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疲れていたのだろう。三人は中々起き出して来なかった。
その間に友維が姉達の旅行中の洗濯を一手に引き受けていた。
「下着とかあるのに手伝わせるわけにいかないだろ。」
まあそれもそうか。
それじゃあ買い物に行ってくる。胃腸も疲れているだろうから
消化に良さそうな物を買ってこよう。
朝食と言うより昼食になりそうだな。
スープとヨーグルトくらいか。
夕食は温野菜とか。ああクリームシチューにしようか。
「待てよ。私も行くよ。」
折角友維が張り切ってるのだから紹実さんはゆっくりしてればいいのに。
「いいじゃん。デートの続きしようぜ。」
と言ってもスーパーで買い物するだけ。何か話ておきたい事がある?
その予想は当たっていた。
そしてその内容は、結構深刻だった。
昨日の夜、縁さん(紹実さんの母親)から連絡があった。
「委員会は日本での活動を正式に認めた。」
何を言っているのかイマイチ判らなかった。
だが以前代理の担任教師が言っていた。
「日本と欧州の委員会は直接の繋がりはないかもしれない。」
縁さんのもたらした情報はつまり
日本の委員会は独自の組織ではない。
過去はそうだったかもしれない。だが今はより大きく危険な組織の一部だと認識しなければならない。
それは縁さんや僕の母が必死に立ち上げた「委員会」に対抗する組織の圧力から逃がれようと
遠いアジアの島国に拠点を増やしたと考えられる。
元々あった日本の委員会を統合するのか、全く別の組織なのか定かではないが
どちらにせよ、日本の魔女の敵だ。
同時に
「母2人はしばらく帰れないから皆で何とかしろってよ。」
勿論紹実んさがリーダーだろうな。
「頼むぞ。」
はい?
え?何を頼まれたんだ?何か聞き逃したか?
頼むってな
「ところでお昼何にするんだ?」
え?ああいやスープとヨーグルトくらいにしようかと。
「間違いなく2時3時にお腹空いたコールが起きるな。」
おやつも買っておきましょうか。プリンとか。
「いいでおじゃるな。」
買い物を済ませた帰り道、紹実さんは不意に一言。
「私達が守る。必ず。」
いやですよ。やめてくださいそんなの。
冗談じゃない。僕の事なんてどうでもいい。
狙われるのは魔女だ。僕に構って自分の身を危険に晒すバカな真似はやめてほしい。
「バカな真似って何だよ。」
先ずは自分の身を守ってください。僕の事はその後でいいですから。
「それじゃ指輪を付けろ。」
状況が変わり呑気に「体調の変化」を観察している余裕は無い。
僕の身体に気を使うような無駄な注意は邪魔だ。
「それで少しは体調の変化はあったのか?」
少し。
今朝起きてから何となく違和感。
まだ本当に「何となく」でしかない程度。
意識しないと気付かない程微小な変化。
「少しって?」
うーん。紹実さんは朝から僕見てて何か気付きました?
「え?見た目?」
一歩先回りして僕を眺めるが
「いやあワカラン。いつもの理緒だな。ちょっと髪が伸びた?」
怖い。呪われた日本人形みたいなのやめて。
「何だよ少しって。」
だから気付かない程少しですよ。
「全然判らん。何。」
えーと、朝顔洗って鏡見たら違う人が写ってるかと思ったんです。
「そっちのが怖いわっ」
もう一度顔を洗い、鏡を見直すといつもの自分に見えた。
「目にきたかな。」
身体の異常は感じない。もしかしたら末端から痺れたり、力が入らなくなったり
突然倒れてしまったり。そんな事も考えていた。
だが一向に何も起こらない。今日になってようやく「もしかして」と思われる症状。
だからせめて明日まで様子を見たい。
「まあ明日日曜日だしいいだろ。」
「絢と橘には私から話しておくから。」
直接話しますよ。僕がめい
「私に話をさせろ。な。」
結局2人にその話をする機会は無くなった。必要が無くなった。
帰宅すると3人の魔女が起きてはいるがグダクダしていた。
「お腹は空いているけど食欲が無い。」と揃って言った。
スープを出すと喜んでくれた。
「あー温まる。」
「何かこう家庭の味がするよな。」
「まったく今度は母親気取りですか。」
気取ってねぇ。
デジカメをテレビに繋げて旅行の写真を見ながら土産話を聞かせてくれた。
楽しそうだ。
出発前に言っていたように、現地では「班のみ」の行動は全く無いようだった。
別の班だった委員長とグレタも、隣のクラスのリナさんもいる。
藍さんの映りが少ないのは撮影者だったんだろうな。
僕が話をした事の無いクラスメイトと一緒に笑っている。
「リナちゃん告白されたんだってよ。」
「葵ちゃんも声掛けられてましたよね。」
「藍ちゃんは聞くくらい聞いてあげなさいよ。」
「酷いんだぞコイツ。「藤沢さん。ちょっといいで」「イヤです。」だぞ。」
1年半を経て、3人の魔女達はようやく「普通の」女子高生になった。
やれやれ、とホッとしたような気分になったが母親を気取っているつもりはない。
「一緒に来たかった?」
「病欠で休んだ事にしたんだろ?4日間何してたんだよ。」