気になってました。」
「理緒君て魔女のくせに魔女っぽくないって言うか。」
「いや明らかに魔女なんだけど普通の魔女とは違うなって。」
それは僕が男子だから。
「そうじゃないよ。」
「多分魔法に対するアプローチの仕方なんだろうな。」
「こいつずっと「魔法を科学的になんたらかんたら」言ってたじゃん。」
「そう言えば言ってましたねそんな戯言。」
戯言って。
「戯言だな。」
「そうだよ。科学で全部説明できたらそれってもうもはや魔法じゃないよね。」
そう言われると返しようがありませぬ。
「ただ理緒のその取組は結果的に魔法をより正確に強力に利用できるようになったから。」
「ケガの巧妙?」
「急がば回れ?」
「骨折り損のくたびれ儲け。」