その始まりはただ突然に
高校生初めての体育祭を終え、俺は一人家へと帰る途中だった。
疲れで、いや、それ以上に憂鬱な気持ちが体を支配して、足取りを重くさせていた。
体育祭最後の競技、全クラス対抗リレーの結果が頭の中をリフレインし続ける。
どうしてああなったのか、何度思い返しても結論は見えない。
そんな思い悩みをしていたせいか、俺は"それ"に気付くことができなかった。
重い足が更に重くなったのを感じた。いや、動かなくなった。
更には気持ちと同じように身体が沈む感覚がして、俺はようやく意識を外に向けた。
いつの間にか地面のアスファルトは消え失せ、真っ黒な闇がそこにあった。
その闇はまるで沼のように俺の足を飲み込み、徐々に俺の身体を飲み込んでいた。
「え…?」
あまりの事態に理解が追いつかない。逃げなければ、と思ったのは既に腰辺りまで体が飲み込まれてからだった。
足に力を入れるが全く動かない。そもそもこの闇の下に俺の足はまだ存在しているのだろうか?そんなことを思うほど、闇は不気味だった。
「誰か!?」
助けを呼ぼうと叫ぶが、視界に人の姿はない。そもそもいたとしてどうやって助けるというのか。
遂には首まで飲み込まれ、一切の身動きができなくなる。
覚悟を決め…られるはずもなく、ただただ迫る終わりから目をそらすために瞼を閉じる。
やがて、瞼越しの光さえ消え、落ちていく意識の中に浮かんだのは太陽のような少女のことだった。