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魔術師の会合

少し説明が多めです。

 あの後、真羅が魔王討伐に参加することを口にすると、残っていた者もつられるように参加することになった。

 カルストフは急な出来事で混乱してしまっている真羅たちを気遣って、詳しい話は後日することにした。

 その後、日が沈み夜になる頃には、真羅たちには個室が与えられ、皆それぞれの部屋で休んでいた。まだ現実を受け止められずにいる者もいて、勇志や結衣が励ましていた。

 

 そんな中、真羅は自室で羊皮紙を広げて占いをしていた。羊皮紙に描かれている魔法陣には四枚のタロットカードが置かれていて、中心には以前と同じで魔術師のカードが置かれていた。


『――我が運命を示せ』


 真羅は魔術師のカードに手を置いて呪文を唱えた。


「やはり詠唱は訳されないのか」


 真羅たちをこちらの世界に召喚するときに使われた魔法陣には、相手の言語を自分の使っている言語に翻訳する術式と、自分の言葉を相手の言語に変換する術式が組み込まれていたため、真羅たちはこちらの世界の者たちと会話することができるのだ。

 このような魔術は向こうの世界にも存在していて、呪文の詠唱などの神秘的な言霊には効果がないのだ。無論、こちらの世界の言語で習った魔術ならば効果はあると思うが。

 真羅は今まで言葉を話す時に違和感を感じていたが、詠唱をしてみると何の力も働ないのを確認できた。

 それを確認した真羅は、魔術師のカードから手を放し右から順に残りのカードを裏返した。


「なるほど、取り敢えずさっきの行動は間違ってはいないのか」


 真羅は占いの結果を見ると納得したような表情をした。


「まあ、帰る方法がないなら自分で見つけるしかないか」


 真羅は先ほどよりも落ち着きを取り戻していた。さっきまでは魔導書のことしか考えていなかったが、今は現状を冷静に分析できており、自分のやるべきことを正確に把握していた。


 タロットカードを集めると、真羅は指を軽く鳴らす。

 すると、不思議なことにタロットカードの表面の絵が消えて白紙になった。実はこのタロットカードは占い専用の魔導品(アーティファクト)で、普段は白紙だが魔力を通すと絵が浮かび上がるようになっていて、羊皮紙に描かれた魔法陣と組み合わせることで、現状や未来などを占うことができるのだ。

 

 タロットカードと羊皮紙をポケットにしまうと、真羅はベッドに腰を下ろした。


「ユキ。起きてるか?」


 真羅がそう呟くと制服の胸元のポケットからユキが顔を出した。ユキは真羅が使役している使い魔で、白い毛並みのドワーフハムスターの姿をしている。

 

 通常の動物型使い魔は、主に二種類ある。

 生きている動物を魔術をかけて操ったものと、動物の霊を使役したものの二つがある。ユキは後者であり、元々は一般の家庭で飼われていた普通のハムスターだったが、真羅が幼い頃に、未練を残してこの世にとどまっていたユキと偶然出会って使い魔にしたのだ。


 ちなみにユキは真羅の最初の使い魔である。


「いきなりでお前も戸惑ってるかもしれないがこの城を調べてくれないか?」


 真羅がそう言うと、ユキは部屋の壁をすり抜けて外へ出て行った。

 

 ユキを見届けると、真羅は魔力を整えて呟いた。


「ディア、来てくれ」


 真羅がそう呟くと隣に一人の少女が現れた。少女は艶やかな黒髪にまるで黒曜石のような漆黒の瞳を持っていて、美少女と言うのに相応しい容姿をしているが、無表情で目は眠たげに細めている。そして、その少女にはなんと、背中に一対の純白の翼が生えていた。


