表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

精霊契約 


「――ボクと契約しない?」


「――いいぞ」


 決意を込めたレイルシアの言葉に対し、真羅は特に考えることもなく軽く了承する。


「――え?」


「――ん?」


 二人は驚き眼を見開き、暫しの間見詰め合った。


「えっと……契約の意味は解ってるの?」


「ああ」


「……」


「……」


 軽く返されてレイルシアは固まってしまい、それを見ていた真羅は不思議そうに首を傾げる。


「認識に齟齬があるかもしれないから一応説明してもいい?」


「うい」


 またしても適当に返されたレイルシアは顔を引き攣らせるが、一度深呼吸をすると説明を始める。


「ボクは神代の戦いの影響で存在が不安定になっているんだ。だからこの土地の霊脈に繋がって実体を維持してるから――」


「――この地から離れて存在することができないんだろ?」


「……」


 そんなことは聞かなくても分かっているとばかりに、真羅はレイルシアの言葉を先読みして遮った。

 レイルシアは再び顔を引き攣らせるが、なんとか心を落ち着けて説明を続ける。


「――そう、だから、この地から離れて行動するには、ボクの存在を維持するためには力の強い生命と霊的な繋がりを持つ――つまりは、ボクと強い魔力を秘めた者の魂を結び付ける必要があるんだ。この精霊と人の魂を結び付けることを精霊契約って言うんだけど……ここは理解してる?」


「うん」


 真羅はさも当然だと言うように頷く。


「――精霊は霊的な結び付きによって、本来存在を維持できない環境でも行動することができるようになり、契約した者も魔力を供給する必要があるが、その精霊の力を借りることがきるようになる――認識に違いはなさそうだな。その他にもお互いにメリットやデメリットが色々あるが、人と精霊との契約について詳しい理論の説明はした方がいい?」


「……遠慮しておくよ」


「――まず初めに精霊と人の魂の結び付きに関してだが、これは――」


 レイルシアは真羅が自身よりも精霊との契約について精通していること確認する。そして断ったのにも関わらず、その理論について早口で話始める真羅に対して、また理解の及ばない呪文を話し始められるのは勘弁してほしいとレイルシアは改めて丁重に断って説明を中断させる。


「随分と簡単に受けてくれたけど、もしかしてボク以外の精霊と契約した経験があるの?」


 明らかに自身よりも精霊契約について詳しい真羅に対して、レイルシアは彼が自分以外の精霊と契約した経験があるのではないかと疑う。


「ああ、向こうの世界で何度かな」


「……なるほど、だからボクより詳しいのか」


 レイルシアは真羅が他の精霊と契約しており、自身がは最初ではないことに内心ショックを受けるが、どこか納得したような表情を浮かべる。


 精霊との契約は互いにとって重大な意味を持ち、軽率に行うものではない。一度契約をしてしまえば、余程のことがない限り契約を解除することは不可能であり、契約者がその生涯を終えるまで契約は持続するし、方法によっては死後もその魂は契約に縛られることになる。

 そのことを理解してなお、真羅はあの軽い態度で契約を了承しているのだ。


「というか、もう契約の下準備はできてる。後はレイルシアの意志だけだ」


 そう言って真羅がレイルシアの手を取ると、彼の手の甲に光の紋様が浮かび、いとも簡単に彼の魂とレイルシアが結び付いてしまった。


「これで契約成立だな」


「――え? ちょっとなんでこんなあっさりと契約できてるのっ!?」


 レイルシアは真羅との確かなた霊的な繋がりを感じて困惑する。


 いくら互いの意志があったとはいえ、手を取っただけで神秘的な契約を成立させることは不可能だ。


「おいおい、出会った時に仮契約はしただろ。記憶にある限りだが、俺のファーストキスだったんだぜ」


「えっ!? あの時!」


 出会った際に魔力譲渡のために行ったキスのことを思い出したのか、初心なレイルシアは顔を真っ赤にしてしまう。


「一番手っ取り早くパスを繋いで魔力を譲渡する方法だったからな。あの行為自体が仮契約になっていんだよ――その様子だと魔力のパスが繋がったようだな。身体が少し高揚するのは分かるが、それが契約の証拠さ。仮契約からしたからそんなに刺激はないとはずだが……まあ、初めての契約のようだから仕方ないか。すぐに慣れるさ」


 どうみてもレイルシアが真っ赤になったのはキスのせいだが、真羅は契約の影響だと勘違いして見当違いな言葉をかける。


 誓いのキスは向こうの世界で最も有名な契約の一つだろう。本来、高位精霊との契約は大規模な儀式が必要なのだが、真羅は人工的な疑似精霊とはいえ精霊の扱いに長けた一族の魔術師であり、いわば精霊の専門家だ。キスという一工程だけで仮契約とはいえ可能にしてしまうのは、彼だからこそのできる芸当だろう。


