第二話 遭遇
僕は、生成した魔石を、属性ごとに納品して、仕事場を後にする。
提出した魔石に応じて、給料がもらえる仕組みだ。
ただ僕は、全部を納品していない。
なぜって?
当然、自身の研究のためである。
僕は、人よりも魔力量が少ない。
そのため、現在の職場で、底辺の品質の魔石しか生成できないのだ。
そこで、少ない魔力でも品質があげられないか、日々錬成を研究しているのだ。
毎週、魔石を少々拝借している。
そのおかげで、生活がいつも底辺な訳なのだが…
今日の晩御飯は、何にしようか?先週は、鶏肉をベースにしたから、今週は魚かな?いや別の肉にしようか?うーん
「メル、いらっしゃい。またお爺さんのところかい?」
声を掛けてきたのは、毎週食材を購入しているお店の女将さんだ。
「ええ。先週が鶏肉だったから、今週は何にしようかと考えていたんだ」
「それなら今日は、品質の良いボアの肉があるよ。安くしとくからどうだい?」
ボアとはイノシシの獣である。
「ボアか。そうだね。じゃあもらえますか?」
「はいよ。今日も少しサービスしとくからね」
「いつもすみません」
女将さんは、いつも僕にサービスしてくれる。
なんでも、両親が健在だったころに付き合いがあったそうだ。
「気にすることないよ。その年で、毎週のようにお爺さんを世話してるなんて子、他にいないからね」
「お爺さんは、大事な家族ですから当然ですよ」
「そういうことを言える子が、なかなかいないんだよ。大抵は、自分のことで精一杯だからね」
「そんなことないと思うけどな~」
「そんなことあるんだよ。ほら出来た。気を付けていくんだよ」
「うん。ありがとう」
そんなやりとりを終わりにして、一路お爺さんのところを目指して移動開始。
夕刻、この時間でも、まだ人通りはある。
この世界には、どんなものにも魔力があるといったが、当然、獣にも魔力がある。
魔力があるだけで、魔法を使わず活動しているのが獣だ。
魔法を行使してくる獣を、魔物と呼ぶ。
さらに、知性を持っているものが、魔獣となる。
比較的街道沿いには、魔獣は出現しない。
出現すると討伐されるためだ。
中には、かなり高位魔法を使う、魔獣もいると聞く。
お爺さんの家までは、街道を歩いて30分程度のところにある。
それほど町からは、離れていないため、これまで魔獣はおろか、魔物にも出くわしたことがなかった。
今日も、食材を持って、街道を歩いている。
あと少しで、お爺さんの家に着くといったところで、不意に、森に目を向けた。
普段でも、獣が少しいるくらいで、大した森ではないのだが、なぜかとても気になり、歩くのをやめ、森を見渡した。
ガサッ ガサッ ガサガサッ
何かが、こちらへ向かってくるようだ。
一応僕は、風の魔石を取り出し、頭の中で、風魔法のウィンドカッターを、イメージした。
僕は、魔力が少なく、大した威力の魔法は使えないが、それでも、獣であればある程度は戦うことができる。
ガサガガサガサッ!!
森から現れたのは、背中に矢を受けた剣士風の人と、白く長い服を着た、この辺では、見たことがない容姿のおじさんだった。
少し離れた森の奥に、ボアが2体見えた。
恐らく、剣士風の人の流した血につられて、出てきたのだと思われる。
僕は、躊躇することなくウィンドカッターを唱えた。
1体目にかすり傷を負わせたことで、2体ともに森の奥へと消えていった。
「ふぅ~助かった。逃げてくれなかったらちょっと厳しかったかな」
そう、今、僕は、風の魔石は1個しか持っておらず、残りが土と火の魔石が2個・水と光と闇が3個だった。
僕が使える攻撃魔法は、残念ながらウィンドカッターとファイアーボールのみで、森では、ファイアーボールは火事になる恐れがあり、使えないのであった。
「まぁ、最悪は、街道まで引き付ければ、使えたことは使えたんだけど。2体相手は、たぶん無理だったから、逃げてくれたことに感謝だね」
さて、この人たちどうしよう…
剣士風の人は、何とか命に別状はないみたいだけど、動くのは厳しそうかな?
白い服の人は、意識がないみたい。
うーん。
その時、剣士風の人がこちらに気が付き
「悪い坊主。水があったらくれないか?」
と。
僕は、地面に錬成陣を描き、その上に土の魔石を載せ、魔石を器に作り替える。
その器に、水の魔石を使って、ウォーターを唱える。
剣士風の人に、水を飲ませた。
「すまねぇ。坊主は錬金術師なのか?」
「いえ、錬成士です」
「?でも、さっきは錬成陣で、器を錬成してただろ?」
「両親が錬金術師だったので、知識はある程度ありますが、残念ながら僕の魔力では、錬成できないんだ。だから、錬成陣を書いた上に魔石を載せて、魔石自体の魔力で錬成したので、錬金術ではありません」
「!!そんな方法があるのか?いままで聞いたことがないぞ?」
そう。
普通は、魔石に錬成陣を組み込み、魔石の魔力を使って、魔法を行使するために魔石を使うのだ。
魔石の魔力の一部を、錬成陣に回し、魔石自体を錬成することはないのだ。
「はい。僕は、魔力が少ないことから、自分の魔力で錬成陣を発動することができません。それなので、魔石の魔力を使いながらどうにか錬成できないか研究して、開発したので、使っている人を見たことはありませんね」
「は~、その年で大したもんだ。あっ、すまねぇ。礼も言ってなかったな。助かった」
「背中の傷は、大丈夫なんですか?」
「ああっ 少し痛むが、命がどうこうは、なさそうだな」
「歩けそうですか?」
「それは、ちと厳しいかもな」
「わかりました」
僕はそういうと、懐から土の魔石を取り出した。
先ほどと同じように、地面に錬成陣を描き、その上に土の魔石を載せ、錬成する。
出来上がったのは、台車だ。
次に、闇の魔石を取り出して、剣士風の人に触れて魔力を流す。
軽く浮かぶようにイメージして。
「!!!!少し体が軽くなったぞ!重力魔法か?」
「はい。ただ、僕の魔力が少なく、台車へ乗るための補助程度にしか、効果を発揮できませんでしたが」
「いや、それでも凄いぞ!何から何まですまないな」
「いいえ。ここで話していても、良い事がないでしょうし、僕のお爺さんの家へ行きましょう。僕も魔力の残りが少なくて厳しいので」
そういって、剣士風の人と白い服の人が、台車に乗ったのを確認して、台車を動かした。
「ああっ悪い。魔力を使わせちまって。それにしても、俺たちを家に案内して大丈夫か?」
「とりあえず、水をあげた後、襲われなかったことから?、盗賊の類ではないと確認できましたので、問題ないと思いますが、一応家の前で待っていてください。お爺さんの許可が出るか、聞いてきますので」
「あっ、ああ~悪いな。しかし、その年でそんな思慮、普通はしないだろう。こちらとしてはありがたいが」