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2人の魔女が現れたのは2月になってすぐだった。
世間がバレンタインムードになって
僕の周囲の魔女達も「今年こそはっきりさせましょう」とか言い出して
何がどうなってそうなったのか判らないのだが
「勝負よ。」
と、盛り上がっていた。
土曜日の寒い朝だった。
その日は朝から葵さんの母親のお見舞いに行った。
鏑木姉妹は家の用事で一緒ではないが今夜の三原家での鍋会には出席する予定。
桃さんは「補習」で午前中は学校。同じく夜の鍋会には出席する予定。
葵さんは病院に残り母親と過ごして、午後は家で掃除やら父親の面倒やら。
「今夜は家で父親と過ごすよ。」と鍋会は不参加。
残念だが仕方ない。と言うか、僕は再三葵さんにしばらく家に戻ったらどうかと話をしていた。
護衛は2人がいてくれる。友維もいる。
母親の事があるから家の事がいろいろと忙しいだろう。父親の世話もある。
「いやそれが。」
「父親にそれを話したら怒られたんだ。」
「俺は自分の面倒くらい見られる。母さんの面倒だって見られる。」
「お前はお前のすべき事をしろ。って。」
とは言ってもたまの週末だ。その父親にゆっくり過ごしてもらおうと帰宅する。
その葵さんと病院で別れ、何処かでお昼を済ませて鍋の食材を買って帰ろう。
そんな話をしながらの道中だった。
背中がゾクリとした。
本当に、紙一重だった。
僕にどうしてこんな事が出来るのか、どうしてこんな事をしたのか判らない。
僕は皆の周りに結界を張った。
殆ど同時にその結界が炎に包まれた。
人通りの少ない場所とは言え、こんな街中で危険な魔法を使うなんて。
魔女以外の人が巻き込まれてしまったら
「いいのよ。貴方の所為にするから。」
2人の魔女。
そして、その後ろにもう1人。誰だ。いや何だ。人、なのか?
「驚いたようね。彼はヴァンパイヤ。不死のモンスター。」
その説明の最中に、友維が突っ込む。
「まったく。」
藍さんは周囲に結界を張り直した。
直線的だが、おそらくその吸血鬼が普通の人なら友維を見失っただろう。
友維は二度三度フェイントで身体を振り後ろに回り込み
吸血鬼の背中に渾身の一撃を叩きこむ。
「オラァ」
その拳は、吸血鬼の背中を貫き、同時に炎をあげた。
内側から燃やす。
紹実さんから聞いた話をそのまま
だが吸血鬼は止まらなかった。
「友維っ」
僕は吸血鬼の動きを止めた。
「このっ」
友維は飛び上がり、その顔を横から蹴る。
燃えながら転がる吸血鬼。
「そこで寝てろ。」
グラリと天地が揺れたが大丈夫。あの時程ではない。
慣れか。
呆気に取られたのは2人の魔女だった。
蓮さんがその隙を見逃す筈はない。2人の背後から動きを封じている。
だが、まだだ。
炎に包まれた吸血鬼が起き上がる。
やっぱり。
あれは吸血鬼だが吸血鬼ではない。
「紛い物」
友維はさらに炎の拳を叩きこもうとする。
止めろ。
「え?」
僕がやる。
これは覚悟だ。2人の魔女狩りに対する見せしめでもある。
僕は吸血鬼の前に立ち、「見失っている」その人形に手を添えた。
どうして僕にこんな事ができるのだろう。
一瞬でそれは燃え上がり、灰になった。
2人の魔女に向き直り、
さあ、全部話してもらおう。
怯える2人の魔女に歩み寄る。
「聞いてないわよこんなの。」
「お前何だよ。何なんだよ。」
「僕は魔女を守る者。君達も僕が守ろう。」
「さあ、ワケを話てごらんべいびー」
ベイビー?
「こっちにおいでべいびー。さあ僕の膝の上に乗って。」
なにそれ。膝の上に乗せて何するの。
蓮さんと藍さん。友維までもがやや興奮しながら話している。
2人は冬休みを利用して旅をした。
「卒業旅行って言ってたわよね。」
「他の魔女に会ってみたい」
2人はとてもとても田舎に住んでいた。
電車で街に出ても他所の魔女に出会った事もない。
旅に出てすぐの事だった。
2人は異質な存在を目にする。恐怖と興味。
「それがあの吸血鬼よ。」
吸血鬼は「魔女を探している。」と言った。
「吸血鬼が魔女を探す理由」は本人達が言った通り
「悪い魔女を懲らしめる」ためだった。
魔女狩りをしたのも本人の言ったように「強い魔女を探しているから」でしかない。
「力量を試した」のも事実だった。
タイミングの悪い話だ。
魔女狩りに対して過敏になっている時期に突然現れて襲われたら勘違いする。
2人は「自分たちの知らない世界で魔女が大変な事になっている。」
と(ある意味事実だか)思い込み、吸血鬼に協力して魔女を探し仲間にしようとした。
そして僕の名前を耳にする。