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「1年間何の進展ありませんよね。」
あってたまるか。ないように努力している。それはもう本当にギリギリの闘い。
「本当はやっぱり私の事嫌いですね。」
本当は?やっぱり?
僕は藍さんに「嫌われている」と思われてしまうような言動をしたのだろうか。
僕は藍さん好きだよ。
「っ。貴方やっぱり頭オカシイでしょ。何でそんな顔して言い切っちゃうんですか。」
そんな顔って何だ
「ホントに。だから皆本気にするんですよ?」
「あなた自分が何しているのか判ってませんね?」
何に怒られているんだ?
「私達魔女は小さい頃からずっと虐げられてきました。」
「ただその事実だけで言われなき扱いを受けてきました。」
「どうして貴方はそうしないんです。」
藤沢藍は何を言いたいのだろう。
それは、僕が魔女の子供だから。
身近にずっと魔女がいて、それが当たり前の生活だったから。
「怖いでしょ。恐ろしいでしょ。」
「魔女なんて何しでかすか判らないでしょ。」
魔女じゃなくても怖い人はいる。何しでかす判らない人はいる。
「魔女だから」ではない。
僕の出会ったは魔女達は素敵な人達ばかりだ。
藤沢藍を含めた3人の魔女は僕を己の命を削り守ってくれている。
尊敬と、感謝しかない。
藤沢藍が言いたい事は何だろう。
「こうやって私が胸倉掴んだって全然指輪反応しませんね。」
反応する理由がない。
藤沢藍から恐怖や脅威を感じた事は一度たりとも無い。
警戒する必要も拒絶する理由も皆無。
「だから簡単に奪われるんですよ。」
藍さんはグイと僕を引き寄せ、自分の唇を重ねた。
ドンッと突き放して
「私の事好きになっても無駄ですよ。」
「どうせ委員会とやらの件が片付いたら離れ離れになるんですから。」
「そうなったらもう顔も合せる事も無いでしょうしね。」
判っている。
そんな事言われるまでもない。
だから誰も好きにならないようにしているんた。
藤沢藍は僕に何を伝えようとしているのだろう。
大晦日の朝は何とも言い得ぬ空気が小室家の食卓を包んでいた。
藍さんは寝起きから不機嫌で
僕が起きた時には既に小室母と朝食の支度を手伝っていた。
元々口数は多く無いし、蓮さんと異なり進んで僕の隣に立とうともしなかったから
普段と変わらないと言えば変わらない。
小室家の面々にはとても穏やかに挨拶をするので
食卓につくまでは誰も何も「オカシイ」とは思わなかった。が
隣に座る僕に対して完全に無視している様子はやはり気付くのだろう。
小室母がニヤニヤしながら
「ケンカでもしたの?」
と聞いて来た。
「いえ?普段からこんな感じですよ?」
と言ってのける。
「そうなの?」
え?はい。まあそうですね。
いっ
足の甲に痛みが走った。
踏まれた。しかも踵で。踏まれたと言うより蹴られた。
何なんだ?
絢さんまで「クックッ」と笑い始め
「本当に嘘吐くのヘタだなお前。お前だお前。」
「箸で人指さないでください。」
「理緒より嘘吐くの苦手なんじゃないか?」
「嘘なんて吐いてませんよ。」
「まあ正直者なのは認めるよ。」
何だこの空気。
食事を終え、荷物を詰め込み橘家へ。
橘さんと父親、南室綴さんのご両親が作業に追われていた。
(南室綴さん本人の姿は見えなかった)
「理緒君。ゴメンね佳純ちゃんは境内にいるからそっちのお手伝いお願い。」
はい。
「おかしいと思ったらすぐに撫でてもらうのよ。」
「藍。お前も掃除手伝ってくれ。道具持って行くから先行って佳純探してくれ。」
「判りました。」
神楽殿で箒を持っていた佳純ちゃんを見付けて声をかけようとした。
が、声が出ない。それどころか一瞬身体の力が抜けてフラリとよろけてしまった。
「ちょっ」
藍さんは慌てて駆け寄り支えてくれた。
ああごめん。大丈夫。躓いただけだから。
ギッと僕を睨んで、脇腹にグーパンチした。
「ええっ。何で殴った?藍は何で今理緒を殴った?心配して支えたんじゃないのか?」
掃除道具を持って後を追って来た絢さんが驚いた。
「心配して支えましたよっ。それが何だって言うんですかっ」
うぅっ、何で僕が怒られ、あ
藤沢藍が泣いている。
「理緒、お前佳純に撫でて貰え。」
え?はい。
「藍。ちょっと来い。」
「どうしたんだお前。朝からおかしいぞ。」
と、拝殿の向こうに2人で歩いて行った。
佳純ちゃんは僕の頭を撫でながら
「どうしたの?ケンカしたの?」
それがその、よく判らないんだ。
「ふーん。」
「ニヤリ。」
「こっそり聞いてみよっか。」
佳純ちゃんてこんな子だったの?
「面白そうね。」
うわっ橘結さんいつ来たんだ。