「――改めてよろしくな、レイルシア」


 真っ赤になっているレイルシアをよそに、契約の成立の証たる右手の紋様を確認し、真羅は屈託のない笑顔を浮かべ、再び手を差し出す。


「キミがボクの常識の外にいる人間だということがよく分かったよ。では改めて、こほんっ――こちらこそよろしく、シンラ!」


 真羅の性格を大凡理解できたレイルシアは、どこか諦めたような笑顔で差し出された彼の手を握った。


「そうだ。契約もしたし、こいつらを紹介しないとな――御遣い五人、顕現~」


 真羅は忘れていたとばかりに気の抜けるような声で五色の御遣いを呼ぶと、彼の背後に五つの人影が現れる。


「えっ、精霊!?」


「そう、俺の精霊たちだ。お前たち。自己紹介よろ~」


 驚きで固まるレイルシアに構わず、再び気の抜けるような声で真羅が御遣いに指示を出すと、五人はそれぞれレイルシアの前に出た。


「へー、君がこの世界の精霊か~。うん面白そうだね。あたしは剣の精霊、ルビア。よろしくね」


 先ほどの真羅を彷彿とさせるような屈託ない笑顔を浮かべたルビアが、いきなりレイルシアに抱き着く。


「うわっ、ちょっと」


 突然のことにさらに困惑を増した表情を浮かべて狼狽するレイルシアを見て、隣にいたフィルが溜息を付く。


「ルビア、レイルシアが困っていますよ。いきなり抱き着くのはやめなさい。まったく……申し訳ありません。突然のことで驚かれたと思いますが、これはルビアの癖なので大目に見てくれませんか。失礼、私は真羅の盾の精霊。名前はフィルと申します。これからよろしくお願い致します」


 真面目なフィルは礼儀正しく自己紹介をするが、ルビアはレイルシアに抱き着いたまま離れようとしない。


 天真爛漫で好奇心旺盛なルビアは、興味がある者に抱き着く癖があり、それを知っている真羅たちからすれば普段の光景だが、レイルシアからすれば突如として現れた異世界の精霊から急に抱き着かれた状況であり、理解が追いついておらずされるがままになってしまう。


 フィルは仕方なく引き離そうと力尽くで引っ張るが、それでも両手両足でがっちりとレイルシアをホールドしているルビアを引き剝がすことはできなかった。

 

「ったく、何やってんだよ……ああ、オレの名はラムル。ルビアはすぐに引き剥がしてやるからちょっとまってな」


 意地でも離れないとばかりにがっちりと抱き着くルビアを呆れたように見ていたラムルは、自己紹介をすると、フィルに協力して彼女を引き剥がしいかかる。


 さすがに同等の力を持つ二人に両手と両足を引っ張られ、ルビアは「ああ~」と情けない声を上げらがら引き剥がされる。


 そんな中、ただレイルシアだけを興味深そうに見詰めていたディアが口を開く。


「ディアの名前はディア。異世界の精霊、好奇心がそそられる……よろしく……」


 あまり抑揚のない声音だが、普段のディアと比べるとテンションが高くなっている。


 ディアからすればレイルシアは未知の精霊であり、知識を司る彼女にとって非常に興味をそそられるようだ。彼女は相変わらず無表情だが、普段は眠たげに細めている瞳をじーと見開いてレイルシアを見詰めている。


 四人の形ばかりの自己紹介が終わると、その様子を真羅の隣で微笑みながら見ていたエルマが前に出る。


「最後は(わたくし)ですね。私の名はエルマと申します。一応、私がこの子たちのまとめ役をしています。これからよろしくお願いしますね」


 エルマは穏やかに微笑みながら、先ほどの真羅のように手を出してレイルシアに握手を求めた。


 レイルシアは「あ、うん」と手を取ったが、状況は理解できていないようで、困惑しながら真羅に助けを求めるように目線をやる。


 しかし、残念ながら真羅にその意図は伝わらず、もう仲良くなったものだと勘違いをして屈託のない笑みを返してくる。


「相性は良好のようだな。ああ、そうだ。言い忘れてたけど、こいつらは俺が造った疑似精霊で、レイルシアみたいな天然の精霊ではないんだ」


 御遣いたちが自己紹介を終えると、真羅はさらっと重大な事実を告げる。


「――? 精霊を造る? え?」


 レイルシアからすれば信じがたい事実を伝えられ再びフリーズする。


 この世界における精霊は光と闇のそれぞれの神の手によって生み出された存在だ。精霊の創造は神の御業であり、間違っても人間に行える所業ではない。


 ちなみにだが、レイルシアのこの認識は間違っているものではない。

 地球であっても人工精霊を造り出すこと技術自体は存在しているが、かなりの高等技術であり、そう簡単に行えるものではない。また、人工精霊自体も本物の精霊と比べるとかなりお粗末なものであり、知能面で見たら、科学的な技術で造り出せる人工知能の方が優れているぐらいだ。


 本物と遜色のない精霊を造り出すことは真羅の一族である神威家の秘術があってこそであり、ここまで精巧な疑似精霊を生み出せるのは、歴代の当主たちを見ても数える程しかいないだろう。


