第百四十七話 凍期休み
翌、火の日。
いつものように朝食を済ませ、仕事場へと向かう。
仕事場に着くとすぐにレナさんがやってきた。
石鹸のことかな?
「メルくん、おはよ~」
「レナさん、おはようございます」
「ねねっ、メルくん。どうかな?」
「?」
「どうかな?」
「何がです??」
「はぁ~、やっぱりな反応だよね」
そう言った後顔を近づけて小声で、
「メルくんがくれた石鹸で髪を洗ったの」
「いい匂いがするでしょ?」
と。
「確かに」
「ほのかにですけど、のいちの香りがしますね」
という事は石鹸の香り付けは大丈夫だったってことだよね。
「でしょ」
「お母様の悔しがり様ってなかったわよ」
そう言いながら満面の笑顔のレナさん。
「喜んでいただけて良かったです」
「うん」
「とっても嬉しいわ」
「ありがとうね、メルくん」
「いえ、レナさんが喜んでくれて僕も嬉しいです」
そんなやり取りをしていると担当講師が入ってきた。
いよいよ今週も仕事の開始だ。
それからは特に何事もなく週が過ぎた。
今週はとうとう風の日に雪が降った。
まだそれほど積もってはいないけれど本格的に降り出すと街道はあっという間に積もる。
土の日に帰るときは街道の脇に多少の雪が積もっていた。
あと1週、どうにか積もらないで休みに入りたい。
そんなことを考えながらお爺さんの家へと向かう。
「ただいま帰りました」
「メルや、おかえり」
「メル君、お帰りなさい」
「メル、お疲れさん」
「メルや、街道の雪はどうじゃ?」
「まだ、脇だけで街道自体は問題ありません」
「あと1週、なんとかもってほしいですね」
「そうじゃの」
「お爺さん、体の方は大丈夫ですか?」
「問題ないわい」
「今年はストーブと炭のおかげでそれほど苦労しとらんし、源さんやルトさんがやってくれるでの」
「俺は魔法が使えないから火が熾きてからの番くらいしかしてないがな」
「それでも助かっとるぞい」
「そうですよ」
「私が熾した後は、ほとんどを源さんがやってくれていましたし」
「そのくらいは役に立たないとな」
「それじゃなくても俺は役立たずだからな」
そう言って笑っている源さん。
その後居間で雑談をした。
明日はチョーク作成をするそうだ。
黒板は暖かくなってからとのことだった。
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凍期休みの間、錬成や魔法など皆で勉強をした。
魔力については、特に詳しく調べたりした。
また、暖期までの間もお爺さんの家に帰ってきては、調べたり発動させてみたりと色々試した。
それで少しわかったことがあった。
・魔力について
体内に保有している魔力を消費した場合、外部から補給する
例:食事(食べ物や飲み物)で補給・大気中などから肌を通して補給など
補給される効果は含有している魔力量で決まるようだ。
この結果から源さんが実験をした。
実験内容は、魔石を細かく砕いて食事に入れるとどうなるかだった。
パンケーキを2種類作る。
ルトさんに魔力を消費してもらい、パンケーキを食べてもらう。
片方は魔石を入れず、もう片方は魔石を入れて作り、食べてもらう。
僕が感覚だけどルトさんの魔力量を確認する。
結果は、魔石を入れて作ったほうが魔力量が回復していた。
ルトさんもそれとなく違いを感じたらしい。
錬成した物や調理した物の魔力含有量は作成時の魔力供給に依存する
例:鉄を錬成する際、錬成に必要な魔力以外に魔力を送り込むと錬成後の鉄の魔力含有量が変化
調理の際に、魔力を込めると出来上がった料理の魔力含有量が変化
この結果から源さんが実験。
実験内容は、同じ料理を源さんとルトさんが作成するとどうなるか。
結果は、源さんが作った料理には魔力は食材分のみだった。
ルトさんが作った料理には、源さんの数倍の魔力量があった。
源さんは『やはり俺は無能だな』と笑っていた。
それでも食材の魔力はそのまま残ることがわかったと言っていた。
待機魔力が存在する
石や魔石などすでに魔力を保有していて生命活動のない物は待機魔力が存在する。
外部から魔力に干渉することで保有している魔力が活性化するようだ。
保有していた魔力を消費すると消滅する。
生命活動のある、もしくは、あった食材などは干渉されることで保有魔力を消費する一方、干渉されている間も補充しようと働いているらしい。
