候補1 夏目 晴海
エルディは極力俺のそばにいること、最大限のサポートをしてくれるとのことで、俺の右手首に巻かれたミサンガに擬態した。
そして今俺は小保方先生が目覚めるのを保健室で待っている。
「……う、うう……半裸の変態筋肉達磨…………」
うむ。
まさしくエルディのことである。
やはり彼のことを見た瞬間に卒倒してしまったのだろう。
「はっ!!私は一体何を……あら、君はえっと……2年3組の新庄君だったかしら?いらっしゃい。どこか具合が悪いの?」
床で倒れた状態から起き上がり、自分の状況よりもむしろ生徒のことを気にしてくれるなんて、とても出来た先生だと思う。
しかし小保方先生の表情は一瞬にして変貌を遂げた。
おそらくそれは起き上がった時に感じた違和感によるものだろう。
そしてその違和感に気がついた途端、
「いやあああああああぁぁあぁぁぁぁ!!!!私の胸がなくなってるーーーーーーーーーーー!!!!!」
と、もしかしたらブラジルにまで聞こえたのではないかと思うくらいの叫び声を上げた。
そういえばエルディが小保方先生を貧乳にしてしまったのだった。
そして困惑した小保方先生は、俺の肩に掴みかかり、
「し、しししし新庄君!!先生のおっぱいを返しなさい!!どこに隠したの!?」
体をゆさゆさと揺らし始めた。
「せ、先生落ち着いて!!人間が人のおっぱいを取ることなんてできるはずがないでしょう!!」
俺がそういうも、おっぱいと冷静さを完全に失ってしまっている先生は、
「じゃあ私のGカップの胸がなくなったことについてはどう説明をするの!?その証拠にほら!!私のブラ!!ここに書いてあるでしょ!!」
俺に突き出された黒色のブラのタグの部分を見ると確かに『G75』と記載されていた。
つまりこれは小保方先生が本当にGカップだったという証明になるのだ。
しかし今の先生はAカップあるかないか、下手すればA Aな可能性すらあるんじゃないかと思うレベルに小さくなってしまっている。
「ちょ、先生揺らさないで!!……『じゃあ私の揺れるお胸を返しなさい!!』……ああもう!!」
まともに話ができる状況じゃない!!
もうこうなったら一か八か!!
「あ、先生!!外に先生のお胸が飛んでいってるよ!!」
そう叫んだ。
……我ながら馬鹿な発言だと思う。
なんだよ、外にお胸が飛んでるって。
「どこ私のGカップ!!」
先生はそう言い残し保健室から飛び出て行った。
……まさかなんとかなるなんて。
小保方先生って本当に大人のお姉さんというイメージだったけど、印象が一気に変わってしまった。
さて今のうちに保健室から出よう。
嵐が帰ってくる前に……
俺は急いで保健室から脱出して、自分のクラスである2年3組に向かった。
◇◆◇◆
現時刻10時20分。
2限目が終わったところだ。
たまたま担任の受け持つ授業だったので、体調が悪くて登校してすぐに保健室に行って休んでいたことを伝えると、無理はするなよと一言残して教室から出て行った。
担任の小松先生は割と適当な先生なので、こういったときはとても助かる。
教室に入り席につくと、いち早く俺のもとにやったきた女子がいた。
「おはよー明。遅刻なんて珍しいね。何かあったの??」
声をかけてきたのは、夏目 晴海。
ブラウンのボブカット。身長は160センチ。
それなりに整った顔立ちで、一部男子から人気を誇る。
そんな晴海とは家がお隣さんということもあり、幼少期からの付き合いで腐れ縁だ。
そして俺の初恋の相手でもある。
「いや、学校に来る途中でちょっと怪我しちゃって……ほら顔のとこガーゼ貼ってるでしょ?だから保健室でちょっと休ませてもらってたんだよ」
怪我で休ませてもらったというのは少し苦しい言い訳だとは思うが、本当のことは言えないのでそれで納得してもらうしかない。
「ふーん、喧嘩したとかではないんだ。まぁ明に喧嘩とか無理だよね。でも今は大事なときなんだから怪我したらダメだよ?なんてったって明はうちの弓道部の主力なんだから!!今年こそインターハイ行くんでしょ?」
確かに晴海の言う通りだ。
今年こそはインターハイに……ってそんな話はあまり興味がないと思われるので割愛させてもらおう。
おそらく晴海は俺の言ったことは事実ではないと分かっているが、追求する必要はないともしくは何かしら言いたくなさそうにしていることを察しているのか、それ以上追求してくることはなかった。
それから10分休憩の間、晴海と他愛もない日常会話を楽しんだあと3限の始まりを告げるチャイムがなったと同時に晴海は自分の席へと戻っていった。
いつもならば晴海と話していると心が安らぐ。
しかし今日はそうはいかなかった。
俺はエルディの言葉を思い出す。
君を殺すのは同じ高校の近しい女子生徒
俺に近しい女子生徒ということは、間違いなく晴海もその候補に入っているということだ。
筆頭候補と言っても過言ではないだろう。
この学校の誰よりも長い年月を共に過ごしてきた相手だ。
彼女以上に俺に近しい相手など思い浮かばない。
しかしもし仮に晴海が俺を殺そうと考えるならば、要因は一切不明だ。
もしかしたら良好な関係を築かていると思ったいるのは俺だけなんだろうか。
……いけない。
疑心暗鬼になってしまっている。
万が一にも晴海が俺のことを嫌っているなど考えたくもない。
そう思い頭を振るうとちょうど先生が教室に入ってきた。
気持ちを切り替えよう。
俺は鞄から教科書を取り出し、授業の準備を始めた。