候補2 冬場 白
4限目の授業も終わり昼休憩。
「おーい、明!飯にしようぜ!!」
そう声をかけてきたのは2つ右隣の席の友人である田丸 祐也だ。
高校に入ってからの付き合いで1年の時に席が隣だったという理由で仲良くなった。
2年でも同じクラスになるとはこいつとは何かしらの縁があるのだろう。
「わり、今日朝色々あったから飯買ってくるの忘れたんだわ。だから今日は購買なんだ」
「そうなん?じゃあ俺もジュース買いについて行こうかな。んで戻って一緒に食おうぜ!」
「了解、じゃあ行きますか」
俺と田丸は購買に昼食を買いに行くために教室を出た。
英立学園の校舎は3階建ての校舎が横に3つ並んでおり、その一番北側の校舎の向かい側に食堂と購買が入っている建物がある。
田丸と昨日見たお笑い番組の話だとか、今週の漫画雑誌の話をしながら購買へと向かっていると、ある教室の前を通りかかった途端、
「見つけたーー!!!」
という甲高い声が右手から聞こえた。
何事かとそちらを向くと……あー、はい。
完全に忘れていましたよ。
そうでした。購買へ行くには保健室の前を必ず通らなければならないんでした。
それはつまり……
「新庄!!さっきはよくも騙してくれたわね!!私のおっぱいが飛んでいったなんて嘘を!!」
鬼のような形相を浮かべた元巨乳美人の小保方先生が保健室の扉に張り付いていた。
……完全に恐怖映像である。
そして保健室の扉を勢いよく開け、ジリジリとこちらに近づいてくる。
「え?え?小保方先生どないしたんですか?おっぱいが飛んでいったって一体……あれ!?先生の巨乳がなくなっとるじゃないですか!?」
田丸も気がついたようだ。
男子生徒なら小保方先生を見ると必ずそこに目がいく。
しかし今の先生を見てもただのスレンダーな小柄な女性としか思わないだろう。
「ええ、そうよ。そこにいる新庄に盗まれたのよ。私が倒れている間にね……」
「んなアホな……」
流石田丸。そんなバカな話を信じるはずもない。
いや、こんな話を信じるバカがいるならば俺の前に連れてきてほしいくらいだ。
……さて、そろそろ……
俺は小保方先生と田丸に背を向け、地面を蹴った。
「田丸すまん!!飯は1人で食ってくれ!!それじゃあ!!」
「あ!!新庄!!逃げるんじゃないわよ!!私のおっぱいを返しなさい!!」
2、3秒遅れて先生も俺を追いかけるために走り始めた。
休憩時間の廊下だ。
生徒と生徒の間を潜り抜け、俺は学校中を逃げ回る。
その間も先生がおっぱいおっぱい叫ぶもんだから、他の生徒たちの注目の股になってしまっている。
最悪だ……
しかしそろそろ逃げ始めてから10分が経とうとしているだろうか。
息が上がり始めた。
弓道部は一応運動部だが、基本的に走り込みとかはしないから体力はつかない。
故にもうしんどい。
小保方先生は理性を失っているからか、全くスピードが衰える様子もない。
……くっ!!万事休すか!!
「新庄、こっちだ」
曲がり角を右に曲がった途端、俺の左手を誰かが引っ張って教室内に引き摺り込まれた。
そしてそのまま教室の扉が閉められる。
先生の足音が遠ざかっていくのが聞こえる。
「……助かりました。冬場先輩」
そう俺の手を引っ張ってくれたのは、3年生の冬場 白先輩。
腰まである綺麗なストレートの白髪。
胸は薄いが身長が高いので、どこぞのモデルのような体型でその美しく、落ち着いた態度から男子の憧れの的である。
そして俺の中学の頃からの先輩であり、俺にとっても憧れの人だ。
「いやなに、何やら廊下が騒がしいなと思っていてね。不意に外を見てみれば、君が先生に追われていたから少し助けてやろうかと思ったまでだよ」
「本当に助かりました。あの人体力が無限にあるのかいつまで経っても追いかけてくるから困ってたんですよね」
「新庄は知らないのかい?小保方先生はああ見えて大学陸上界では有名な選手だったんだ。持久力ではまず君では勝てないだろうね」
そんな話は一度も聞いたことがない。
しかしあの無尽蔵な体力をみればそれは納得だ。
「で、君は何故先生から追いかけられていたのかい?やたら廊下からおっぱいおっぱいと聞こえていたが」
「ああ、それはですね……」
俺は今日の朝からのことについて、先輩に報告した。
もちろんエルディのことや寿命2年のところは伏せてだが。
「……ふむ、それは興味深い話だね。たしかに先ほどチラッと見えた小保方先生の胸元には揺れるものがなかったように見えた。しかしあのいまわし……巨乳がそう簡単になくなるものだろうか。パッドだったということか?」
冬場先輩は顎に手を当てそんなどうでもいいことを真剣に考え始めた。
「いや、あれはパッドじゃないですよ」
俺がそういうと空気が凍った。
そして冬場先輩が俺を睨む。
「……どうして君が確信を持ってそういうのかな?」
……やったったぜ。
あの保健室のGカップブラを見たからなんて言えるわけない。
しかし、他に説明のしようがない!!
なにか……何かいい言い訳はないのか!?
「正直に言えば、何もしないであげるけど?」
「保健室で小保方先生にブラを見せつけられました」
「先生、ここに新庄がいるぞ」
ちょっと!!先輩!!
なんてことを!!
「そんなところに隠れてたのね……新庄……くん?」
ひいいいいい!!
扉にゾンビのような先生がーー!!!
俺は逃げるために立ち上がり足を進めようとすると、その足に手がかけられた。
「逃げようなんて考えてないかな、新庄?ちゃんと説明するまでは逃がさないから」
冬場先輩もですか!!
あーもう!!どうにでもなれ!!
俺はその後あえなく小保方先生に捕まり、2人がかりで小保方先生のおっぱいについて問いただされることになった。
……結論から言うと、おっぱいは取れない、奪えないという至極当たり前の結論に至ったのだが、そうなるまでは幾分か時間がかかってしまった。
冷静になった先輩は、
「私はどうして胸が取れるなどと考えてしまったのだろうか」
なんて言っていたが、こっちが聞きたいくらいだ。
それはさておき、この冬場先輩も俺を殺すであろう1人だ。
たまたま委員会が一緒だったという理由で仲良くなったのだが、なにかと可愛がってくれるいい先輩だ。
俺がこの学校を受験しようと思った理由の一つにこの先輩がいるからというものもあった。(まぁ、1番の理由は家が近いからという理由だが)
そんな憧れの先輩が俺を殺そうとするとは晴海の時同様信じたくはないが……
殺す理由がエルディにも分からない以上、近しい女子として候補からは外せないだろう。
あと俺に近しい女子といえば……
ああ、あの姉妹がいたか。
2人からの説教が終わると同時に休憩時間終了を告げるチャイムが鳴る。
…………飯食い損ねた!!
急いで教室に戻り、授業の準備をする。
そして残りの授業の間中腹の虫が鳴り続けることとなったのだった。