第六話 セルトの考えとこれから その1
俺は セルト 36歳 独身 騎士団第三師団の兵士である。
しかし、この少年には、本当に驚かされてばかりだな。
森での遭遇時の錬成に始まり、諸所での言動・観察眼・分析能力。
どれをとっても、とても同年代の他の子供に同じことは要求できないだろう。
生きがいがないと言っていた割には、研究し、対策案を講じ、冷静に分析し、解析している。
それは、生きるために自身の糧にならないかと考えているようにも見える。
源治郎殿と通じるところがあるのか?
セルトは、会ってからずっとメルラードに興味を示していた。
それだけに、疑問でしかなかった。
先ほどの『別な理由で錬金術師にはならないので』という発言が。
ここまでの知識を確認していると、どうしても当初は錬金術師を目指していたのではないかと。
錬成陣に魔法基礎・錬成のイメージなど。
錬金術の錬成は通常、魔法陣を起動し、錬成したい物を強くイメージし錬成する。
錬成士の場合は、魔石に属性の魔法陣を付与するだけで物質を別の物へ変化させることはないのだ。
そのため、錬成陣のイメージだけあれば問題ない。
それこそ、講師が配布した錬成陣を、そのままイメージすれば何の問題もない。
魔力量による、魔石の品質には差が出るが。
しかし、あの少年が行ったのは間違いなく物質の変化である。
それだけでなく、ウィンドカッターやウォーターなどの魔法は、魔石を持っていれば、誰でも行使できるわけではないのだ。
魔法の基礎を理解し、行使前に具体的なイメージをしなければ、とてもではないが魔法が発現などしない。
自分だって、騎士団に入って座学を修めて、初めて行使できたのだ。
平民の子供では、座学を受けているはずがないのだ。
それこそ貴族でもない限りは。
しかし、どう見ても平民のそれにしか見えないご老人と少年である。
興味がわかないわけがなかった。
今も源治郎殿とやり取りを開始しようとして動き出している。
私やお爺さんを置き去りにして。
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「源治郎さんは、異世界人ですかぁ。なるほど、どうりで魔力を感じないと思ったんです」
僕は、確信をもって聞いてみた。
「少年。いや、メルラード。異世界人であると信じるのか?」
源治郎さんは、目を見開き質問してきた。
「はい。この世界では、大原則が『すべての物に魔力がある』です。これは有機物・無機物に限らずです。当然、錬金術師が生成した無機物や鍛冶師が加工した製品・調理師が調理した料理でさえも、必ず魔力が宿ります」
「ですので、魔力が無い状態というのは、この世界では考えられないのです」
そうなのだ。
この世界では、生命ではない無機物でも、調理や加工した物でも、必ず魔力が存在する。
ましてや生物では、魔力を持たないものなど存在しようがないのだ。
生命の活動の源ともなり、通常魔力が尽きると生命に危機を及ぼす。
そのため、この世界では魔石など魔力の補助になるものが重宝される。
それなのにだ。
僕がそう答えると、源治郎さんは何とも言えない笑みを浮かべた。
悪いことをしそうな感じではなかったのだが、なぜか背中に寒気を感じた。
「魔力を感じるなんて普通に出来ることなのか?」
源治郎さんはセルトさんを見てそう言った。
「いえ、少なくとも自分には無理です。魔力量は普通魔力測定の魔道具を使用するのが一般的ですので」
「らしいが、君はなぜわかるのだ?」
「感覚的なものかもしれませんのではっきりとは言えませんが…」
「そうですね、僕はもともと魔力量が少ないので、常に魔力というものを意識していましたがそのせいでしょうか?」
「普段から自分の中の魔力と他人がどう違うか観察していますから」
「何となく源治郎さんからはいくら観察しても感じられなかったんです」
「そうなのか…」
源治郎さんは、一応納得したように頷いた後、先ほどの笑みを浮かべていた。
なんだろう、この笑顔には寒気を感じるのだけれど。
「では、俺が異世界人だということは一応は信じてもらえたのだな?ボルハルト殿も、飲み込んでいただけましたかな?」
源治郎さんは、お爺さんに肯定を求めた。
ようやく動き出したお爺さんは
「はぁ~。またとんでもない事態になりましたが、メルが言うように、この世界では魔力が無いなど到底認められないのです。それこそ認めるとすれば、もはや異世界など突飛なことでもなければ」
お爺さんも、どうにか納得し飲み込んだらしい。
そこで気になるのが
「では、なぜ、召喚された源治郎さんが、王都ではなく、こちらにいらっしゃるのですか?」
僕が、疑問に思ったことを源治郎さんへ問いかけてみた。