第七話 これから その2
僕の問いかけに、源治郎さんは、一度俯いた後、顔を上げて話し始めてくれた。
やはり気付くよな、といった顔になり
「これを話すと、そなたらを巻き込む可能性が非常に高いのだが」
と。
かなり深刻な顔をしている。
僕では判断できそうにないので、お爺さんに向き直ってみた。
するとお爺さんは
「ここまで事情を聞いてしまった以上、何かの際に、知りませんでしたでは済まぬのであろう?」
と。
その言葉を聞き、セルトさんは俯き、源治郎さんは、さらに深刻な顔を一層深めた。
その後、源治郎さんは深く深呼吸をして
「わかりました。ここまでに至った経緯を説明いたしましょう」
と。
「私が召喚され、魔力や剣術がからっきしだったことは説明しましたね?その後からお話いたしましょう」
源治郎さんは淡々と説明を始めた。
僕とお爺さんは聞く態勢となり
「私に特別な能力がないと知った時の、王の落胆ぶりときたら。なんでも、召喚術には数十年の歳月と莫大な費用が掛かったとか」
「数百年前の書物が見つかり、先代の王の代より着々と準備を進めていたようです」
「周辺諸国から見下されていたこともあり、この召喚で優位に立とうとしたのでしょうな。武力で」
「しかし、その結果が私というわけだ。王も関係者も私を無能として、地下の個室へ幽閉したのです」
「召喚に際してのペナルティ、あっいや、厳罰を恐れて、再度文献を調べるまで対処ができなかったようです」
なるほど。
数十年もかけて計画した、優位に立てるはずだった計画が失敗し、その元凶の扱いに困ったと。
相変わらず上の位の人達は勝手だな。
僕が訝しげな顔をしていると、源治郎さんがこちらに気が付いた。
その顔は、大丈夫かと言っているようだった。
僕は、問題ないような表情を作り、源治郎さんを見返した。
そうした後、頭を掻いた源治郎さん。
そして一言。
「かしこまった言い方はどうにもな。崩しても良いか?」
と。
僕とお爺さんは問題ないと頷いた。
それを確認すると源治郎さんは続けて話した。
「幽閉されて数日が経ったとき、少年が部屋を訪ねてきた。見た瞬間に高位の者とわかるような身なりで」
「俺は、文献の確認が終わり処罰を受けるのかと考えた」
「しかし、少年は俺に向かって『ひどい扱いをしてしまい誠に申し訳ない。こちらが勝手に召喚しておいて、能力がなければ処分など正気の沙汰とは思えません』と」
「話を聞くと、その少年は、この国の第三王子で名をセイファース・アルダールというらしい」
なるほど、第三王子ですか。
何かと良い噂は聞きますが。
「アルダール王子はなんと、俺に逃亡の話を持ち掛けてきた」
「手助けする理由を尋ねると」
『たしかにあなたは、剣術も魔力も持ち合わせていないようですが、そんな方を年月をかけて行った召喚術で選ぶとは思えません。それに私は武力行使が嫌いです。これは表立って発言しておりませんが信じていただけるとありがたいです』
『あなたに武力の恩恵がなかったことに、密かに安堵しておりました。それなのに、そんなあなたを幽閉しています。正直、王の対応には従えません』
『恐らく文献の確認が終わり、処置に問題がないことが分かれば間違いなく処刑すると思います。長年の計画を台無しにされた腹いせと見せしめに』
『幸いこの地下は私の第三師団の管轄です。その中の兵士で、家族も親族もなく、実行した際に他に被害の出ないものが1名おります。その兵士へ逃亡の手助けを懇願したところ快諾いただきました。あっ、決して王族の権利をかざしたわけではありません。本人とも何度も確認し、了承をいただきました』
「と」
なるほど。
なんとも行動力のある王子だ。
で、その兵士がセルトさんだ。
「で、なぜそこまでして俺を逃がすのか気になった。下手をすれば自分の責任になる可能性だってあるわけだ。警備の担当の親玉だしな。で、どうしてもと聞いてみたところ」
『虫の良い話ですが、あなたは、武力でない他の力で、この国を良くしてくれるのではないかという感じがするのです。なんの根拠もありませんが、先ほど述べたように武力のギフトを授からなかったのなら、別の能力を授かったのではないかと思うのです。それこそ何十年の計画と膨大な魔力を消費したのですから。ですので私は、武力ではないあなたの力に賭けたかったんです』
「と」
「まぁ~、そんな期待をかけられて、セルト殿の協力で脱出計画を練ったわけだ」
第三王子には協力してみたい気がするな。
ま、僕みたいな平民の魔力も少ない者では協力のしようもないのだけれど。
脱出計画は次の通りだったそうだ。
まず、セルトさんが担当の時を狙って王子が視察に来る。
そうすると、視察のために人員が割り振られる。
その隙に、部屋から連れ出し、塀の上へ追い詰められたように見せかける。
一応、アルダール王子が駆けつけ説得を試みるようにする。
周りの兵士を、刺激しないためという口実で二人に近づけないよう注意しながら。
が、それを断り、重力魔術でどうにか逃げられないかとセルトさんが源治郎さんの手を引く。
その隙を見て、別の協力者が、深手にならないようにセルトさんに矢を射り、源治郎さんが塀から落下するように仕向ける。
塀の下は、隣国の湖まで流れる大河とのことだった。
遺体は上がらず目撃者もいることから死亡と判断されるだろうと。
で、その後、セルトさんも追いかけるように塀から落ちる。
塀の近くには兵士はいないため、下で待ち構える協力者の魔導士に、川へ石を投げ込んでもらい、落ちてきた二人を重力魔法で救出し隠密魔法で移動したと。
それからは、一路王都を離れるべく東へ進路をとったそうだ。
あてはなかったそうだが。
脱出までは綿密なのに、その後はどうなんだろう…