閑話1 彼我 源治郎
第三王子の推論には参ったな。
確かに、俺は武力に関するギフトを受け取ってはいないが、他のギフトも受け取ってないと思うんだよな。
自分でやらかしたことだがな。
そんな俺に賭けられてもな。
流石に、あれだけ期待されていて真実を語ることもできなかったし。
どうしたもんかな~。
俺の中にあるだろう?あるか??他の能力を確認していくことから始めるしかないかな。
とりあえず自分の状態を確認するか。
俺は 彼我 源治郎
年は 48歳
独身
大学教授だった。
独身ではあるが身の回りは世間一般レベルではできていたと思う。
炊事洗濯も普通にこなしていたし。
そんな俺は、研究が好きで寝ずに数日研究に没頭することもしばしば。
そんな日々を送っていた。
その日も2日続けての作業で、睡魔と戦いつつも研究成果のレポートに目を通し、まとめたあと、ソファーにて休憩をしていた。
ウトウトしていたのは覚えているが、その後、あの現象だ。
突然、暗い空間をどこかへ移動しているような感覚があり、その後、地球の知識ではないと思われる情報が頭の中に流れ込んできた。
とうとうこういった事を夢で見るようになって、異世界系の書物の読みすぎかとも疑ったが。
ただ、その体験したことのない情報の嬉しさに、どうせ夢ならとついつい研究できないかと色々思案していた。
地球と違ってどういったことがあるのかを。
で、やらかした。
思案中にも剣術やら魔法やらの情報があったようにも思えたが、それよりも先にあった世界観やその世界の環境・動植物など俺の興味をそそる情報がテンコ盛りだったのだ。
これは仕方ない。
そう、仕方ないのだ。
皆も考えてほしい。
どうしても欲しいものが目の前にある。あるのに部屋の隅のほうでたいして興味のないものをこんな物もあるけれどと持って立っている人がいるとしよう。誰が目の前の物を置き去りにして、隅のほうの興味のないものを持っている者のところへ行くものか。
いかないであろう?
いかないよな??俺だけってことはないよな?
うん、ないはずだ。
そんなわけで今の俺が出来上がったわけだ。
最初に頭に流れてきた情報は大きく分けると
・この世界の言語(読み書き全般)
・この世界の理(魔力のことや魔法の存在)
・この世界の規模(2つの大陸から成り立っていて海もあるようだ)
・この世界の生物(知能を持っているのは人間と一部の魔獣らしい。人間以外のいわゆるファンタジーな種族はいないようだ)
・この世界の階級(いわゆる貴族社会だな)
・この世界の主な職業(剣士・魔法士・錬金術師・鍛冶師・木工師・調理師など)
・この世界の教育水準(貴族では読み書きができるようだが平民では大半ができないらしい)
といった感じだ。
俺は理と生物に惹かれて思案に没頭してしまったわけだ。
で、気が付いたときは、目の前が明るくなり魔導士たちが取り囲んでいた部屋にいたと。
白衣のままで。
夢でなく現実でした、と。
う~ん。
どう考えても初期の情報以外受け取ってないよな?
やべぇな。
魔力もないからこの世界では俺は何も出来ないのか?
王子が期待しているようなことは何一つ出来ないような…
与えられた情報を基に、再度検討したが、やはりこの世界は基本魔力で動いている。
生命の活動も魔法の行使も生活全般もだ。
火を使うにも、火種から火を燃やすなんてことをセルト殿はしていなかった。
魔石を持ち出し専用の魔道具で火を熾していた。
試しに俺もやらせてもらったが何も反応しなかった。
当然だわな。
魔力”0”の俺、本当に無能らしい。
ただ、やはり他の書物でも同様だったが魔法があるせいか仕組みはほとんど理解していなかった。
試しにセルト殿へ聞いてみた。
『セルト殿。火はどのようにして熾しますか?』と。
すると返答は
『火の魔石を使い、火が燃えるイメージをしますが、それが何か?』と。
やはり火が熾る現象、すなわち発火の仕組みをしらないようだった。
当たり前のように、何の疑問も持たず火をイメージして使っているようだ。
このあたりは、他の異世界書物と同じ感じだな。
そうであるならば俺の有用性もそのあたりにあるか?
あるのか?
いや、あるはずだ。そう信じよう。
書物を薦めてきた学生には今更ながら感謝だな。
お礼は言えないが。
とりあえず今後はこの辺から研究を進めていくとしようか。
幸いなことに思慮深く、冷静に判断し、解析する能力・また研究熱心で対処案を模索するような人物に非常に心当たりがある。
この上ない研究対象もとい研究の協力者も見つけたことだし。
ふふふ。
今後が非常に楽しみである。