そのため調理で差が出るらしい。
この結果から源さんが実験。
実験内容は、石に魔力を込めるとどうなるか。
結果は、石が破裂した。
源さんは予想していたらしく、特に驚かず『やはりな』と言っていた。
お爺さんやルトさん、僕はとても驚いた。
源さん曰く、人体も同じことが起こる可能性が高いから、人体に過度の魔力供給は気を付けるように言われた。
一応源さんは、『恐らく人など魔力を消費できるものは、過度の供給があるとそれに対応するため消費しようとするだろうが消費よりも供給の方が多いと危険だろうな』と。
そう言われた時の皆の反応は忘れられなかった。
たぶん僕と同じで人が破裂するところを想像したんだと思う。
魔力については、遮断は難しいということがわかった。
この世界にあるものは、すべてに魔力が存在するため魔力の流れを遮断するもの、いわゆる魔力を持たない物が無いためだ。
源さんはちょっとガッカリしていた。
ただ、魔力の流れを一定にすれば継続は可能ということがわかった。
これには源さんはとても満足していた。
そのためには魔力を継続して流す魔法なり陣なりを作らなくてはいけないけど。
・錬金術について
座学はある程度頑張った。
でも、実際の錬成にはイメージも必要なため、見たことがないものが多い僕の最大の課題だった。
それでも源さんが黒板を使って絵を書いて説明してくれたり、ルトさんが説明してくれたりしたので戦闘職用の物は、ある程度対応できるようになった。
問題はそれ以外の物の場合だった。
どんなものが課題に出るかわからないため対応のしようがなかった。
身の回りにある物はどうにかなるけれど、貴族様や王族などが所有しているようなものを出されたら厳しい。
源さんからは錬金術師の試験に対して考えがあるとのことだった。
実際には、試験を受けるまでにまだ1年以上あるのでその時になったら考えようということになった。
それまでに見れるものは出来るだけ見ておこうという事で、お爺さんの知り合いやブアランドさん、ハロペレド商会に頼んで見たことがない物を見せてもらうようにしようということになった。
・魔法について
源さんがなにやら熱心に調べていた。
6大属性以外の魔法があるかどうかを。
源さん曰く、電気は存在していないとのことだった。
ただ、この世界に電気を広める気はないとも言っていた。
電気って何?
電気は置いといて、僕は生活魔道具に必要な魔法の勉強をした。
まずは、氷魔法。
これは水魔法の発展魔法だった。
ルトさんも氷魔法は使えないとのことで二人で勉強した。
それから源さんから以前課題を出されたお湯の魔法。
これも勉強した。
結果として魔法陣を新しく作った。
水と火ではなく水と熱を組み合わせたら完成した。
これは源さんの助言からだった。
勉強していて気が付いたのが、攻撃魔法の発展魔法がたくさん思い浮かんだことだった。
ルトさんも同様だった。
源さんからは平和主義だから広めるなと釘を刺された。
護身用でルトとメルが使える程度にしておけとのことだった。
出来るだけ他人には見せるなと。
大きな発見は、収納魔法を便利に出来たことだった。
相変わらず発動中は、他の闇魔法は使えないけれど入り口を出したままにしなくても大丈夫になるようにした。
これも源さんからの助言だった。
布に魔法陣を書いて発動させれば入り口を出したままにしなくても問題ないのでは?の実験からだった。
魔石での発動時は入り口が魔石に近い位置で発現していたけれど、布に魔法陣を描き、発動させると布を通して入り口が出現した。
布に魔道具と同様に魔石を取り付ける部分を付けたら魔石を外すまで入り口は消えなかった。
しかも、入り口は布に依存しているようで布を畳んで懐に入れていても魔法は発動したままだった。
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ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
メルラードと源次郎の出会いからの流れはこの辺まで。
次回は他の領地や他国との進展を中心に書いていこうと思います。
続きも読んで頂けたら幸いです。
次回投稿まで少々お時間を頂戴します。