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魔導学校

 遅くなって大変申し訳ございません。投稿ペースを上げるどころか、忙しくてパソコンすら開いてる時間がありませんでした……。


 現代において魔導とは異端の秘術である。

 しかし、その技術は絶えることなく、世界の裏側で受け継がれている。

 その象徴といえるのが、この“魔導学園”だ。


 魔導学園とは、『魔導連合』が運営している教育、研究機関のことだ。

 魔導学園は、魔術師見習いの育成を目的とした教育機関である“魔導学校”と、一定の功績を修めた優秀な魔術師たちが集まり魔導の発展を目的に神秘を探究する研究機関である“魔導学院”の二つから成り立っている。

 学園は連合が所有している島一つを丸々使って築かれた大規模な学園都市であり、周囲には何重にも重ねられた強力な結界が展開されていて、内部に入るためには世界各地に置かれている魔術で空間を繋げられた専用の出入り口を使用する以外の方法はなく、外部からは何人も侵入することができない要塞のような作りになっている。

 だがここには、世界各地の優秀な魔術師と未来を担う魔術師の卵が集まっているため、まさに魔導の最先端といっていい場所でもあるのだ。


 ここ魔導学園には、当然のことながら、様々な魔術師がいる。

 プライドの高い名門一族の嫡男。

 新たなる魔術理論を構築した稀代の天才。

 わずか十代で講師を任されることになった才女。

 数世紀に亘り魔導を探究してきた老教授……―

 

 様々な奇人変人の巣窟になっている魔導学園だが、この場所が現代魔術を支えているといっても過言ではなく、西暦になり神秘の力が薄れていったこの時代で、衰退していこうとしていた魔導の発展に最も貢献している施設だ。


 そんな魔導学園の唯一の良心である、魔導学校の初等部。十歳前後の魔術師の卵たちが通っている、基礎的な魔術理論と一般的な知識を学ぶための場所である。


 その学校の校舎の廊下では、一人の少女が歩いていた。

 この初等部の生徒であることを示す藍色のローブを纏い、被っているフードから見え隠れする顔立ちはまだ幼く可愛らしいが、将来は間違いなく美人になると断言できるほど整っている。

 彼女の名は、神威星華(かむいせいか)

 この魔導学校初等部の首席であり、その名から分かる通り神威家の者である。

 もっとも魔術師というモノは、自身に関する情報を徹底的に秘匿する傾向が強く、この学園では正体の隠蔽することが正式に認められている。そのため、この施設では偽名を使っている者が多く、彼女もここでは

本名ではなくただ、“セイ”と名乗っている。

 

 星華は廊下をしばらく進むと、突き当りにある部屋の前で立ち止まる。


「はあ~。今日は講義がないから、研究室に行こうと思ってたのに……いきなり呼び出しなんて、何かあったのかな?」


 落胆するように溜息を吐くと、フードを脱いで扉をノックする。


「初等部のセイです」


「ああ、来たか。入ってくれ」


「失礼します」


 中から声が返ってくると、星華は室内に入っていった。


「ふむ。思っていたより早かったが、まあいい」


 部屋の中では、白髪の男が書類を手に待ち受けていた。男はすでに初老に差し掛かっているはずだが、衰えというものを微塵も感じさせない風貌で、この学園の教員用の紅いローブを若者のように着崩して纏っている。

 星華は男の格好を見て一瞬溜息を吐きかけるが、この男の立場のこと考え思い止まる。


「何かようですか? シュケル学園長」


 そう、このシュケルという名の男は、この魔導学園の統括者。学校と学院、双方のトップである学園長を務める、『神秘の記録』から派遣された“賢者(セイジ)級”の魔術師である。


「ああ。ちょっと面白いことが起こったらしくてな」


「面白いこと……ですか?」


「さっき本部から連絡があってな。次元の穴が開いて何人か巻き込まれたとのことだ。そんで、そのうちの一人が君のお兄さんらしいぞ」


「え?」


 突然のことで絶句している星華を見て、シュケルはケラケラと笑いながら話を続ける。


「しかもその穴が開いたのは一般高校の内で、被害にあったのはほとんど一般人らしい。それにうちの結社の二人が巻き込まれたようだ」


「……って、ちょっとまってください! どういうことですか? 次元の穴が開いて、お兄ちゃ――兄さんが巻き込まれたって……いえ、そもそもこれは一般生徒が聞いていい話ですか?」


