表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/41

二人の魔術師

 毎度のことながら遅くなってすいません……。 八月の初めには投稿する予定だったのに、まさか身内がブッ倒れたり、パソコンの調子おかしくなるとは……。 


 十字に振るわれた魔杖が、見えざる呪詛を弾く。

 これを皮切りに、魔術師の戦いが幕を開ける。


『――廻れ境界よ』


 シュケルの詠唱を響かせると、学長室が裏返るように回転し、室内が左右反転する。これは、先ほど星華に話した“異界反転”の結界だ。

 本来ならば交わることのない物質界と鏡面界を、範囲を結界内だけに限定して一時的に入れ替える結界魔術であり、人目に付きやすい場所で戦闘を余儀なくされた場合に多く使われる魔術だ。


『――目覚めろ傀儡たち』


 結界が完成すると同時に、シュケルは一切の隙を与えず新たな魔術を発動させる。

 周囲の棚にに飾られていた複数の甲冑を纏った人形が人間サイズまで巨大化し、剣を構えて真紅ローブの女に襲い掛かる。


「ゴーレムか……」


 ここで初めてローブの女が口を開いた。

 彼女が言った通り、この騎士たちはゴーレム。錬金術により土塊から造られた自動人形(オートマタ)の一種である。


「切り裂け」


「ほう、速いな」


 ローブの女はゴーレムの動きを見て感嘆を漏らす。本来人型のゴーレムの動きは人間と比べてしまうとぎこちなく、大抵の物は不自然な動きになってしまうのだが、シュケルが操るゴーレムたちは、まるで本物の騎士さながらの無駄のない足捌きで動いている。これはゴーレムの精度だけでなく、術者の腕がかなり秀でているのだろう。


『遣いは堕ち――』


「させるか!」


 女がゴーレムの機能を停止させようと妨害の呪文を紡ごうとすると、シュケルは杖を振ってその魔術の起動を阻害する。その隙に騎士たちは一気に距離を詰め、一斉に剣を振り下ろす。しかし、その凶刃が届くことはなかった。

 魔術を妨害された女は特に回避動作を取ることもなくそのまま立ち尽くしていたが、振り下ろされた刃は全て彼女の身体をすり抜けてしまい、空しく宙を切るだけだ。


「幻影か、それとも空間を歪めたか……」


 シュケルは目の前で起きた現象を推測する。幻術や空間の屈折は、魔術師が好んで使う手だ。だが、この女が場合は少し勝手が違うように見える。

 他人の結界内では幻術の効果は薄く、空間の操作も困難なため、ゴーレムが動き回る中でのシュケルの目を誤魔化すことは不可能だ。だか、騎士型ゴーレムの剣は一向にローブの女を捉える様子はない。


「こんなものか……今度はこちらからやらさせてもらうぞ?」


 女は挑発するようにローブを翻して腕を振るうと、彼女の周囲に無数の光る糸のようなもの展開される。

 光糸は斬りかかってくる騎士に絡みつくと、その機能を停止させて、元の小さな人形に戻ってしまう。


(あの糸、位相の歪みから出てきたのか?………試してみるか)


 シュケルは顎を撫でながら今の光景を推測すると、ゴーレムを魔術の射程外まで下がらせ、逃げ場をなくすように配置を取り、ローブの女に向けて広範囲に飛び散る火炎弾を放つ。

 しかし、放たれた魔術は正常に発動して女の眼前で爆裂するが、彼女の身体を捉えることができずにその周囲だけを焼き尽くした。


「魔術の階位差ではないのか? ならば――」


 爆炎の魔術が通じないことを見届けると、シュケルは魔力を高めて先ほどよりも、高位の魔術を紡ぐために体内の回路に循環させる。


 魔術には階位(ランク)という基準があり、これは単純な威力だけではなく、その術に込められた神秘の質によって分けられる。ランクはⅠ~Ⅹの十段階に分けられ、ランクⅧ以上の魔術のことは大魔術と呼ばれる。

