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ああそうか。
碓氷先生が利根先生に話をして委員会経由でこの人達を呼んだんですね?
「そうだよ。」
僕が吸血鬼の人形を燃やしたから。
僕が「真実」に気付いて、「覚悟」を決めたから。
この人達も含めて、何が「真実」なのかを明らかにしよう皆を呼んだ。
碓氷先生は僕が何かに気付いてから動いてくれる。
素敵な先生だ。
ありがとうございます。
「ちょっやめろ。」
「ダメよ。カオルンまで持って行かせないわよ。」
でも、僕のこれって生まれつきなの?あの物語の魔女のように。
「少し違うわ。」
「物語の子供は魔力が無尽蔵にあって的な設定だけど。」
「実際人の体力なんてたかが知れている。」
幼い僕が指輪をせずにいたなら、暴走どうこうする以前に
放出を抑える術も無く、干からびてしまっただろう。
それは誰にも判らない。前例がないのだから。
僕が「指輪」を所有する事で、それが是なのか非なのかも判らなかった。
「賭けに近かったわ。」
縁伯母さんが言った。
「紹実が手に入れた指輪を理緒君に与えて、それが暴発のきっかけにだってなり得た。」
「本当に良かった。」
指輪は「僕にとって」正しく作用してくれた。
水瓶から溢れる事なく魔力を蓄えつつ、それが漏れるのも防いでくれた。
やがて成長して僕の身体が「器」として機能を恥じたからこそ
指輪を外しても「暴走」する事なく、ただ溢れるだけにとどまった。
らしい。
恐ろしいのは次の一言だった。
「同時に、理緒は他の魔女から魔力を奪ってしまうの。」
指輪はそれを防ぐ役割が大きい。
指輪のない幼い僕、その失った体力を補おうと他の魔女から魔力を奪おうとした。
それは本能に近い部分だ。食欲とか。
自意識を持た今の僕なら、それは抑制できる。
修学旅行の時紹実さんが僕の実験を反対しなかったのって
「うん。それを確認したかったからなんだ。」
どうしてそんな危険な事を
「危険?いやいや確証があったからだよ。」
額に印が付いて指輪の効力が薄くなった時も
1日だけ友維に指輪を預けた時も何も起きなかった。
それに思い起こせばあの実験の最初の二日間、周囲に魔女はいなかった。
もしかして委員会が魔女狩りをするのも
やっぱり指輪の真実を知っているから?
「違う。」
「日本の委員会は単純に魔女に脅威を抱いている連中だよ。」
「もっと言えば人種差別主義者の集まり。」
中世の魔女狩りと言うより、ナチスによるユダヤ人の迫害に近い。
「魔女は我々の脅威になる。我々ってのは日本人全員て意味だろうな。」
委員会は、最初に流した「噂」を聞き、きっとそれを信じた。
「最強の魔女」
つまりそれこそが「委員会」の脅威。最大の敵。
その委員会の規模は?人数は?一か所に集められますか?
「お前。」
はい。これは僕の責任です。可能ならばその場を作ってください。
製薬会社の方には御足労をお掛けしました。
この指輪は譲れません。譲ってもお役にたちません。
ですが、魔女の技術がお役に立てるなら僕は喜んでお力添えします。
この時、母は泣いていた。
理由は知らない。僕の覚悟を立派に思ったのか、それとも愚かな選択だと嘆いたのか。
「ちょっと待ってよ。話が早すぎて追い付けないわ。」
3人の魔女は戸惑っている。やはり何も知らされていない。
元々この指輪がどんな物なのかは知らなかったから
隠していたわけでも騙していたわけでもないのか。
それは僕にとっても同じ事。
「この指輪は理緒を守る」
ずっとそう言われ続けていた。
ごめんね。僕もつい最近気付いたんだよ。
「何?何に気付いたの。」
僕はとても危険な奴なんだ。
母と祖母と紹実さん達がずっとそれを抑えてくれていたんだ。
「理緒君がアブイ人なのは知ってますよ。」
それちょっと意味が
「その指輪ってキャパどうなってるんです?一杯になったら。」
葵さんの質問は僕も聞きたかった事だ。
「とっくに溢れてるよ。」
紹実さんは簡単に言ってのける。
「理緒が指輪填めたまま壁抜けしたり吸血鬼燃やしたり。」
「それにお前達気付いて無いのか?」
「何を?」
「何です?」
「何の事だ。」
「額に印が付いた事があっただろ?」
あの時、皆は僕を「必要以上に」愛でようとした。
紹実さんと碓氷繊維が笑っていたのは
その効果以上に皆が僕に惹かれた事だった。
魔女達だけではない、他のクラスメイトですら僕を「チヤホヤ」したくらいだ。
「理緒を責めるなよ?コイツは知らずにやっているからな。」
ええっもしかして僕はずっと皆を「魅了」していたの?魔法で?
「だからずっと天然だって言ってるだろっ。」
友維。
友維は何処まで知っている?
「私は最初からずっと本当の事を聞いてたよ。」
当たり前だ。母は真実を語る。
母が友維を連れて行ったのも、友維を守るためだ。
「ああそれで話戻すけど。」
指輪の「魔力を封じ込める能力の容量はとっくに超えている。
この指輪が「祝福と長寿」と呼ばれる所以は
この指輪から溢れた魔力こそ
「愛だよ。」