「呼んだ?」


 黒髪の少女は抑揚のない声で答えた。


「ああ、ディア。取り敢えず状況は分かっているか?」


 ディアと呼ばれた少女は無表情のまま頷いた。


「学校にいるときに召喚されて違う世界に飛ばされた」


「そうだ、まさか異世界に飛ばされるとは……夢にも思わなかったな」


 真羅は少し呆れを含んだ溜息をつくと、気を取り直すように表情を引き締めた。


「まあ、過ぎだこと気にしても仕方がない。ディア、何か分かることはあるか?」


 真羅がそう問うと、ディアはどこからともなく一冊の魔導書を取り出して開いた。ディアはそのまま魔導書を読んでいたが、しばらくすると顔を上げて口を開いた。


「ここが地球上ではないことは確か」


「やっぱりそうなのか。他に分かったことはあるか?」


「この世界には魔導が一般的に広まっている」


「そうか。確かにマナが濃いし、科学よりも魔導が発展するのも当然と言えば当然か」


 真羅は納得したような顔をした。先ほどこの部屋に来る前に調べたが、マナが濃いのはこの城だけでなく城の周りもマナが濃かったため、おそらくこの世界は全体的にマナが濃いのだろう。

 

 真羅は魔力を操り、指先にその場で適当に作った術式を展開した。


「こんなお粗末な術式でも現象化するのか」


 真羅は指先を見ながら呆れたように呟いた。こんなお粗末な術式でも魔術として成立してしまうのなら、誰でも少しの努力で簡単に魔術が使えるだろう。


「そう言えば、ここじゃ魔術のことを魔法って呼んでたな。それも何か意味があるのか?」


 真羅がそう言うと、ディアは魔導書を捲り始めた。


「魔法は魔力を用いて成す技のこと全て」


「んっ? じゃあ、これも魔法なのか?」


 真羅は手の中に純粋な魔力を集めて壁に向けて放った。彼が放った不可視の魔弾は、壁に当たると小さな穴を作った。

 真羅はその穴を見て「やばっ」と、すぐに修復の魔術を使って壁を直し始めた。


「うん。それも魔法になる」


「そうですか……」


 魔術とは、魔力を使い術式を組み上げて世界に干渉する技術だ。それに対して魔法は、魔力と用いてするものなら全て魔法と言うらしい。そのため、この世界に来てから魔術と訳されず、魔法と訳されているようだ。

 真羅は壁を直し終えると、ディアの方を向いて椅子に座った。


「今更なんだが、元の世界に戻る魔法陣は本当にないのか?」


 ディアは魔導書のページをしばらく捲っていたが、それらしきものがなかったのか首を横に振った。


「そうか。まあ、しょうがないか」


 この国が自分たちを戦わせるために、嘘をついている可能性もあったが、どうやら本当にないらしい。無いものをねだっても仕方ないと、真羅はあっさりと魔法陣を捨てた。


 真羅がこれからのことを考えていると、部屋に誰かが近づいてくるのを感じた。


「ディア。誰か来るから隠れてくれ」


 真羅の言葉を聞くと、霊体化して姿を消す。


(魔術を使ったのを気付いたのか? クラスのやつらは気付くわけがないし、さっき見た宮廷魔導師とかいうやつか?)


 真羅は冷静に誰かを推測するも、誰であっても魔術師であること知られるわけにはいかないと判断し、すぐに行動を起こした。

 真羅は懐から白い羽のような紋章が描かれた黒いリボルバー型の魔銃を取り出し、忘却の魔術を待機させた。

 魔銃とは魔術を行使するのを補助する媒体で、昔は主に杖や腕輪などが使われていたが、現在は銃などの現代兵器も媒体に使われている。

 