 魔術の原則として、低位の魔術はより高位の魔術に打ち消されてしまう。特にランクが三つ以上離れている場合は、低い方の術式が解けてしまい魔術が成立しなくなり、触れた瞬間に消滅してしまうのだ。


 そのため、シュケルは先ほどの現象を、階位の差による魔術の不成立ではないと見破り、別の魔術を放つ態勢に移行する。


『――彼方まで轟く雷鳴。遥か万里の果てにて響き渡る咆哮よ。その威光を以って、災禍を祓い元凶を穿て!――――魔を破却せし稲妻シュクリスティントリァハ!』


 詠唱と共に浮かび上がった多重型魔法陣から、耳を(つんざ)くような雷鳴が響き渡ると、次の瞬間、自然ならざる鮮やかな朱色の稲妻が空間を引き裂きながら吸い込まれるようにローブの女に突っ込んでいった。


「くっ……」


 わずかだか初めて女から苦悶の声が漏れる。赤雷の残像と舞い上がった砂煙で本人の様子は分からないが、シュケルはその真紅のローブの端が焦げていることに気付いた。


「なるほど。遠隔から空間を繋げながら幻術で本体を誤魔化しているのか」


 シュケルが放ったのは、ランクⅦの大魔術一歩手前の高位魔術であり、距離や空間という概念を無視して標的本体を焼き尽くす赤雷を撃ち出したのだ。空間を越える雷が直撃したのにも関わらずその程度ということは、空間を弄るだけではなくその術者本人を幻術で歪めているということだ。

 術の正体を見抜いたシュケルは、杖を真一文字に振るう。杖から漏れた蒼白い魔力の残像は、そのまま魔術文字に変化して輝きを増す。


「引き剥がしてやる」


 シュケルは不敵に微笑むと、ゴーレムたちが女を囲むように陣取って両手を突き出す。すると、女が立っている空間が異常なほど湾曲しだし、展開されていた糸は次々と切断され、幻影も無理やりに引きはがされる。


「やれやれ……こうも簡単に破られるとは」


 さきほどの魔術でフードが焼き切れてしまったようで、煙が晴れると隠されていた女の顔が露わになる。

 金糸のように細やかで美しい髪、男を魅了し堕落させてしまう魔性の美貌。そして、何より目を引くのは、鮮血のように鮮やかで妖しく、宝玉にも似た神々しい輝きを放つ真紅の瞳。


「さすが、この学園の長を務めるだけのことはある、ということか」


 女は感心したように呟くと、色っぽく頬を撫でながら艶めかしく舌舐めずりをする。彼女の魔貌と合わさると、その姿は途轍もなく淫靡に映り、大抵の男ならばこれだけで陥落するだろう。しかし、この男はその大抵には属さない方の者だ。


「“協会”の重役がこんなことをするとはな。いったいなんのつもりだ……シルヴィア・ナイトフィード?」


 殺気で満ちた鋭い眼光を向け、シュケルは尋問するような低く冷たい声音で、正体を曝した女――シルヴィア・ナイトフィードを問い詰める。しかし、その眼光を向けられたシルヴィアはというと、恐れるどころか寧ろ心地よさそうにその殺気を受け止めてしまう。

 シルヴィアの態度にシュケルは無言で威圧を強めていくと、彼女は仕方なさそうに口を開いたが、


「なんのつもり、だと……“神秘の記録”の術師は、そんな分かり切ったことを聞くのか?」


 正体が暴かれたのにも関わらず、シルヴィアは心底に見下した笑みを湛え、明らかに不遜な態度でこの学園のトップを小馬鹿にした。

 さすがのシュケルも、彼女がこのような態度を取るのは想定外であり、一瞬固まってしまう。しかし、彼女のような魔女に隙を曝すわけにはいかず、すぐにさらに鋭い眼光を放って牽制する。

 

「まったく、この私にそのような無粋なモノを向けるとは、礼儀のなってないヤツだ」


「その言葉、そのまま返そう……。それで、答える気はあるのかな?」


 シュケルは若干呆れ気味に杖を構えて、悠然と微笑んでいる彼女の言葉を受け流すと、生徒と話すような口調で問いかける。正直、彼はまともな返答が返ってくるとは思っていないが、意外にも彼女は笑みを湛えたまま口を開いた。

 

「なに、シンラ(・・・)が消えたと聞いてな。心配で居ても立っても居られなくなってな」


「――ッ」


 シルヴィアの言葉にシュケルは思わず眉をひそめてしまう。


 ――コイツ、何で真羅(ソーマ)の名を知っている?


