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 レイダートさまの執務室に入り、ソファーまで来てようやく解放されるかと思いきや、ヴァル殿下はそのままわたしを膝の上に乗せた……完璧子ども扱いですよね、これって。


「あの、こう見えてわたしは子どもではないんです」

「うん、わかってるよ……さっき抱きしめた時にも実感したしね」


 実感?重いということだろうか。慌てて降りようとすると、お腹に腕を回されてしまった。


「ダメだよ」

「でも、重いでしょ?」


 一瞬、ヴァル殿下の動きが止まった…と思ったら身悶えし始めた。何かおかしなことを言っただろうか?


「……あー…このかわいさ、どうしてくれよう」


 しまった。余計に拘束が強くなった気がする…。


「殿下、大神官さま方もお困りですよー。何でしたら神子さまにあんなことやそんなこと、告げ口しちゃいますよー」

「……わかってるよ」


 ウォルフさん…だったっけ。ヴァル殿下に軽い口調でツッコミを入れている。仲がいいのかなと安心して見ていると、ようやくレイダートさまが口を開いた。


「殿下はなぜレイリアーナのことをご存知なのか、お聞かせ願えますか?」


 レイダートさまの隣ではライラさまが緊張した面持ちでいた。ヴァル殿下がいるからなのだろうか。


「申し訳ないですが、その返答は控えさせていただきたい…だが、あなたは予想がついているのでは?」

「そんなことは…」


 あ、予想ついてるんだ。レイダートさまの表情でそう判断すると頭を撫でる感触がする。


「今の名前はレイリアーナって言うんだ?かわいいね」

「はい、よかったらレイリィとお呼びください」


 見上げて愛称を告げるとヴァル殿下は微笑みながら頷いた。天使の微笑は健在だなぁなんて感心しつつ、顔を前に戻すとなおも難しい顔をしたレイダートさまが目に入る。


「レイリィをお連れになるのですか?」


 ん?連れるって、どういうこと?


「もちろんです。彼女は僕の花嫁だから」


 ───はい?


「すぐには無理ですが、近いうちに迎えに来ます。もうひとりの聖女…『小さな黒の聖女』と噂されている彼女なら、僕の妻に…妃に迎えても誰も反対しないでしょう」


 そうなのだ。ライラさまと行動を共にしているうちに、わたしの存在が噂されるようになったのは知っている。ひょっとして聖女がもうひとり現れたのではないか、と。

 ただ…『小さな黒の聖女』って…『小さな』はつけなくてもいいのではと密かに思っていた。……小さいの、コンプレックスなのに…。


「レイリィが嫌でなければ、神子の生まれ変わりだと公表してもいいと思っています」


 って、考えごとしてる場合じゃなかった!


「待ってください、ヴァル殿下」

「なに?」

「結婚を前提に話を進めるのは困ります…そもそも、わたしなどが釣り合うわけがないでしょう?」


 再び見上げて必死に訴えると、にっこり笑顔で…あ、わかってくれた?


「昔、僕が求婚したら『10年経っても結婚したいと思ってくれてるならいいよ』って答えてくれたよね?15年経っても気持ちは変わってないんだけど?」


 あー、確かに言いましたとも!でもそれぐらい経てば、かわいい恋人もできてるんじゃないかと思ったし…何よりとっくに元の世界に還ってるだろうという事情もあったわけで。


「あのね…ヴァル殿下の奥さんになるということは、いずれ王妃になるということなんだから。ちゃんとした人を選んだほうがいいよ」


 あ、つい昔と同じように敬語が抜けてしまった。


「と、とにかくヴァル殿下には別にふさわしい人がいらっしゃるはずですから」

「敬語なしでいいのに…」


 そこへ、ライラさまがこの場で声を発した。


「わたくしも発言…よろしいですか?」


 青ざめた顔で声を震わせながらも、その目はしっかりとヴァル殿下を見ている。まるで恐れているように見えるのはなぜだろう。


「どうぞ、聖女どの」


 了承の返事にライラさまは意を決したように口を開いた。






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