高校生真田純一の憂鬱
「俺、この体育祭でクラスが優勝したら矢那さんと付き合うことになったから!みんな協力ヨロシク!!」
そんなアホな告白は、大胆にもクラスのHR中、体育祭の参加競技を決める話し合いの初めに行われた。
告白したアホはーアホだ。それ以外の説明が必要ないほどに。
だがまぁ、HR中にそんなことが言えるのだ、所謂チャラ男であり、運動ができる奴ということぐらいはわかってもらえると思う。
対して、矢那はるな、告白された女子は入学当初から美少女として有名な存在であり、加えて成績優秀で運動もできる、おまけに性格が良くて社交性もある。という天から二物も三物も与えられた存在で当然男子の憧れの的だ。かくいう俺も密かに憧れている。
入学から半年も経っていないのにかなりの回数の告白をされているにも関わらず、それをすべて断っているらしい。それで、アホがこんなアホな行動に出たのだろう。
しかしなんというか、矢那さんがそんな条件を飲んだと言うのが少し意外だった。結構脈アリと言うことなんだろうか。
俺は矢那さんの方を窺おうとして、彼女が俺の席から真後ろの方向なのを思い出して、止める。さすがに真後ろともなるとちらりと覗き込める範囲ではなくなってしまう。
ともあれクラスの空気は「俺達が全力で二人をくっつける」という流れで決まったようだ。
このクラスの男子にも矢那さんに片想いしてる人は少なくないと思うが、もはやクラス全体の恋のキューピッド気分に水を指すことができない状態だ。
ここで反対などしようものならそれこそ矢那さんに告白するようなものだ、そんな度胸があるやつなど先にアホな告白をしたアホしかいない。
かくして、クラス本気の体育祭の競技選択が始まった。
俺も運動は得意な方なので結構な数の競技を割り振られた。
気分は複雑…というかはっきりと嫌なのだが、断れる雰囲気でもない。まぁ自分一人の努力で結果が変わることなどないだろうと自分を慰める。
「じゃあ、真田。アンカー頼むな。」
自分の参加する競技の合計点数が全体の何割になるだろうか、などと考えていると突然声をかけられる。
まだ何か競技が残っていただろうか?顔を上げるとそこには"クラス対抗リレー"の文字がある。
「は?」
クラス対抗リレーは体育祭の目玉競技で、ラストに行われる競技だ。当然ながら点数も高い。
なぜそんな競技の、しかもアンカーの役が回ってくるというのか。
「な、なんで!?俺より速いやついるだろー
「クラス対抗リレーは陸上部出れないんだわ。で、陸上部の次に速いのお前だろ?」
チャラ男の言葉に、何も言い返せなくなる。
こうして、俺はこの馬鹿げた告白の結果を握らされる羽目になったのだ。