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最悪な奇跡

クラス対抗リレーは全4クラス、各5人の走者による20人での競走だ。

我がクラスが優勝するには現在1位のクラスに勝たなくてはならない。

逆に言えば、この対抗リレーに優勝する必要はない。他のクラスがリレーに優勝しても、俺達のクラスが3位以上の順位なら逆転は起こらないからだ。

つまり、実質的には俺達のクラスとライバルとなるクラスとの一騎打ち。


第一走者がトラックを走り終える。

現在、俺達のクラスは1位、ライバルは2位だ。

しかしながらその差は僅差だ。

続いて第二走者にバトンが手渡される。

第二走者達も順位を入れ替えることなく、第三走者へバトンを繋げる。

手が汗ばむのがわかる。一番嫌な流れだからだ。

アンカーである俺の対抗馬となるのは、例の陸上部君だ。

当然、同じ条件で走れば俺の敗北は必至。

となると、勝つには「アンカーまでにどれだけのリードを稼げるか」ということになる。

俺はみんなの貯金を使い潰す係というわけだ。もし、みんなが作ったリードを無駄にして負けたりしたらーー

「悪いな。」

リードしていたのにアンカーで逆転されて負ける、最悪のシナリオを想像していると、隣で自分の順を待つ陸上部君が話しかけてきた。

「ルール違反なのはわかってるんだ。…けど、この勝負には絶対に勝ちたい。」

陸上部君は俺にではなく走っている走者を見ながら続けた。

だから、俺も陸上部君の方は見ずに聞いた。

「…そんなに矢那さんのことが好きなのか?」

僕の返事に、陸上部君は驚いたようにこちらに視線を移した。が、すぐに走者に目を戻す。

「そうだよな。そう思うよな。けど違うんだ。いや、矢那さんに片想いしてるのはその通りなんだけど。」

あまりにもあっさりと、そう、自分の片想いを告白した陸上部君に、今度は俺が驚きで目線を動かしてしまった。

「友達だったからだよ。矢那さんもーー」

「ーーー!!!」

陸上部君の言葉をかき消すように叫び声が上がる。

見ると、いつの間にか第三走者が第四走者にバトンを渡すところだった。

今の叫び声はライバルクラスの第三走者のものだったようだ。上手く聞き取れなかったが、恐らく第四走者の名前なのだろう。第四走者が答えるように小さく頷いたのがーーそんな小さな仕草に気付けるはずがないのにーー見えた。

順位は、未だに我がクラスが1位。僅差でライバルクラスが食らいついている。

第四走者が走り出し、とうとうアンカーである俺達の出番が近づいてきた。

トラックに入り、現在の順位順に並ぶ。しかしー

「勝った。」

陸上部君が呟く。同時に俺は自分の敗北を悟った。


ライバルクラスが我がクラスを抜いた。


残るアンカーの結果は目に見えている。俺が抜かれることはあっても抜くことはない。

最早俺が手を抜くとかそういう次元の話ではない。全力で挑んでも尚、俺は敗北するだろう。

さっきまでの緊張感が消え失せていき、所詮はこんなもんかと、嘲笑にも似た気持ちが湧き上がってくる。俺が何か考えたりするまでもなく、あのチャラ男の告白はこれで失敗だ。

そして、そしてーー無性にモヤモヤした。

俺の努力なんてなんの意味もない。俺がどう足掻いたところで矢那さんの色恋には何の影響も与えることができない。

そう思うとーーそれでいいはずだ。あんなチャラ男が彼女と付き合うなんて反吐が出る。

だというのに、この気持ちは何なのだろう。

圧倒的な疎外感。自分が世界から切り離されていく感覚。


意味がない。


声がした。無機質で、淡々と絶望を語る声が。


それでも俺はーー


声がした。自信に満ちた、希望を謡う声が。


その声に応えないといけないと思った。

その声は俺の真実だった。


走った。先を走る陸上部君も忘れて、ただ全力で。


そして、我がクラスはアンカーで大逆転という奇跡を起こしてクラス優勝を決めたのだった。

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