3.レイシアの弟
魔法の練習を終えて、夕食についた。
テーブルには、両親、私と1才年下の弟ロイド向かい合って座っている。
ロイドは、レイシアに容姿がよく似ている。
癖のある銀髪に、青い瞳。人形の様に整った顔と無表情だった。
両親から遺伝が見てよくわかる。
「レイシアー、今日は魔法の練習をしていたんだってね。メリッサがお前の事を偉く誉めていたよー」
父バルドが、嬉しそうにレイシアに声をかける。
どうやら、この両親は娘には激甘らしい。親バカである。
「うん、練習してたよ……」
「そうか、そうか!」
楽しそうに話す父、人見知りの娘。かなりの温度差がそこに生まれていた。
何分か会話をしながらレイシアは、違和感に気がついた。弟ロイドが会話に入ってこないのだ。それどころか、両親もロイドを空気の様に扱っている。
たまらず、声をかけた。
「ロイドは、何をしていたの?」
突然の出来事にロイドが肩をびくつかせる。
「ぼ、ぼくは……」
「ロイド、はっきり話なさい!」
ロイドの小さな声を遮るように、父が怒鳴った。レイシアへの態度とまるで違う。空気が切り詰める。
「ぼ、僕は剣術の練習をしていました」
ロイドをそう言い終えると、席を立ち逃げるように部屋をでた。
ロイドが哀れに思えた、引きこもりの時の自分に姿を重ねたからかもしれない。
どうしようもない居心地の悪さや、息苦しい胸のつっかえがレイシアの中で渦巻く。
頬を涙がつたう。
「っ!、レイシアどうしたんだ?」
両親が思わず、レイシアの傍に駆け寄る。
「……どうしてロイドに酷い言い方するの?」
「……」
両親が少し、沈黙して口を開いた。
「ロイドはね、この家の跡取りなんだ。甘やかす訳にはいかない。立派に、なって欲しいんだよ」
「どうして、厳しくしないと立派にないれないって、他人が決めるの?」
レイシアは、父の目を見た。
「子供だって考えてる。親の期待に応えようと足掻いてる。その努力も誉めないで、子供を思ってるなんて言わないでっ!」
レイシアは、泣きながら部屋を出た。
そして、ベットに潜り込んだ。
しばらくして、レイシアの部屋にロイドがやってきた。さっき、両親に謝られたらしい。
「なんで、姉さんが泣いてるの?叱られてたのは、僕なのに」
その声は、何だか嬉しそうだった。
「…このまま、引きこもろうかなぁ」
「ダメだよ!姉さんの為に、僕も頑張るから…
それに、引きこもったら父さんが仕事に行かなくなるよ」
「………それもそうね」
一瞬、公爵家が潰れて路頭に迷う未来が見えた。そうなると、確実に働かなくてはならなくなる。
それは、御免だ。
ところで、弟ロイドはこうもよく話すタイプだったとは。無口だと思っていた……
まあいいや、今日は疲れたので眠ることにする。
引きこもりには、ハードすぎる1日だった。