 真羅がドアの近くで魔銃を構えると、ドアがノックされた。


「誰だ?」


 真羅が警戒しながら尋ねると、ドアの向こうから声が返された。


「私だよ。真羅君」


「なんだ、詩音か」


 真羅が訪ねてきた相手が詩音だと分かると、警戒を解きドアを開けた。


「驚かせないでくれよ」


「ごめんごめん、何かしてたの?」


 真羅は詩音を部屋に入れると、ドアを閉めてディアを呼んだ。


「ここのことを調べてたんだよ」


「ああ、なるほど。ディアちゃん、久しぶり!」


 詩音はディアを見ると納得したような顔をして挨拶をするが、ディアは相変わらず無表情のまま黒曜石のような瞳で詩音の方をを見るだけだ。


「ディアちゃんは変わらないね」


「ディアは昔からこんな感じだろ」


「それもそうだね」


 真羅と詩音の話を聞いてもディアは無表情のままだ。


「ディアちゃんは疑似精霊なんだっけ?」


「ああ、そうだよ。ちょっと特殊だけどな」


「特殊?」


「神威家に伝わる魔術で生まれたんだ」


 ディアは神威家に伝わる特殊な魔術で生まれた疑似精霊である。

 普通、疑似精霊は精霊を模して魔力などを用いて作ったもので、本来はただ強大な力を持っているだけの魂のない人形なのだが、ディアは神威家の魔術により人工的に創られたものだが魂を持っている。そのため、ディアは自我を持ち、無表情で分かりづらいがしっかりと感情を持っている。

 

 (くろ)御遣い(みつかい)ディア。

 真羅が神威家の固有魔術で生み出した五体の最高位疑似精霊の一人である。五人の疑似精霊はそれぞれ別のものを司っていて、ディアは知識を司っている。

 彼女たちは普段は真羅の精神体の中で眠っているのだが、真羅が呼んだときや、彼に何かあったときに外に出て来るのだ。

 

「ディアちゃんみたいな疑似精霊って、私でも生み出せるのかな?」


「無理じゃないが、かなり難しい(メンドイ)ぞ。それに神威家の魔術って他のやつじゃ使えないしな」


「えっ? そうなの?」


「神威家の者ってほら、なんかよく分からない特殊な力があるだろ?」   


 真羅が言った通り、神威家の者には特殊な力を持っている。それは本来は人が持ちえない力であり、神威家ではその力を魔術に応用している。

 

「……力のことは知ってたけど、魔術のことは初耳だよ」


「んっ? 言ってなかったけか?」


 真羅からしたらこの魔術は幼い頃から学んでいたので、当たり前の知識だったため言い忘れていたらしい。


「言ってなかったよ! 昔から組んでたのに!」


「すまん。てっきり知ってるものだと思ってたから」


 真羅は謝るも、詩音は口を尖らせたままだ。

 長い付き合いなのに重要なことを伝えてなかったのが気に入らなかったらしい。


「まあ、今はそんなこと気にしてる場合じゃないし、許してあげるよ」


「どうも。今度からは気を付けます」


 真羅はこれ以上、詩音の機嫌が悪くならないように丁寧に言った。それを見た詩音はおかしそうに笑う。そして、真羅が持っていた銃に気付く。


「あれ? 真羅君、魔銃なんて持ってきてたの?」


「ああ、魔術で収納してたからな」


「えっ! どうやって? 私も収納の魔術でしまってたけど、こっちの世界に来てから収納空間につながらないいよ?」


 収納の魔術とは、魔術により作り出した異空間に物を収納する魔術で、向こうの世界の魔術師の間では一般的に広まっている魔術だ。この魔術は大量の物を持ち運びできて便利なものだが欠点もあり、結界の中などの妨害があると収納空間につなぐことができなくなってしまうのだ。ここは異世界なので当然つながらない。


「俺は収納の魔術を改良して使ってるからな。どこでも物の出し入れは自由だよ」


 真羅はそう言って、掌の上に花のような紋様が描かれいて中心に赤い宝石がはめ込まれたブレスレットを出現させた。

 真羅は収納の魔術を応用して独自の魔術を作り出している。普通の収納の魔術は異空間を外部に作り出してその中に物をしまうのだが、真羅はその収納空間を体内を座標に作っているのだ。そのため、真羅は場所に関係なくどこでも物を出し入れすることができるのだ。

 

 この魔術の名は【内なる物置小屋】といい、本来の収納の魔術が本人の技量によって生み出せる空間の大きさは変わるのに対して、この魔術は体内が座標のため、外部からの影響を受けない代わりに、物置小屋の名の通り一辺が五メートルの立方体程度の大きさの空間しかないのだ。しかし、真羅は魔術に必要な物しか入れてないため、この大きさでも十分なのだ。


