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放課後
日直としての仕事が終わり職員室に日誌を届ける。
碓氷薫は何故かニヤニヤしている。
「なにかあったのか?」
薫ちゃんはどうやら僕の後ろに立つ宮田桃の顔を見てニヤニヤしているようだ。
「余計な事を言ったらどうなるか判っているだろうな」的なオーラは振り向かずとも判る。
いえ何もありません。
「宮田の顔の説明になっていないぞ。」
察しろ。
いいえ何もありません。では失礼し
「こいつにキスされた。」
ええっ
「は?」
ちっ違うっ。されたのは僕だ。
「待てっ待て待て。ちょっと来い。」
職員室内の応接セット。
2人並び座らされる。
「詳しく話せ。」
「こいつにキスされた。」
いやだから僕がされたんだって。
「無理やりさせられた。」
いやいやいや。強要なんてしていないっ。
「だってコイツにキスしたら最強になれって言われたらするだろ。」
碓氷薫は先ず呆れ、大笑いして
「何処から聞いた話だよ。」
宮田桃が言うには数日前から流れる噂で、
美少女3人に囲まれた男子がその対象となっているらしい。
「何処の誰」とはっきり明言はされていない。
「私の噂とは少し違うなぁ。」
「理緒の指輪に忠誠を誓ってキスすると最強の魔女をになれる。」
相手は「魔女限定」である。
宮田桃は魔女ではない。
いやまあ魔女であろうとそんな事実は存在しない。
「どっちも災難だったな。事故だからお互い数に入れるな。な。」
半笑いの碓氷薫。何の説得力も無い。
対して宮田桃の落ち込みは半端無い。
殺気を纏った赤い炎のようなオーラから
一転ドス黒い負のオーラへ。
何か事情があるなら
「うるさい。お前には関係ない。アタシは強くなりたいだけだ。」
殆ど話した事も無い相手。
知り合って数日の得体の知れない奴に、
ファーストキスを捧げてまでも強くなりたい理由。
宮田桃は何に怯えている?
教室に戻ると日直終わりを待つ3人がいる。
「薫ちゃんと随分長い事話しこんでいたみたいだけど?」
あ、いや。ちょっと日直の事で。
音楽室の一件は無かったことにしよ
「こいつにキスされたって言ってたんだ。」
なんでバラすかー
「何やってんだお前っ」
「さいってい。」
ちょ、ちょっと待って。されたの僕だから。
慌てて宮田桃を見ると
「フン。黙ってされるお前が悪い。」
なんだと。
「宮田さん。なんでこんな子とキスなんかしたの?」
こんな子?
「噂だよ。私の通う道場で聞いた。」
どうしてそんなあることない噂が広まった?
「指輪の部分を消して噂広めたのは私だけど魔女の部分は勝手に消えたみたいね。」
何?
あまりにサラリと言うので聞き流すところだった。
神流川蓮は一体何をぬかしやがっている?
「指輪の存在も極力抑えて挙句怪我をする心配もないでしょ。」
それじゃ今まで僕を襲った魔女って皆僕の唇目当てだったの?
「平和的でいいじゃない。」
平和?
宮田桃の蹴りを喰らったのに平和?
「そんな事よりどうしてこんな子とファーストキスしてまで強くなりたいの?」
そんなこと。
「理由なんてない。アタシはただ強くなりたいだけだ。」
「あなた今でも充分強いでしょ。」
「判るのか?」
「ええ。私ね、ああまあこの話はいいわ。とにかく私の一族はそーゆーの判るのよ。」
「とにかくワケを教えてよ。」
さっきも言ったように僕で役に立てるなら協力する。
力になれるとは限らないげど
一緒に考える事はできる。
それに大体僕だって奪われた側だ。理由を聞く権利くらいあると思う。
結局宮田桃は何かと話を逸らして本当の理由は語らなかった。
のだが
「お前、アタシのファーストキス奪ったんだから責任は取れよ。」
責任?
「きゃーっ告白?ねえ今の告白?」
「だ、大胆だな。」
「違うっ。友達からだっ。いきなり恋人面なんかさせるかっ」
奪われたの僕なのに。