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要は互いの勘違いからだ。
襲われた側は「魔女狩り」だと思い込む。
そしてその魔女達は口々に「御厨理緒」の名前を挙げる。
2人の魔女は
「御厨理緒こそ悪の魔女に違いない。」
共に旅をするようになった吸血鬼にその話をすると
彼は「それなら倒しに行こう。俺は吸血鬼だ魔女の攻撃は効かない。」
(もっともこの時点で「じゃあどうして魔女の仲間を集める」のか気にすべきだ)
「で?その2人の魔女はどうしたの。」
「卒業旅行の続きをするって。」
説明するの大変だった。
誤解が解けるとあっさりと引き揚げた事に少々戸惑いもしたが
「素敵な魔女達に会えたしね。当初の目的は果たしたわ。」
「元々私達は外の魔女に会いたかっただけだから。」
本物の魔女狩りが現れたら連絡してね。力になるからと連絡先を交換した。
「不思議なのは。」
「理緒君を狙って現れる魔女達がいつもいつもあっさりと信じちゃう事なのよね。」
「それは私も思ってました。でも今回は特に。」
2人はむしろ「正義の味方」のつもりで僕達の前に現れた。
僕達の説明が「嘘」だとは思わないのだろうか。
良くできた作り話だと疑われてもおかしくは無い。
「何言ってるんだ?」
「おまえ達理緒が何者なのか忘れていないか?」
は?
紹実さんは何も言わなかったが
(僕の正体の事ではない。そもそも僕に正体なんてない)
話を聞いてその吸血鬼が「偽物」なのは判っていただろう。
そしてそれが誰の「人形」なのかも知っている。
僕の推理(?)が正しいなら、これで委員会は大人しくなる筈だった。
だが事態はさらに急展開を迎える。
3日後。午後の授業中にメールが届いた。
「学校終わったら関係者全員揃えて帰って来い。」
関係者て誰だ。3人と鏑木姉妹。それから桃さんとグレタも?委員長は、違うよな。
帰宅すると玄関には既にたくさんの靴。声のする広間に入ると
母と、縁伯母さん。そして吸血鬼。
碓氷先生と利根先生もすぐに現れた。
そして見知らぬ外国人女性が3人。
「おかえり。」
「とりあえず荷物置いて座れ。」
言われるままに席に着いた。
どうやら主役は僕だ。
するとこの三人は製薬会社本部の人。
「さすがだ。やっぱりお前魔女じゃなくてエスパーだろ。」
碓氷先生は場を和ませようとしてくれている。
目的は指輪なのは間違いない。
でも大人しく話し合いに現れたのはどうして?
あ、先日のアレか。吸血鬼燃やしたのを見たのか。
3人の女性は顔を見合わせて驚いている。
「では私達の目的もご承知の事かと思います。」
指輪。
それは最初から今まで何も変わらない。
「指輪を譲ってほしい。せめてお貸し願いたい。」
「多くの命が救える可能性を秘めている。」
「指輪だけをお借りできないのであれば御厨理緒様ご本人も一緒に。」
「指輪の力を受けていればお体には影響がない筈です。」
誰かに聞いたのではなさそうだ。観察の結果至った仮定だろろう。
僕は決断を迫られている。
そして皆は僕の答えを待っている。
指輪だけではなく、僕個人も一緒に来てくれ。と言い出す事までは想定していなかった。
「私達が賢者の石を求めるのは私利私欲ではありません。」
「1人でも多くの命を救いたいから。」
製薬会社に勤務するような人だ。その言葉に嘘は無いのだろう。
紹実さんや母親達がこの3人を屋敷に招き入れたのもそれが判ったから。
「理緒君。」
蓮さんが心配して声を掛けた。
「私も行きますからね。」
藍さんが宣言してくれた。
その必要は無いよ。
「この人達が信用ならないとか言っているんじゃありませんよ。私が」
いやそうじゃない。僕は何処にも行かない。
僕を守るためにいつも傍にいてくれた魔女達は驚いた。
僕ならば、間違いなくこの人達に付いて行くと思っていた。
残念だけど。この指輪は賢者の石ではありません。
随分前から知っていた。
グレタの物語を聞いてそれを確信した。
「魔力を封じる指輪」
グレタの「お話」の前半部分こそが真実。
後半はきっとその後創作され物語。
母が指輪を与えたのも
ずっと田舎でひっそりと祖母に育てられたのも
他人から姿が見えなくなるのも
僕が危険な存在だから。
紹実さんの言った「最強の魔女」はずっと事実を語っていた。
指輪をして神社に行くと頭痛がするのは
神社の力に対して指輪が防御しようとするから。
指輪を外して神社に行くと「持って行かれそう」になるのは
神社が僕自身を「危険」な存在だと判断するから。
この指輪は、僕が誰かを傷付けないためのもの。
僕は母と祖母によって「魔女の正当性」を教育された。
体力が無いのも、体力を付けさせないようにしていたからかも。
今になって道場でイロイロ教わっているものの、
全て「攻撃を受け流す」動きだけ。
僕は攻撃の手段を一切習っていない。
それは僕が危険な存在だから。