 いきなり突拍子のないことを聞かされて混乱していたが、星華はすぐに情報を整理して重点だけを確認する。こういうことは兄のおかげで慣れているため、彼女の状況判断力はかなり洗練されている。

 当然、兄の真羅のことも気になるが、星華自身はまだ見習い魔術師のため、どの魔術組織にも属していないのだ。そんな自分が明らかに機密事項であることを聞いても問題ないのかをまず訊かなくてはならなかった。


「ああ、真羅(ソーマ)君が次元の穴に引き込まれたのは本当だ。一緒にいた詩音(ユリ)君も被害にあったようだ。それと他の生徒には言わないでくれよ。君の場合は被害者の身内だから特別だよ」


 笑いながらだがシュケルが真摯に答えてくれたため、星華も幾ばくか落ち着きを取り戻す。


「そうですか。兄が突然いなくなるのはいつものことですが、次元の穴とはなんのことですか? それに詩音さんまで」

 

「ん? そうか、初等部じゃあ異界についての講義はないからな……」


 魔導学校初等部はあくまで魔術の基礎的な知識と常識的な一般知識を学ぶ場であり、召喚術や降霊術などの高度な魔術に関わってくる異界については教わらないのだ。そういったものを教えるのは中等部からである。


「よし。では今から簡単に説明してやろう」


 楽しげに笑いながらシュケルが指を鳴らすと、突如として部屋が講義室に変貌する。恐らくは幻術の類だろうが、触れても全く違和感がない。それだけこの男の腕が優れているということだ。

 星華が目の前に現れた席に座ると、教壇に立っていたシュケルが講義を始める。


「それではまず異界とは何かから話すとするか。 異界とは幽界や霊界などのこの世界の外側に隣接している世界のことだ。まあ、もっと俗的な言い方をすると、あの世のことだな」


「あの世ですか……つまり兄さんはあの世に引きずり込まれたってことですか?」


 星華が疑問を口にすると、シュケルの背後に魔術で編まれたスクリーンが出現する。


「そこはこれから説明してくが、取り敢えずこの世にいないことは確かだ」


 シュケルが再び指を鳴らすと、スクリーンに画像が浮かび上がってくる。


「これはあくまで例えで、本当はもっと複雑なのだが、このように世界を円で表すと、円の内側が今私たちがいる内界で外側が異界だ。そして、この円の線が、肉体があるものは決して越えることはできない世界の境界、それが“次元の壁”だ」


「肉体があるものは越えられない……ということは、やはり異界は死後の世界、魂を循環させる場所ということですか?」


「そう、正解だ。異界とは霊魂が集う世界。いや、それだけではなく精霊などの高次の存在もこちらにいる」


 魔術世界でいう精霊とは、世間一般で思われている精霊だけでなく、神や天使、悪魔などの高次存在のことである。彼らは実体、つまり肉体というものを持たず、身体は霊体で出来ている。そのため、霊力(マナ)の薄れた現代では、そのほとんどがこの世界からいなくなってしまっている。


「では、精霊と死者は同じ世界にいるんですか?」


「ふむ。当然の疑問だな」


 シュケルは先ほど描いた円を囲むように、さらに複数の円を描いていく。


「この円はさっきも言ったが、これはあくまで例えだ。実際はこの次元の壁は複数ある。そして、この一層ごとに異なる世界があり、その世界のことを総じて異界というんだ」


「次元の壁が複数?」


「ああ、だから死者が逝く場所と、精霊が住んでる場所は違う次元にあるんだ。まあ、それについては今回関係ないから省略する」


 懐から指揮棒(タクト)ぐらいのサイズの杖を取り出すと、シュケルはそれを教鞭代わりにしてスクリーンの図を指す。

 

「では内側から順に説明するぞ。我々がいる一般的に内界と呼ばれているこの物質界。すぐ隣の次元にある世界を鏡面界。そこから、幽界、霊界、冥界、天界、外界となっている。本当はもっと細かいんだが、一般的にはこれだけ知っていれば十分だ」


