『キャッチャー』【一画面小説】
アウトコース低めにスライダーが来れば、おそらく、ジュンタの野球人生が終わる。高めに浮けば、おそらく、ヨシトの野球人生が終わる。
ジュンタは、地元の少年野球チームから県立工業高校野球部まで、同じチームに所属していた。クラスは違ったため、普段話す機会はあまりなかった。しかし、彼がトレーニング担当として考えてくれた俺個人のトレーニングメニューは、俺のケガしにくい身体づくりに役立っていると思う。彼には、感謝している。
ヨシトは、大学から同じチームになったパートナーだ。一年の頃からバッテリーを組んで以来、公私に渡って、互いの成長を支え合っている。ヨシトはどう思っているか分からないが、俺はそう信じている。少しでも長く、ヨシトと野球をプレーしていたい。カレは、俺がそう思う唯一の野球選手だ。
野球は不思議なスポーツだ。バッターはピッチャーを睨みつけているし、ピッチャーは俺の指がサインを出すのを睨みつけている。俺はその様子を、ぼんやりと視野に収めている。直後、俺は、ジュンタの狙うスライダーのサインをヨシトに伝え、どこに投げるかは、ヨシトに任せた。
なぜ、このサインを出したのでしょうか。
違うサインを出すことも出来たのではないでしょうか。