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「ナニソレ。」
「そーゆーのいりませんよ。」
「待て待て。この指輪を作った魔女達は本当にそのつもりでそうしたんだ。と思う。」
危険な存在である魔女に、枷を付けた。
その有り余る魔力がゆえに力を封じられ、魔女として生きられくなった1人の少女。
ただ産まれただけで、「危険な存在」だと忌み嫌われてしまわぬように、
魔女の誇りさえ失ってしまわぬように。
魔女達はこの指輪に細工を施した。
意図的に指輪に小さな綻びを付ける。そして「まじない」をかける。
「この小さな傷から溢れた魔力によって、この魔女の周囲に幸せが訪れるように。」
少女の周囲には魔女が集まる。人々が集まる。
彼女の生涯は愛に包まれていた。
「あー。イイ話だー。アタシそーゆーのダメなんだよー。」
桃さんが泣き出した。
友維の周囲に人が集まるのってもしかして友維も似たような体質なの?
「私はお兄ちゃんほどじゃないよ。」
友維が海外に連れて行かれたのは僕から身を守るのと同時に
友維本人がその魔力を制御する術を身に付けるためでもあった。
「魔女の名家でお世話になった」のはこのためか。
製薬会社の人達にはもう一度お詫びと約束を告げた。
お役に立てそうな事があったら協力は惜しまない。
だから、「委員会」のような正体不明の組織には二度と近付かないで欲しい。
落胆した彼女達を慰めたのは縁伯母さんだった。
スイスのドコソコの何とかって病院のこの設備は私と主人が協力して開発した。
治療の際に必要な薬品は未だに研究の途中だ
「貴女達の協力が得られると嬉しいのだけど。」
3人は顔を見合わせ喜んだ。
「理緒君。しばらくは私や紬がその役目を負うわ。でもきっと自分でするのよ。」
ひぃっ
スイスて何語?
「この人達はドイツ語。公用語はたしか4つあるから。」
スイスだけで4つ?ナニソレ。
「あー心配すぎる。仕方ないから私が手伝うよ。まあダメな兄を持った妹の責任てやつだな。」
僕個人に関する話は済んだ。
僕が何者でこの指輪がどのような物なのか皆は理解しただろう。
製薬会社の3人が帰っても、他の皆が僕の言葉を待っていた。
でも僕はもう既に「自分が何をすべきか」を表明している。
碓氷先生もそれを承知してくれた。
「それで、一か所に集めたところでどうするんだ。」
皆が知りたかったのはこの事だろうか。
説得します。
魔女は脅威ではない。
言葉やそのイメージに捉われて魔女の本質を見誤っているなら
それを正さなければ同じ事が繰り返される。
「聞く耳持たなかったら?」
聞くまで続けます。
相手がどれほど頑固だろうと、どれほど偏見に満ちていようとも。
「1人ずつ洗脳すればいい。面倒なら消してしまえ。」
それでは「委員会」と何も変わらない。
僕達は、いや魔女は世界にとって脅威であってはならない。
「まったく魔女とは面倒な存在だ。」
吸血鬼はそう言って帰ろうとした。
ちょっと待ってください。一つだけお願いがあります。
「お願い?何だ言ってみろ。」
僕のお願いはその場の一同を一瞬凍りつかせただろう。
僕の意識や思想がどの方向を向いているのか見失ってもおかしくないようなお願いだ。
それでも僕にはどうしても必要な行動だと思えた。
それを知らなければ、僕はきっと何も知らないのと同じ事なんだと。
全員が戸惑う中、ただ一人「頼まれた」吸血鬼が笑った。
「いいだろう。いつでも来い。その時はお前の願いを叶えてやる。」
いつになるかは約束できません。でもその時は
「構わん。友の願いだ。」
彼が姿を消すと、紹実さんは「嬉しそうに」嘆いた。
「あーあ。理緒にアイツ紹介したのは失敗だったかな。」
「同じ吸血鬼なら王子様だったらこんな事にはならなかったのに。」
友維は結構本気で嘆いた。
何その王子様って。
「前に言ったじゃん。私がお世話になったとこのフィンランドの吸血鬼の王子様。」
「あれは素敵だった。兄ちゃんなんかメじゃないくらいモテモテだろうな。」
「何だったらここの連中だって。」
「それは無いわ。理緒君以外の男子目に入らないもの。」
また蓮さんはスゴイ事言い出すな。
「えーっと、また何か話が逸れてるけど。」
碓氷先生が珍しく困っている。
「時期とか場所とか私がセッティングしていいのか?」
構いません。むしろお願いします。
先生にはずっと頼ってばかりで
「やめろバカ。」
バカって
「私はお前の担任だぞ。生徒の悩みを聞いて進路のヒントを与えるのは私の仕事だ。」
進むべき路。
「ヨシノ、利根先生にももう一働きしてもうからな。」
「ええ。」
よろしくお願いします。
もう一度言いますけど、最優先は自分の身の安全ですからね。
最悪の事態になる前に僕を「売って」ください。
あ、もしかしたらそれが一番手っ取り早い方法かも知れませんね。
「私も考えなくも無かったけどな。でもそれだとマイナスから始まるぞ。」
マイナス?
「魔女に対する印象。」
それは問題ではありません。元々「敵意」がある人達ですから。それは覚悟しています。
「そうは言っても、理緒君をそんな敵意の中に放り込まないようにカオルンが整えてくれるわよ。」
「私に出来るのはその程度の事だからな。」
その程度、だって?