第四話 異世界人
僕とセルトさんは、森で遭遇してから家までの経緯を説明していった。
森から現れた二人を確認しつつ、ボアを風魔法で撃退。
その後、土の魔石を使って器を錬成し、水の魔石で水を出し飲ませた。
そのままその場に留まっていても仕方がないので、お爺さんの家へ案内することを提案し、僕の力では二人を担げないので、土の魔石を使って台車を錬成し、台車へ乗るための補助を闇の魔石で行った。
と。
さらに、家へ案内するのに不安がなかったことを付け加える。
このやり取りの中で聞いたことだが、セルトさんの背中の矢は、抜こうと思えば特に問題がない程度の軽いものだったようだ。
ただ、逃避行中死んだふりをしたりするのに都合が良いとのことだけで矢を抜かず移動していたらしい。
なんとも逞しい。
そのように考えていると源治郎さんが
「すると、この少年は錬金術師ではなく、錬成士見習いだが、魔法陣を使って錬成したと?」
「さらに台車を錬成し、重力魔法で補助し、家まで運んだと?」
「で、セルト殿が剣士風の護衛ではないかと?」
「ふむ」
僕とセルトさんの説明を、繰り返し確認する源治郎さん。
そして、顎を摩りながら考えこむ源治郎さん。
「君は、錬金術師を目指しているのだね?」
源治郎さんは僕に問いかけた。
「いえ、錬金術師は目指しておりません。それに、僕の魔力量では、到底錬金術師にはなれませんので」
「だが、魔石を使えば錬成は可能なのだろう?それで補えば、十分錬金術師としてやっていけるのではないのか?」
「私が知っている知識では、皆が錬金術師を目指していると認識していたが?」
「魔力量の問題もそうですが、もっと別な理由で錬金術師にはならないので」
「今のところは、錬成士での高品質を作成できるよう努力しています」
そう、僕は、とある理由で錬金術師にはなりたくないのだ。
「そうか。やはり聞いただけの知識と、実際見聞きするのでは、大きく違いが出る場合があるな」
「もっと色々見聞きし、認識していかないと、与えられただけの知識とは齟齬がありそうだ」
源治郎さんからよくわからない言葉が出ていた。
齟齬?
なぜだろう、セルトさんも難しい顔をしている。
僕には、どうやら意味が理解できないようだ。
「それで、なぜ、剣も持っていないセルト殿が剣士で護衛と考えたか、と聞いても良いかな?」
どうして源治郎さんが、そこにこだわるのかは疑問だったが、特に話しても困ることはないので
「え~と。まず剣士なのかなと思ったのは、森から街道に出た際に、独特の構えのような態勢で現れたので」
そう。
森から現れたとき、セルトさんは源治郎さんを肩越しに背負い、負傷していても半身の態勢で街道に現れたのだ。
普通の人なら肩で人を担いだままなら、まず半身の態勢はとらない。
倒れないようにするだけで、精一杯で並んで現れるのが普通な気がしたのだ。
あの態勢は、剣こそ持っていなかったが、いつでも攻撃ができるよう、普段から訓練していて癖がでたような気がしたのだ。
それこそ素人の勘だが。
「それから護衛かなと思ったのは、矢を背中に受けた後で源治郎さんを担いだのかな?と感じたのと、セルトさんが外傷だらけだったのに、源治郎さんは目立った外傷が見られなかったこと、それに街道に出て倒れこむ際でも、セルトさん、周りの状況確認をしようと必死そうだったので、何となくそうなのかなって感じただけなのですが」
そう。
矢を受けてから、源治郎さんを担いだ感じがしたのだ。
これは本当に、何となくで、特に根拠となるようなことは何もないのだけれどね。
しかも、源治郎さんには目立った傷や汚れなども感じられない。
これも素人の勘でしかないのだが…。
「ふぅ~。その年でそれだけ観察していたのか」
「驚くばかりだな」
「そうですね。自分も、そこまで見られていたとは、考えてもいませんでした」
何やら随分な評価をされてしまったような。
「お前さんのことは何となく理解した」
「しかし、その年で自分の魔力の少なさを別の側面から対処できないかと思案し、少なからず対処方法を見出し、さらには、自身が襲われる可能性があった状況下でも、状況を冷静に判断し観察するとは」
「それが、ただの錬成士見習いとはな」
「錬成士なら研究し、対応策を見出そうとすることはわかるが、状況判断と分析は錬成士のそれではないはずだ。少なくとも、俺の知識では、剣士か魔導士あたりの分野と認識していたが」
そういってぶつぶつとまだ齟齬という言葉を呟いていた。
その後、セルトさんを見る源治郎さん。
「そうですね。さすがに錬成士見習いでありながら錬金術の真似事ができるのは、自分の認識からも些かズレを感じずにはいられませんが、状況判断や分析の認識については、同意いたしますね」
そういって源治郎さんと僕を見るセルトさん。
「う~ん」
僕は一呼吸おいてから
「そうですね。状況判断や分析については、あまり僕自身が生きがいがないので、どうしても冷静に見てしまうのかもしれません」
「とある事情から、お爺さんの世話だけができれば、その他は、それほど率先してやるようなことはないので、そのせいかもしれませんね」
「錬成士になってからの品質を上げる研究も、もう少し稼ぎを増やして、生活を向上させて、お爺さんに元気でいてもらいたいのが理由ですし」
「ね。お爺さん」
僕は、お爺さんに同意を求めて顔を向けてみた。
「そうじゃの」
「本当は、わしのこと以外にも、やりたいことや楽しいことを見つけてほしいのじゃがな」
「そうですか」
僕とお爺さんの言葉にセルトさんがそう呟き俯いてしまった。
「そうか、色々と事情がありそうだが、それこそ無理に、とは言わない」
そういうと源治郎さんは僕を見て
「では、こちらの素性をお話しするとしよう」
源治郎さんはゆっくりと僕とお爺さん、そしてセルトさんを見回した後語り始めた。
「俺はこの世界の住人ではない。セイファースの魔導士団によって、この世界に召喚された異世界人だ」
!!えっ!!
異世界人??
たしかに変わった容姿をしてはいるが、異世界人??
異世界人ってあれだよね?この世界ではないところからやってくるっていう?
なんとも信じがたい言葉を聞いてしまった。
どうやら、お爺さんもついていけていないようで、驚きで固まっている。
それはそうだよね。
だって異世界人だよ?
セルトさんはやっぱりといった顔をし、源治郎さんは顎を摩りながら目を閉じて考え込んでいた。
誤字ご指摘ありがとうございました。確認しているつもりですが抜けがあるようです。以降も引き続きご指摘いただけますと幸いです。