「隙あり!」


 固まっていたレイルシアの隙をつき、ルビアが再び飛び掛かりがっちりと抱き着いた。


「コラ! ルビア」


「またかよ」


 不意を突かれたフィルとラムルが呆れながら再びルビアを剥がしにかかる。その傍らでディアは興味深そうにレイルシアの頬を人差し指で突っついていた。


 もみくちゃにされているレイルシアを眺めながら、真羅は先ほどまで浮かべていた笑みを引っ込めて、ディアのような無表情で何かを考え込むように頬を撫でる。


 隣でレイルシアたちを静観していたエルマは、真羅の様子の変化に気付き声をかける。


「どうかしましたか?」


 先ほどとは打って変わり、真羅はいつになく真面目な声音で口を開く。


「――俺は今まで過保護だったかもしれない……いくら自らの秘術の隠匿のためとはいえ、重要な戦いでも滅多に精霊たちを呼び出すことはなかった」


 この世界に来てから真羅は、御遣い以外の精霊を極力使用しないように心掛けていた。


 これは自らの秘術を妄りに晒さないようにするためであり、地球にいた頃もこの理由で、彼は造り出した精霊を人前で晒すことはほとんどなかった。幼馴染である詩音も、御遣い以外の精霊についてはほとんど把握しておらず、たとえ身内であっても彼は精霊の秘匿を怠ってはいない。


 常闇の精霊との戦いこそ雷獣(ナルカミ)を呼び出したが、あれは本人の意思を尊重した結果であり、真羅としては御遣いを含めて使用するつもりはなかった。


「ええ、(わたくし)から見ても貴方はちょっとな過保護な面があると思いますよ」


「そうか……」


 エルマの指摘もあり、真羅は自身の考えを改める決意が固まる。


「分かった。なら、ヨウカに伝えてくれ、俺はこれからお前たち皆を積極的に行使すると」


 真羅はエルマに伝言を頼む。“ヨウカ”とは自身の生み出した精霊たちの中でもリーダー格の精霊の名だ。彼女に伝えさえすれば、他の精霊たちにも話は行きわたるだろう。


「それはそうと、貴方の“ライ”がまた自責の念で塞ぎ込んでいましたよ」


「あー、またか、確かに本当なら捕獲したかったんだが、あんな劇物を追い出すのなんて当然の行動だろ……ついでにこれも伝えといてくれ“よくやった”ってな」


 真羅は常闇の精霊の戦いで介入してきた自身の精霊の心中を察して伝言を追加する。


 エルマが“ライ”と呼んだ精霊は、真羅の精霊の中で最も忠誠心が強い精霊だ。戦いの前に手を出すなと命じていたため、いくら常闇の精霊が精神に侵入してきたからとはいえ、勝手に追い出してしまった彼は今頃自身を鬼の如く責め立てているだろう。


「忠誠心が高いのは悪いことではないと思うがな。まあ、皆に見習ってほしいとは全く思わんが」


 真羅は自身の精霊に対しては基本的に放任主義であり、必要がなければ極力介入はしないし、御遣いを除けば平時に呼び出すこともない。無論、精霊の方から自らの意志で出て来たのならばその限りではないが、彼は常日頃から精霊を侍らすようなことはしていない。


「皆、貴方のことが大好きですからね。私たちからすればもっと貴方の力になりたいのですが、その機会に恵まれない者も多いのですよ」


「機会ね……」


 真羅は改めて自身の行動を振り返る。


 地球では情報網として世界各地に使いを放っていたが、これは精霊ではなく簡易的な使い魔であり、彼らに活躍の機会は与えられていない。それに護衛用に生み出した精霊たちも、自分の身ぐらい自分で守れという師匠の教えの影響により、護衛の役割を果たせていない。戦闘でも自身の鍛練も兼ねて、なるべく自力で魔術を編むようにしていたため、こちらでも活躍の機会があまりない。


 それに改めて考えると、我が子と言っても差し支えない精霊たちを面倒事に巻き込ませたくはないという思いが心のどこかであったのかもしれない。


「確かにそうだな。もっと経験を積ませてやらないと成長出来るものもできないか」


「ええ、それにこちらの世界でなら、必要以上に魔術を秘匿することもないのでは?」


 この世界は地球とは異なり、魔法という神秘が当たり前にある世界だ。


 地球にいた頃のように神秘の隠匿は然程重要ではないうえ、魔術基盤も異なるこの世界でならば秘術を解き明かされる可能性も少ない。

 それならばもっと積極的に精霊を使っても問題ないはずだ。


「そうだな。この世界はある意味、都合のいい修行場ってはわけだ」


 これからのことを考え、真羅は不敵に笑う。


 地球では簡単にはできなかった精霊たちの実戦がこちらの世界でならば可能なのだ。


「この異世界召喚は俺たちにとって幸運だったかもな」


「そうですね。ならば思いっ切りやるべきです」


「だな。明日からは忙しくなりそうだ」


 やるべきことはたくさんある。


 まず初めにやるべきことは休息だ。常闇の精霊との戦いでのダメージを完治しなくてはならない。


 もみくちゃにされたままのレイルシアを尻目に、真羅は回復のためベットに横になって眠りにつくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