 真羅は取り出したブレスレットを詩音に投げて渡した。


「それやるよ。魔導品(アーティファクト)持ってないんだろ?」


「あ、ありがとう」


 詩音は受け取ったブレスレットを腕に着けた。


「どう? 似合ってる?」


「ああ、俺が着けてるよりは絶対に似合ってるぞ」


 真羅が笑いながら言った。詩音も真羅が花の紋様が描かれたブレスレットを着けてる様子をイメージして、確かに似合わないと笑った。


「なんか、いつも真羅君には驚かされてる気がするなぁ~」


「へぇ? 俺にはそんなつもりはないんだけど……」


 真羅の魔術に関する知識と技術は、同年代の魔術師と比べると遥かに高い。そのため、詩音はいつも真羅には驚かされてばかりいるのだ。真羅には本当にそんなつもりはないのだが。


「はぁ~。異世界に飛ばされたのに真羅君はいつも通りだね」


「人はそう簡単には変わらないよ。それに焦っても仕方ないだろ?」


 真羅は楽しそう笑った。

 初めこそ混乱したが冷静さを失うほどではなかったし、次元転移という理論上でしか聞いたことのないものを見ることができた。そのため気分がいいのだ。

 詩音もその真羅の様子を見て苦笑した。


「さすが、魔術オタクと呼ばれてるのは伊達じゃないね」


 詩音が言った通り、真羅は仲間から魔術オタクと呼ばれている。

 真羅は魔術が好きだ。それこそ三度の飯より魔術が好きで、四六時中魔術のことばかり考えていてる。

 そして何より、真羅の魔術に対する探究心、向上心は以上と言っていいほど高い。その貪欲なまでに魔術に取り組む姿を見て、同じ魔術結社の仲間たちは彼を魔術オタクと揶揄するようになった。

 真羅もそのあだ名は気に入っていた。周りから訳の分からない二つ名で呼ばれるよりは全然いい。


「まあ、俺は生まれた時からの根っからの魔術師だからな」


 真羅はこればっかりはしょうがないと肩をすくめた。魔術のことになると、どうしても楽しくなってしまう。やはり自分はオタクなんだろう。


「それはそうと、これからどうするつもりなの?」


 詩音は話を切り替えるようにやっと本題に入った。

 真羅は腕を組み少し考えるような仕草をした。


「あの場じゃ、ああ言うしかなかったけど、魔王を倒しても帰れる可能性は低いだろう」


 真羅は召喚された時の魔法陣を思い返したが、あれに元の世界に帰る機能はなかった。


「まあ、方法がないなら自分で作れいいだけだ」


 真羅はやはり楽しそうに笑った。その顔には「望むところだ!」と書いてある。


「それに勇志たちも元の世界に帰してやらないといけないしな」


 真羅は今までと違い、力なく笑った。勇志たちまでこんなことになるのは想定外だった。

 詩音はその真羅の様子を見て嬉しそうに微笑んだ。


「真羅君、変わったね」


「ん? そうか?」


「うん! 変わったよ。昔だったら他人のことなんて気にしなかったもん」


 詩音の言葉を聞き、確かにと頬を掻いた。

 幼い頃の真羅は他人のことなど気にしないどころか、興味すらなかった。魔術に対しては今と変わらないが、魔術のような神秘的なもの以外にはまるで関心がなかったのだ。

 そんな自分が勇志たちのことを考えるようになったのだ。確かに変わったのだろう。


「いや……人として成長したのか」


 真羅は自虐的な笑みを浮かべた。

 子供でもできるようなことを今になってできるようになったのだ。笑いたくもなる。


「ふふっ、きっとそうだよ」


「なんか複雑な気分だな」


 魔術師とは自分勝手な生き物なのだ。自分の夢を叶えるためにひたすら前に突き進む。それが魔術師だ。

 

 真羅は自分の夢と現状を比べる。そして今、自分が何をすべきなのか考える。


「情報を手に入れないとな」


 そのためにどうすればいいのかを考える。


「この世界の魔術を調べる必要がある」


 ここで現状と夢がつながった。


「この世界には向こうにはない俺の知らない魔術があるかもしれない」


 詩音は真羅の顔を見ると「やっぱり、そこは変わってないな」と呆れたように笑った。


 このときの真羅は、まるで新しい玩具を手に入れた子供のような純真無垢な笑みを浮かべていたのだ。



 



 

 

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