132
結局すぐに女子会から追い出され工房に戻る。
紹実さんも「もう女子って歳じゃないからな。」と一緒に。
すぐにノトさんも「やれやれ」と言いたそうに現れる。
コーヒーを淹れて、この人とゆっくり過ごすのは本当に心地良い。
「やっぱり1人で行くのか?」
まあそうですね。その方が面倒が無くていいでしょ。
「結局最終的には全部お前に面倒な事押し付けた形になったな。」
母と縁伯母さんが荒れ果てた藪の草刈りをしてくれた。
碓氷先生と利根先生が道を作ってくれた。
道中はつ、姉さんと皆がいろんな敵から守ってくれた。
皆がどうして僕を守るのか不思議だったけど
僕には守られるような価値なんて無いってずっと思っていたけど
僕には僕の果たさないとならない責任みたいのがあって。
「まああまり気負うなよ?」
ですね。なるべく感情的にならないように。でも感情は殺さずに。
「時々お前が実は私より年上なんじゃないかって思うよ。」
何ですそれ
「道理を弁えているって言うか高校生のくせに妙に落ち着いていて。」
「実は何でも知ってます。みたいな事言うし。」
多分、祖母に育てられたからでしょうね。
今思うと何というか、経験に裏打ちされた言葉の重みみたいなのがあって
何を言われてもいちいち納得しちゃうんですよね。
まああまり細かい事言われなかったから印象に残っているってのもありますけど。
落ち着いていて思慮深くて温かくて。
どうして判らなかった。どうして気付けなかった。
本当の祖母だったのに。本当の家族だったのに。
どうしてもっと甘えなかったのだろう。
あの人はきっと、僕が「この人は他人だ」と心の中の声をずっと聞いていた。
それでも僕を愛し続けてくれた。
「それは婆ちゃんを称えるべきだな。」
判ってます。そうする事こそが僕を守る手段だった。
僕が気付くようなヘマはしない。そんな程度の魔女ではない。
「甘えたかった」なんて甘ったるい事を考えるより尊敬すべき対象。
「ああなんだ。そうか。」
「お前さっき私に気を使ってお姉ちゃんて呼ばないとかぬかしてたけど。」
「単純にお前が甘え方知らないだけじゃないか。」
バレた。
そりゃそうですよ。甘えた事なんて殆ど覚えてないし。
「まあなぁ。長い間ずっと自分は母親に捨てられたって思ってたんだもんな。」
「その原因をつく」
またそれ止めてください。
紹実さんは僕の命を救ってくれたんですよ?もっと威張ってもいいくらいですよ。
紹実さんこそ僕に気を使い過ぎですよ。
何だったら「私はお前の命の恩人だからな」くらい言って
あれしろこれしろって命令したりこき使ってもいいくらいですよ。
この人にそんな事言えるわけがない。
彼女はずっと僕に「申し訳ない」としか思っていない。
他の誰よりも責任を感じ、僕を気遣ってくれている。
でももう解放してあげないと。僕はもう大丈夫だから。
委員会の件が一段落着いたら卒業まで僕に魔女としての指南をしてください。
高校卒業したら、この工房はお返しします。
「そうか。」
「でも工房は返すとかそんなんじゃなくていいよ。」
「ここはいつでも私とお前の部屋だ。」
「好きな時に帰って来い。好きなように使え。」
ありがとうございます。
高校卒業後、僕は旅に出る。
今はまだ気付いていなが、その時この工房の存在はとても大きくなる。
紹実さんはどうするんです?
「どうって?」
僕が卒業すれば魔女達だって巣立ちますよ。
友維はもう一年いるとしてもその後静かになりますよね。
「おまえ達来る前まではずっと静かだったっての。」
「この数年が異常なの。」
まあそうか。
いやそうでなくて、とっと結婚でも何でもすればいいのにって。
「あ?相手は?居るなら教えろ。呼んで来い。」
いっ
「ホレ命令してやる。その結婚相手見付けて来い。」
美人だしスタイルいいし気前も気立てもいいし
イロイロ揃い過ぎて男性が遠慮するのか?
ちょっとしたきっかけがあれば呆気なく結婚とかしそうだけどな。
「私の事よりお前はどうなんだ。」
なんです?
「もうすぐバレンタインだけど、お前どうすんの。」
どうって。
「タイミング的に重なったりしたらそれこそただじゃ済まないぞ。」
え?何の?
「薫ちゃんが委員会の都合でこの日しか。とか言ったらどうすんの。」
どうって委員会優先でしょ
「そんなんしたらアイツら前もって委員会をぶっ潰しにかかるぞ。」
いやいやいくら何でも
「冷静に考えてみろ。アイツらだぞ?それくらいするぞ?」
あー・・・
シミュレーションするまでもない。やりかねない。いや「やる」。
じゃあその時は委員会さんに日程の調整を依頼します。
「そうしろ。」
「で?で?本命教えろよ。」
「今頃向こうもきっとその話だぞ?」
「藍か?桃か?それとももうちょっと我慢して佳純にするか?」
まったくこの人は。
「より取り見取りだからってフラフラしてると皆他所に行っちまうぞ?」
「アイツらモテそうだよなぁ。実際どうなんだよ。」
声掛けられたって話はよくしてますよ。
実際ラブレターとか貰ってるの見た事もある。
修学旅行中には全員告白されてたようだし。
本当に勿体ない。と言うか申し訳ない。
僕なんかのオモリで青春を無駄にしてしまって。
「何か自慢にしか聞こえない。」
「告白してきた奴よりお前を選んだだけじゃん。」
仮にそうだとしてもドーピングなんでよねー
僕が魔女じゃ無かったら見向きもされなかっただろうし。