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初日は小室さんと、2日目は橘さん。3日目は紹実さんと
「何それ。」
「年上?年上が好みなの?」
年上?何?昨日は友維と
「お前の言ってた予定ってデートだったのか?」
え?いや違う。結果的にそ
「最低。」
「紹実ちゃんと友維ちゃんはまあいいわ。でも小室さんと姫様は何。」
何って。
「どうやって誘ったのよ。」
いや誘われたんだけど。
「はあ?有り得ない。」
有り得ないって何だ。
「今日は私達とデートしなさいよ。」
今日?これから?皆旅行終わりで疲れて
「明日実家で休むからイイわよ。お土産持って行かないとだし。」
5日連続でショッピングモール。さすがに飽きる。
そしてまたこの店か。店員さん休みならいいのに。ああいた。
「あっ」と嬉しそうな顔をして僕に声を掛けて
今度は3人も引き連れている事に驚く。
見逃さなかった蓮さんが問いただすと店員さんは嬉しそうに連日の事を話す。
「なんて図々しい奴だ。」
「よくもまあ理緒君如きの分際で絢さんに意見できましたね。」
意見なんてしてない。
「挙句姫様にまでチョッカイ出すとか本当に信じられない。」
またもファッションショーの開催です。3人分。
ああ疲れた。
魔女達は体力あるなぁ。
彼女達は夕食前にそれぞれの実家に向かった。
藍さんだけは「少し遅くなるけど帰ります。」と言って出掛けた。
泊まってくればいいのに。
「お土産渡すだけですから。それにあの家にはもう私の」
判った。待ってるよ。気を付けてね。
「いいですよ待ってなくて。じゃ。」
疲れたのは指輪をしていないからではない。
彼女達は何も言わなかった。何も尋ねなかった。
それどころか僕が謝る機会さえ与えてくれなかった。
後に判るのだが、碓氷先生が気を使ってくれていた。
出発の集合から不機嫌な3人に
「理緒は何を言ってお前達を送り出したんだ?」
「僕の事は忘れて楽しんでこいとか言ったんだろ?」
「どうして判るのよ。」
「あいつがずっとそれを願っているのお前達だって何度も聞いてるだろ。」
「私は、私達は理緒君と一緒に修学旅行に行きたかったのよ。」
「自分達の都合ばかり押し付けるな。アイツの気持ちも汲んでやれ。」
「まあそれに、アイツだって1人になりたい時くらいあるだろ。」
いやまあそりゃあるがこの人の言い方はイチイチ何か引っかかるんだよな。
僕が修学旅行に参加して、万が一にも指輪が狙われたりしたら?
最悪指輪が奪われてしまったら?
碓氷先生は「アイツはそれを考えて」と言ってくれた
指輪の事を心配して、魔女達を心配して1人気に病んで
僕はきっと修学旅行を楽しめなかっただろう。
そして碓氷先生もその事に気付いていた。気付いていながら皆に話してくれた。
「理緒が楽しんで来いって言ったならそうしろ。」
「たくさん楽しい思いをしてたくさん土産話をしてやれ。」
「んで「今度は僕も連れてって」と言わせてみろ。」
それは指輪がそうさせたのか判らないのだが
指輪をしていたなら防げたのかも判らない。
この日の夜、夢を見た。
殆ど覚えていないのだがとても気分の悪い夢だった。
よりにもよって魔女達が僕の敵になっていた。
3人の魔女からとても酷い扱いを受けた。ような気がする。
誰だったのか判らないが、最後は女性が
僕の首に掛かったままの指輪に指を通し、
その手を握ると同時に指輪はチェーンから外れ
気味悪く笑う口元だけが見えて、目覚めた。
かなり早い時間だった。
まだ薄暗く、誰も目覚めていない朝。
息苦しくなって庭へ出て、風に当たりたくなって外へ出た。
耳鳴りがする。頭も少し痛い。
気が付くと、僕は神社の境内に立っていた。
どうやってここまで来たのか
いつから、いつのまにここにいるのか。
橘佳純が金曜日の夜に夜更かしして土曜日の朝寝過ごして
その罰で日曜日の朝から境内の掃除を1人で任されていなければ
彼女が倒れている僕を見付けるのにもう数時間遅くなっていた。
「それは多分致命的な時間経過。」と後に紹実さんは教えてくれた。
かろうじて僕が生命を繋ぎ止められたのは、橘佳純の寝坊による。
魔女達が僕の敵だったと確信した始まりでもある。
境内で倒れている僕を見た佳純ちゃんは音楽プレイヤー代わりにしていたスマホで父親を呼び寄せ
父親が僕を担いで戻り、橘さんは紹実さんに連絡をした。
指輪を持って到着した頃には橘姉妹のお蔭で僕はもうすっかり落ち着いていたが
呼吸が浅く、意識も無く、橘さんが言うには
「取り込まれそうになっていたのを佳純ちゃんが防いだ」らしい。
その「身を挺した」応急措置が無ければ僕は今頃何処にもいない。
指輪を外した僕が神社を求めたのかそれとも神社が僕を呼んだのか。
朦朧としている僕の枕元で橘さんが紹実さんに詰め寄っていた。
「紹実お姉ちゃん。まだ言って無い事あるよね。」
「ある。ごめん。」
「何。ちゃんと言って。理緒君も佳純ちゃんも危なかったのよ。」
「他の奴らにはまだ言わないでくれ。理緒本人にも。」
2人は席を外してしまった。
隠している事って、何だ?
信頼の根源である「三原紹実」が僕に何かを隠している。
これがきっかけだった。
僕はまた「僕だけが何も知らない」状態に追いやられた。