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第五話 源治郎の笑み

俺は 彼我 源治郎 48歳 独身 某大学の教授である。いや、今となっては”だった”が正しいのだろう。


さて、やはりそういった反応になるわな。

大学教授時代、研究室の学生に薦められて、異世界転生や異世界召喚の書物も読んでいた自分でも、こんな事になるなんて夢にも思ってなかったし、その書物の中でも易々と現状を理解させられないのも知っているし、召喚された当の本人が状況把握に数時間を要したわけだから、召喚自体を知らなければ、当然な反応だな。

さて、どうやって説明したものか?

俺に何か、この世界との違いを見せられたら良かったが、生憎と何も持ち合わせてないんだよな。


そう、源治郎は、召喚時の次元渡りの際に、ギフトとして得られる能力の大半を受け取っていなかったのである。

それこそ、この世界の大原則であるはずの魔力さえも。


あれは本当にやらかしたな。

夢だと思い、初めに流れ込んできた世界観や言語・その他の知識時に、この世界の研究材料を吟味していたら、その後のギフトを貰い受けるのを忘れるほど、集中するとは思わなかったし。

いや失敗。

まさか、夢ではなく現実に起こっていたなんてな。

はははぁ~


通常、この世界で召喚魔法を使用し、他の次元から召喚された際は、ギフトとして色々な能力を授かるのである。

この世界でも、召喚自体は数百年前に行われていた。

その際の出来事が記載されていた書物には、このように記述されていた。


《この世界に召喚されし別次元からの召喚者は、次元渡りに際し、多様な能力を授かる。勇者となりえる圧倒的な戦闘能力を有する剣士・又は圧倒的な魔力を有し、大魔法を操るものなり≫

《その者たち容姿端麗なり≫


と。


そう、俺はそのどちらも受け取っていないのである。

召喚され、この世界へ顕現した際の、周囲の驚き様ときたら。


この時の魔導士共は、それはもう容姿端麗な青年・乙女をイメージしていたに違いない。

それが現れたのが、研究用の白衣を着たおっさんである。

自分でいうのもなんであるが。


さらに、その後の魔力測定でもやらかした。

なんと魔力が”0”だったのだ。

この世界では、道端の石ころでさえ魔力があるというのにだ。

俺は、道端の石ころ以下だったわけだ。

はっはっはぁ~

それを知った時の魔導士共の落胆ぶりと来たら、今思い出しても愉快でならねえ。


その後、勇んでやってきた騎士団をさらに落胆させた。

剣術もからっきしだったのだ。

そりぁ~そ~だわな。

生まれて48年剣術を習った経験は、一度としてないし、ギフトも受け取ってないわけで。


そんな訳で、今の俺には異世界人だという証明がないのである。

それなので、説明前に話した『説明したところで信用してもらえるかも怪しいもんだしな』の発言となるわけだ。


ぶっちゃけ俺は、ギフトを受け取らなくて良かったとも思っていた。

要は、チート能力で、人殺しやら魔物退治やらをやらせられるわけだ。

俺はこういっちゃなんだが平和主義者なんだ。

人殺しなんて出来るわけがない。


どうせ貰うなら、研究に役立つ能力が欲しかったが、それも貰えずじまいだ。


てなわけで、手詰まりである。


さて、現状を見渡して熟考した。


そのように考えを巡らせていると、メルラード少年が再起動した。


「源治郎さんは、異世界人ですかぁ。なるほど、どうりで魔力を感じないと思ったんです」


と。


この少年、本当によく観察してやがるな。

うちの大学の学生共でも、ここまで周りを観察していたやつなんていたかな?

しかし、魔力があるかどうかなんて、魔道具使わないとわからないんじゃなかったか?


「少年。いや、メルラード。異世界人であると信じるのか?」


俺は、あえて言葉にして聞いてみた。


「はい。この世界では、大原則が『すべての物に魔力がある』です。これは有機物・無機物に限らずです。当然、錬金術師が生成した無機物や鍛冶師が加工した製品・調理師が調理した料理でさえも、必ず魔力が宿ります」

「ですので、魔力が無い状態というのは、この世界では考えられないのです」


と。


素晴らしい!

この年で、それだけの回答が導き出せるとは。

なんと研究し甲斐がある。

俺は、無意識に笑みを浮かべていたことに気が付かなかった。



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