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5(レイダート視点)






「わたくしも発言…よろしいですか?」


 青ざめて震えながらも、しっかりとヴァルダーク殿下に視線を合わせているライラに私は目を瞠りました。


 幼い頃より殿下を目にしては怯えていたライラ…なまじ感じとる力を持っているために、それは無理からぬことと言えました。

 莫大な魔力をその身の内に秘めている殿下のことは誰しもが知っていることではあるのですが…。


 ───それが魔王になりえるほどのものだと気づいている者は何人いるでしょうか。


 うまく隠していらっしゃるが、その内にあるものが決して見た目どおりのものではないこと…けれど、神子の…レイリィの存在で殿下の纏う気は変わる。例えるなら、突き刺すような厳しい冬からうららかな春の日に変わるように。


 おそらく、レイリィの存在を教えたのは女神……私は少しでも長く自由に過ごしてほしかったので、あえてレイリィの存在を報告していませんでした。隠し通すのは難しいとわかっていましたが、それでも少しでも…と。

 殿下もそれがお分かりだから、隠し立てをしていた私を責めることはなさらない。


 女神はきっともう限界だと判断されたのでしょう。レイリィはきっとどんな存在であっても殿下を慈しむ貴重な人間……殿下には必要なひとなのです。


「恐れながら、殿下には他にお気に召した女性がいらっしゃると伺っています。レイリアーナはわたくしにとっても妹のようなもの…妃に望まれるというのは納得できかねます」


 そしてライラにとってもレイリィは家族のような存在。だからこそ、勇気を出した…レイリィがそばにいることで穏やかな殿下に勇気が出せたとも言うのでしょうが。


「僕が心から愛しているのはレイリィだけです。何かの間違いではないですか?」


 殿下の隣に座っている側近のウォルフさまが笑いを堪えているのが目に入りました。


 殿下が高級娼館の一人の娼婦のもとに通っていたことは耳にしていますが…それが小柄な女性と聞いて何とも複雑な気持ちになったものです。

 ライラもそのことを知ってしまったのでしょうが…潔癖な彼女には理解が難しいでしょう。

 これは会話の流れを変えなければと口を開きかけた時、明るい声が響きました。


「ライラさま、ヴァル殿下はもう22歳でこーんなイケメン…じゃなくて、素敵な男性になってるんですよ。過去に恋人の1人や2人や3人や4人や」

「まだ続くの!?それに僕が好きなのはレイリィだけだって言ってるのに!!!」


 場の空気が…一気に変わりました。レイリィは笑いながら、頬を膨らませている殿下の頬に手を伸ばしてつついています。

 それを幸せそうに甘んじて受け入れている殿下…ライラはひたすら驚いた顔をしていました。


 どうやら私の危惧は無用だったようで───実は密かに思っていたのです。殿下のレイリィへの愛情は本物でしょうが、だからこそ場合によってはレイリィを閉じ込めかねないのでは…と。

 ライラも安堵したように二人を見つめています。


「納得いただけたなら、レイリィが僕の妻になるのは決定事項ということで」

「えっ!?わたしは納得していま」

「とりあえず、国王陛下に報告をします」


 国王陛下は先代の国王が殿下の幼い頃に亡くなられたため、中継ぎの王となられた殿下の叔父君です。殿下も立派に成人され退位も間近ではとの噂がありますが…まさか、ご即位とご成婚が同時に行われるなんてことは…。


「レイダートさま!わたしでは妃は務まらないと言ってあげてください」


 おや、矛先が私に来たようです。どうしましょうか。私は笑顔を浮かべました。


「レイリィ…勉強が役立つ日が来たようですね」

「え…?……ええ~っ!?」


 そう、レイリィにライラと同じ教育を受けさせていた理由はこれです。いずれ殿下に娶られることを想定してのことだったので、レイリィは十分な教育を受けています。そして教師陣は揃って太鼓判を押していました。


「ああ、妃教育に等しい聖女の教育をレイリィに受けさせていたんですね」

「ええ、殿下が迎えに来られることは分かっていましたので」


 殿下は助かりますと微笑まれ、私はゆっくりと首を振りました。


「積もる話もおありでしょうから、私とライラは席を外させていただきますね」


 目配せすると、ライラも頷いて立ち上がりました。今日の殿下は本当に表情豊かで、立ち去る私とライラにそれはもう嬉しそうに礼を述べられました。


 廊下に出て、ライラはゆっくりと息を吐いています。緊張が解けたのでしょう。


「わたくし…勘違いをしておりました。殿下にはレイリィが必要なのですね」

「そうですね……おそらくレイリィが…」


 思わず考え込んだ私を、ライラが不思議そうに首を傾げて見ています。


「ああ、すみません。行きましょうか」

「はい」


 ライラの安堵の笑みを見ながら、私はなおも考えていました。






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