 次元の穴の件は、知られていたとしても問題ない。寧ろ、彼女ならば知っていたとしても、なんら不思議なことではない。だが真羅の本名を知ってるは見過ごせない。

 『神秘の記録』の魔術師は己の本名は名乗らず、組織での通称を使って活動している。組織のメンバーの個人情報は機密になっており、外に漏れないそう厳重に管理されているため、メンバーの本名などは他の組織の者では決して知り得ない情報なのだ。それなのにこの女は、まるで当然だとでもいうように、真羅という名前を知っている。


(どこから漏れた? いくらソーマでも無意味に本名を名乗るなんて間抜けたことはしない。 いや……たしか、この女は……)


 シルヴィアの経歴を思い浮かべ、シュケルは確信に迫る。


「そうか、貴様はソーマと殺り合ったことがあったんだったな」

  

 そう、このシルヴィア・ナイトフィードは、かつて一度だけ真羅(ソーマ)と戦ったことがあるのだ。それも魔術師としての決闘ではなく、なんの規律も秩序もない私利私欲に塗れた殺し合いをだ。

 命を懸けた戦いは、魔術師の間ではさして珍しくもない。術師同士の争いなど日常茶飯事のことだし、怪異の討伐などの人外の化け物との戦いもよくあることだ。しかし、魔術師同士の戦いというは、現代では決して命の奪い合うことが目的ではなく、あくまで己の名誉や誇りを懸けたものであり、定められた形式に則った魔術戦なのだ。

 もともと魔術師という人種は少ない。西暦に入ってからは神秘が薄れていった影響で、さらにその数を減らしていった。そのうえ、かつての世界大戦の裏で起きた闘争では、数多くの魔術師たちが命を散らしてしまった。そのため、現代において魔術師同士の争い事が起きた場合は、決闘という形で解決し、命までは取らないのが暗黙の掟となっている。

 例外があるとすれば、“魔導連合”が定めた(おきて)を破った場合か、外法魔術師との戦いぐらいである。


 しかし、彼女と真羅は殺し合いを行った。なんの誇りも名誉もなく、ただ己が願望(もくてき)のために、自分勝手な理屈と度し難い信念をぶつけ合ったのだ。その過程で彼の秘密を知ったとしても、なんら不思議なことではない。

 

「貴様はソーマに敗れたが、かなり追い詰めた聞いている。 本人も切り札を切る破目になったと、何故か嬉しそうに笑っていたしな……。お得意の精神汚染なら名前ぐらいは知り得るだろう」


 シュケルの推測を聞くと、シルヴィアは肯定するように不敵な笑みを返してくる。


「そうか、シンラは笑っていたのか……ふふっ」


 何か愉快なことを思い返すように口元を押さえて笑いだす。シュケルも警戒こそ解かないが、彼女の心境を察して内心で溜息を吐く。あの魔術師は逆境を楽しそうに笑い飛ばしてしまうような、常人では理解し難い感性を持っているのだ。当然、この二人もまた特異な存在なため、常人とは懸け離れた価値観で行動している異常者だが、幸いなことにこの場においてそれを指摘する者はいない。


「ふふふっ、あの男らしいな」


「それは同感だ。で、何が目的だ?」

 

 なお、笑い声を漏らしている彼女に、シュケルは何故か込み上げてくる申し訳なさを振り払い、核心を問い詰める。この申し訳なさの元凶は言うまでもなく、たびたび問題を起こす――いや、現在進行形で起こしている“あの男”である。


