1.思い出した前世の記憶
その日、五歳の公爵家の令嬢レイシアは、前世の記憶を取り戻した。
「……私は」
「レイシア様、どうかしましたか?」
側に居た待女が、心配そうに顔を覗き込む。
「……」
前世の私は……極度の引きこもりだった。
私は、家からの外出を徹底的に控え、朝晩問わずゲームをしていた。ゲームに夢中になりすぎた私は、食事も忘れて熱中。
そして、とある日私は餓死したらしい……なんと呆気ない末路だろうか。
ため息をつきながら、五歳である私は握っていた手鏡に目をやった。
そこには、美しい銀髪と青い瞳の美少女が映っていた。
……マジか
「どうしました、レイシア様?」
待女メリッサが心配そうに声をかける。
レイシアという名前、銀髪の美しい容姿。もしかしたら私は、死ぬ前にプレーしていたゲーム『王子様と七色の恋』の世界、悪役令嬢レイシアに転生してしまったのか……これは、とてもまずい。
たしか悪役令嬢レイシアの最後は、学園のパーティで王太子アデルに婚約破棄を告げられ、牢獄エンド。
最悪だ、牢獄なんて……
だって、牢獄に入れられたら……人との交流が絶たれて、最低限の食事とトイレ、社交もないし……まるで、引きこもりのようだ。
牢獄エンド……ん?
問題なくないか、いや寧ろ、幸せなのでは?
引きこもり時代の生活とあんまり変わらないし。
「レイシア様?」
レイシアは待女の顔をじーっと見つめた。
「メリッサ、令嬢って何するものかしら?」
待女は、少し困惑しながらも笑顔で答える。
「えぇっと、そうですねぇ。ご令嬢は、御国に恥じないマナーを身に付けて、貴族階級の方々と社交やダンスを楽しみ、婚約して…」
「メリッサ、もういいわ。十分伝わったわ」
やばい、無理だ。
公爵令嬢こそが、地獄だ。地獄という名の、令嬢エンドが目の前に広がる。
社交にダンス、他の令嬢からの嫌がらせ、その上貴族に媚びるなんて… 令嬢の方が、地獄じゃん。
元引きこもりに荷が思いし……牢獄エンドの方がいい。関わりたくないよぉ。
「決めたわ!」
「な、何をですか?」
こうして、悪役令嬢レイシア五歳は牢獄エンドを目指す事にした。