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勇者8

「せぇぇい!!」

リーランド騎士長の気合の籠もった槍撃が舞う。

それを閃く刃が弾き返す。

しかし、リーランド騎士長は全く体制を崩すことなく、更なる連撃を加える。

だが、それさえも剣が弾き返す。

リーランド騎士長の全力の攻撃をしのいだことに、周囲の兵士達から感嘆の声が上がる。

リーランド騎士長は斜め後ろに飛び上がり、空中で体制を整え、槍を投げた。

魔力が込められた槍を同じく魔力で強化された筋肉で射出されたソレは、元の世界で例えるなら戦車の砲弾のソレだ。

だが、それだけの威力を秘めた一撃でさえ、構えられた剣を前にその進撃を止める。

だが、リーランド騎士長もそれは織り込み済みだった。

リーランド騎士長は帯刀していた剣を引き抜き、槍を防いで無防備となった体に突撃する。

しかしリーランド騎士長の振った剣はまたしても弾かれ、突撃の勢いも殺される。

だが、リーランド騎士長の猛攻も止まらない。

弾かれればその勢いで、別の角度から。

受け止められれば押し込み、逆に引き。

フェイントを織り交ぜ、時には全力で。

最初のほつれはほんの小さなことだった。

剣の向きが数度ずれた。

足の位置が数センチずれた。

次の剣戟への対応が一瞬遅れた。

リーランド騎士長はそのほつれを決して見逃さなかった。

一度崩した体制を建て直させなかった。

一度遅れたタイミングを直させなかった。

そうして、小さなズレを重ね続け、とうとう防御を掻い潜り、喉元に剣を突きつけた。

「参りました。」

俺は、渋々剣を捨てて両手を上げた。


「ふぅ。やはり全力で体を動かすのはいいものですね、勇者様。」

試合を終え、汗を流しながら爽やかにリーランド騎士長が言う。

「あなたはそうでしょうけどねぇ。」

対する俺の声は暗めだ。試合に負けたからではない。そもそも"全力で体を動かしていない"からだ。

「楽しいか?!なぁ楽しいか?!全力出してない子供相手に本気で潰しにかかって楽しいか?!おい!」

さっきの試合、俺は全くもって本気を出していない。

負け惜しみなどではない。もし、本気でやっていれば最初の槍での打ち込みの段階でカウンターで一撃決めていた。

それをしなかったのは、訓練の為、"リーランド騎士長とほぼ同じ力までしか出さない"というルールがあったからだ。

だがそうなると技術的に劣る俺が劣勢になるのは至極当然であり、こうして何十回目かの敗北を味合わされているわけだ。

しかし、まぁ…それは訓練なのだから仕方ないのだろう。これは俺の技術を磨くための訓練なわけで。

だが、リーランド騎士長が全力で動き回って発散しているのを見せつけられるのはやっぱり納得が行かない。

「とはいえ、勇者様の本気を受け止められる者はおりませんから、ここは我慢して頂かなくては。」

もう何度も聞いた建前をリーランド騎士長、いや、リーランドが言う。

「うっせぇ!いつか絶対負かしてやるからな!」

リーランドは「はっはっ、その意気ですよ。」と余裕綽々だった。

訓練を始めてもう数週間が経っていた。

体術の訓練に関しては最初こそ素振りなんかをさせられたものの、今ではリーランドと一騎打ちを繰り返す形に落ち着いている。

俺としてはなんともフラストレーションが溜まる日々だったが、対するリーランドは満足気だ。

それもそうだろう、今まで、つまり俺たちが召喚されるまではリーランドが今の俺の立場だったのだたから。

全力を出せば勝つのは当たり前。だから常に手加減を要求される。

言葉にしてしまえばそこまでだが、結構なストレスだ。

おかげで当初は敬語で話していたリーランドに対してもすっかりタメ口になってしまった。

いや、まぁこれに関してはリーランドが気を効かせてくれた結果なのだろう。

そのおかげで

「勇者様ー!今日も惜しかったですね!」

「うるせーよ!今日"も"は余計だー!」

兵士たちの軽口に対するツッコミに兵士がどっと沸き立つ。

こうしてみんなとの距離を縮める事ができた。

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