「なんだ、私がヤツを気にするのおかしいか?」

 

「当たり前だ。貴様がソーマを付け狙っていたのは、敗北の汚名を返上するためだろう。その貴様が何故、ヤツの身を案じている?」


 シュケルは虚言は認めないと意志の光をその蒼い瞳に灯してシルヴィアを睨みつける。彼女が真羅を気にかけているは、間違いなくあの戦いが原因だ。自らの手で汚名を返上をするために、彼の詳細を知りたいというならば納得できる。しかし、シュケルが腑に落ちないのはそこではない。

 

 ――彼女は明らかに彼の身を案じている。


 この人を食い物にすることしかできない魔女が、他者のことを気にかけるなどあり得ない。

 ましては、自分の顔に泥を塗った男だ。本来ならばどんな手を使ってでも絶望させ、完膚なきまで屈服せてから嗜虐の限りを尽くして殺するだろう。


 シュケルの雰囲気が変化したことに気付き、シルヴィアは相変わらず笑みを浮かべたままだが大人しく口を開いた。だがその様子は何処か普段の彼女とは違った。 


「アイツは私の(もの)だ。私が私の(もの)を案じるのは当然だろう?」


「――なぁッ!?」


 シルヴィアの顔を見た瞬間、シュケルは驚愕のあまり間抜けた声を出してしまう。身勝手で傲慢な言葉と裏腹に、彼女はまるで恋する乙女ように恍惚と頬を赤く染めていたのだ。

 せめて彼女が普段通り、嗜虐に満ちた傲慢な笑みを浮かべて言ったのならば特段に驚くこともなかっただろう。しかし、これではさすがのシュケルも我が眼を疑い、言葉を失ってしまう。


「まあ、と言っても大した情報は手に入らなかったがね。外界まで飛ばされてしまっては、手の出しようがない。所属している組織ならば何か知っているかと思ったのだが……どうやら無駄足だったようだな」


「……」


「おい、聞いているのか?」


 シルヴィアの言葉は、もはやシュケルの耳には入っていない。シルヴィアは眉をひそめて苛立った声音で問うも、残念ながら間抜けに口を開けたまま硬直しているシュケルには届かない。


「貴方が訊ねてきたことだろうに。まったく、失礼極まりない」


「――ッ!」


 不機嫌さを隠そうともせず、シルヴィアはその苛立ちを魔力に乗せて威圧すると、それに反応したシュケルがやっと我に返る。 


「おっと、これはすまないことをした」


「ふむ。そう思っているのなら杖を下ろしてくれないか? こちらには初めから戦闘の意志はないのだからな」


「催眠を仕掛けてきたのはそっちだろうに……まあいい」


 不機嫌さは残っているが彼女に敵意がないことを確認すると、警戒を怠らずにシュケルはゆっくりと杖を下ろした。それに合わせてゴーレムも元のサイズに戻り動きを止める。

 シルヴィアはそれを見届けると、纏っていた魔力を体内の回路に収めて戦闘態勢を解く。シュケルは警戒の姿勢を解いていないが、これ以上の戦闘は望ましくないため、先に戦意がないことを示したのだ。正体を明かした以上、互いに立場の都合により、そう簡単には手を出せない。


「さて、そちらの質問には答えたのだ。こちらの問にも答えてくれるのだろう?」


「……内容によるがな」


 蠱惑的な甘い声で誘惑するように訊ねてくるシルヴィアに、シュケルは不快そうに言葉を濁して答えると、これ以上の戦闘を避けるために杖を懐に収める。

 シルヴィアの態度は相変わらず傲慢だが、彼女は『神秘の記録』と肩を並べる三大魔術組織の一角、『魔術協会』の名門一族の御令嬢のため、シュケルがここでの出来事を公にしたところですぐに揉み消されるだけだろう。それならば、ここで彼女の要求に応えて手を引いてもらうようが賢明だ。


