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 本日の勉強を終え、わたしは深く溜息をついた。……毎日、キツイ。

 そう、わたしの日々の用事には勉強も入っている。レイダートさまの言いつけだから、頑張ってはいるのだけれど。

 今のわたしはどういった立ち位置なのかというと……よく分からないというのが本音だったりする。


「レイリィ、レイダートさまのもとに行くんでしょ?わたくしも付き合うわ」


 雪のような白い髪と深い蒼の瞳をしたライラさまはふわりと微笑んだ。美しい笑顔は誰もが見惚れること間違いなしだ。

 ライラさまは聖女と呼ばれる存在だ。わたしが召喚される一年前に産まれ、せめて10年早く産まれていたら神子の召喚を行わなくて良かったのではないかと言われている。

 でも、そうは思わない。神子を失って人々の心の支えになったのはライラさまだ。幼い身でよく人々の期待に応えられたと拍手を送りたい。


 わたしは今は聖女であるライラさまと行動を共にしていることが多い。勉強も一緒なので、ライラさまと同等の教育を受けるのは申し訳ないとお伝えしたのだけれど、レイダートさまだけでなくライラさまにもなぜか憐れむような目で『いずれ必要になるから受けておきなさい』と言われるだけだった。


「いいんですか?ライラさまもお疲れなのではないですか?」

「そうね…嫁ぐために必要とはいえ、仕事と両立はツライわね」


 この世界の聖女は必ずしも独身というわけではない。結婚して子どもを産んでも力が失われることはなく、寿命が尽きるまで聖女と呼ばれる。

 ただ、聖女が嫁ぐ先は引く手数多で王侯貴族がほとんどらしく、幼い頃より妃教育と言っても過言ではない高等教育を受けさせられるのだ。

 最終的には聖女の意思が尊重されると聞いて安堵したけれど、聖女という貴重な存在を守る意味では一番は神殿にいること。嫁ぐのであれば、守るだけの力がある高位の人間が望ましいらしい。


 ライラさまも嫁ぐ先は侯爵子息。18歳のライラさまより4歳上で子どもの頃に一目惚れされたらしい。奇しくもヴァル殿下と同じお年なので、ライラさまに面会に来る彼を見てはヴァル殿下もこんなに大きくなってるのだろうなと感慨深く思ったものだ。


「でも王太子殿下のことでお話しするのでしょう?わたくしも気になっているから、一緒に行くわ」

「気になるって…ヴァル殿下に何かあったんですか?」


 ライラさまは定期的に婚約者と会っている。その時に何か聞いたのかもしれない。


「いえ、身の危険とかそういうわけではないの。あなたの護りの魔法、まだ効果あるのでしょう?」

「はい…」


 ライラさまもわたしが神子の生まれ変わりだとご存知だ。生まれ変わる前にヴァル殿下に施した魔法についても話している。


「15年経っても有効なんて、本当にすごいわよね」

「でも、もうすぐ効果がなくなると思います。あの時はそこまで魔力が残ってなかったので……」

「残り少ない魔力で15年なのよね。さすが神子と言われた存在だわ。魔族との戦いで力を使い果たしてなければ亡くなることはなかったでしょう」


 ライラさまは痛みを堪えるかのような表情を浮かべている。ご自分が早く産まれていれば神子が召喚されて命を失うことはなかったと思われているのだろうか。


「わたくしが早く産まれていれば、一緒に戦えたのに」


 ん?他の人々と見解が違うようだ。ご自分が早く産まれていても神子の召喚は行われていたと思っているように聞こえる。

 不思議に思っているのが顔に出ていたのだろう。ライラさまは小さく微笑んだ。


「ごめんなさい。わたくしが早く産まれていてもあなたは必要だったの。みんなは聖女が早く産まれていたらと言うけれど、聖女の手に負えないから神子が必要なのよ……ねえ、知らないでしょう?あの戦いで亡くなったのは神子ただひとりなのよ」


 その言葉にわたしはポカンと口を開いた。

 確かに戦いの前に参戦する人全員に魔法をかけた。かなり魔力が消耗されるのはわかっていたけれど戦いに赴く人々が少しでも傷つくことがないように、と。それでも全員が無事なんて奇跡があるわけないだろうと思っていた。


「もちろん無傷というわけにはいかなかったけれど、人々は今でも神子に感謝しているわ。戦いに参戦した本人や家族は特にね」


 ……そっか…。わたしがしたことは無駄ではなかったんだ。みんな、無事だったんだ。

 思わず目が潤みそうになるのを堪えて笑みを浮かべると、ライラさまはわたしの頭を撫でた。


「話し込んでる場合ではなかったわね。早くレイダートさまのところに行きましょうか」

「はい!…ってもう小さいからっていつまで撫でてるんですか、ライラさま」

「あら、かわいいからつい?」

「小さくてもライラさまとそんなに年は変わりませんからね?」

「でも3つしか違わないと分かっててもかわいいんだもの」


 くぅっ…平均身長ぐらいのライラさまとの差は大きいから……いや、あらゆる人たちに子ども扱いされてしまうのだけれども。


「もう行きますよ」

「はいはい」


 頬を膨らますわたしとそれを見てクスクス笑うライラさまは並んでレイダートさまのところへと向かった。






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