「では、神秘の記録(あなたたち)の方針を聞かせてもらおう。無論、シンラについてだ」


「方針か……それぐらいなら問題ない」


 シュケルは意外にも簡単なものを要求してきたことの安堵と共に、どうしてか想定通りだという呆れも感じてしまう。


「我々は今回の事件に関して、これ以上追究することはしない。無論、ソーマについてもだ」


「それが妥当だろうな」


 真羅を救出しないことを告げても、シルヴィアは特に気にした様子もなく、その決断に納得する。そもそも、仮に救出するにしても、外界に干渉する方法がないので、追究しないというよりもできないといった方が正しいだろう。


「それで、シンラのことはこのまま見捨てる、ということいいのかな?」


「まあ、こちらも本意ではないが、そういうことになってしまうな」

 

「なるほど……」


 思惑通りだというように不敵な笑みを浮かべたシルヴィアに、シュケルは警戒を強め、訝しみを込めた視線を向ける。だが、返ってきたのは、またもや意外な答えだった。


「では、こちらで回収できたのなら、こちらで貰っても構わないと解釈しても問題ないな」


「はっ?」


 ――そうきたか! いや、そこまでか!


 シュケルは心の中で叫んだ。

 確かに真羅を見捨てる形になってしまうが、それは彼をこちらの世界に回収することが現実的に不可能だからだ。上司の大魔女は、「ほっとけばそのうち帰ってくるだろう」と笑っていたが、組織としては彼が抜けた穴は大きい。できればシュケルとしても彼を回収したい考えている。

 しかし、彼女はその不可能なことをしてまでも、真羅を得ようとしている。そこまでの執着を彼に向けていたとは、こればかりはさすがシュケルも想定していなかった。


「彼を連れ戻す手段があるのか?」


 そのような方法はないだろうと思いながら、シュケルは駄目元で聞いてみる。仮に存在したとしても、魔術師が無条件で情報を話すことなど滅多にないのだが。


「そんなモノがあるなら私が知りたいな」


「ですよね……」


 シュケルのわずかな期待を裏切り、想定通りの答えをシルヴィアは肩を竦めながら答える。


「だが私が取り戻せたのなら、彼は貰っていくからな」


「……それを決めるのは私ではない。もし本当にそんなことができたのなら、本人に直接訊くといい」


「フッ、確かにな。ではそうさせてもらおう」


 薄く笑みを浮かべたかと思うと、シルヴィアはボロボロになっていた真紅のローブを魔術で修復してそのフードを被る。


「それでは私は失礼しよう。こんなことをしている暇はなくなったからな」


 最後ま不遜な態度を崩さず、シルヴィアは蜃気楼のように空間の歪みを解いて幻影の中に消えていった。確かに外界にいる真羅を回収するのなら、こんな場所で呑気に魔術戦(おあそび)などしている暇はないだろう。

 彼女が去ったことを確認すると、シュケルは溜息を漏らしながら結界を解除し、倒れ込むようにソファーに腰を下ろした。


「やれやれ。相変わらずシンラは、とんでもないモノばかりに好かれるな」


 ――――魔性は魔性と引かれ合い、魔はより高位の魔に魅せられる。

 

 どこか他人事のようにシュケルは意地の悪い笑みを浮かべる。真羅が問題を起こすと結社にも被害が出るので、実際には他人事では済まないのだが、可愛い後輩が苦しんでいるのを見ていると楽しくなってしまうのは、魔術師の(さが)だ。

 ちなみに普段は、とんでもない化け物に好かれても、真羅はそれを平然と対処してしまうので、シュケルが楽しめたことはほとんどない。


「これじゃあ、戻ってこれたとしても大変そうだな~」


 これで少しは面白くなるといいのだがと、(よこしま)な想いを懐きながら、シュケルは散らかった書類を整理し始める。しかし、今後の問題とその後始末のことまで考えると、彼が楽しめる日など来ないのだが、このときの彼はそれに気付くことはなく、人の悪い笑顔を浮かべたまま作業に戻っていった。

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