 説明を聞きながら星華は、ノートを取り出してメモを取り始める。


「まず鏡面界だが、ここはこの物質界と最も近い次元にある世界で、比較的簡単に行くことができ、異界反転などの結界でもよく使われる。生物などは一切存在しないが、この世界は物質界と鏡合わせのようになっていて、姿形がここと酷似している。魔術師にとって一番身近な異界といえるだろう」


 スクリーンにさらにいくつかの資料が浮かび上がり、シュケルは熱が入ったように説明を続けていく。


「次に幽界だが、ここは死を迎えた生物の魂が送られる場所だ。ここからは肉体を持つ者は壁を越えることができないため、この時点で死者は霊魂とそれを内包した霊体だけの状態になる。幽界は死者の魂がまず初めに送られる場所であり、そこに送られた魂は次の次元にある霊界の川を通り冥界に流れていく。冥界に着いた霊魂は、その過程で霊体を溶かされて記憶を洗い流されるため、その時点で白紙の状態に戻され、そこで再び生まれゆく時を待つことになる。この世に転生という形で生まれる際は、今度は流れが逆になってる川で霊界と幽界を通り物質界に送られる。この一連の過程を輪廻転生という」


「……魂が川で流れていくのですか?」


 人の霊魂が川で流れていくと言われても、イマイチ理解することができない星華がペンを止める。


「そうだ。だが、川といっても物質界の川と一緒にするなよ。原理も根本的に違うし、流れているのもこの世界の水ではない。いってしまえば、この次元を越えて流れる川は、“魂の通路”であり、霊体に定着した記憶、人格を一度洗い流して、その人生という記録を霊魂の奥深くに情報の一つとして刻みこんでいくんだ。要はこの川は魂を循環させるためのシステムの一つというわけだな」


「なるほど……ありがとうございます」


 今の説明で理解できたようで、星華は納得したように要点をノートに写していく。星華は彼女の兄のように神秘を本能的に理解できるわけではないが、その分人一倍熱心で理解力が高いため、初等部首席の名に恥じぬ実力は備えているのだ。


「おっと、話がずれたな。重要なのはここからだ」


 シュケルは気を取り直すように杖を振ると、スクリーンに描かれた円の一部が拡大される。そして、彼はその最も外側にある円を杖で指した。 

 

「一般に言う世界とはこの内界である物質界だが、魔術世界では次の天界までのことを、一つの繋がりのある世界として考える。この先の次元の壁は何者であれ、決して越えることができない境界。俗に言うここが、“世界の果て”というやつだ」


「世界の果て……つまり、世界を多重の円で表した場合の一番端にくる円のことですか?」


「そう、理解が早くて助かるよ。この最後の壁は、天界に存在する神霊たちでも越えることはできない。まあ、もし仮に、無理やり穴を開けて外に出たとしても、そこには何もない虚無の海が広がっているだけだがな。ちなみに、その天界以降の何も無いの世界のことを外界という。 これで一通り異界については終わりだな」


 説明をし終えたシュケルは、杖を懐にしまい部屋を覆っていた幻影を解き、講義室を元の学長室に戻す。展開されていたスクリーンも消えて、星華が座っていた席も何事もなかったかのようにただの客人用のソファーに変わっていた。

 星華はノートをしまい席を立つと、改めてシュケルと向かい合う。


「わざわざ講義をして下さってありがとうございます。 それで……兄たちの行方の方は?」


「ああ、それについてなんだがな……」


 星華の質問にシュケルは何故か気まずそうに頬を掻く。


「恐らくなんだが、ソーマたちが飛ばされたのは今言った外界だと思われる」

 

「え?」


 予想外の答えを突き付けられ、星華は再び絶句してしまう。


「……って、待ってください! 外界の境界は何者にも越えることはできないのではないのですかッ?」


「原則はそうなんだが、何事にも例外というやつがあるんだよ」


 我に返ったせいで、返って混乱してしまった星華を宥めるように、シュケルが落ち着いた口調で話し始める。


「さっきも言ったが、外界を隔てる壁は、通常では越えることはできないが、無理やり穴を開けることは理論上は可能だ。恐らく外側から何らかの力が働いて境界に穴が開いてしまい、それにソーマ君たちは巻き込まれたのだろう。

 そして、外界には何もないと言ったが、実際はその海の中にはこの世界と同じような世界が、泡のように無数にあると考えられている。というよりも、この世界もその海の中にある泡の一つだと考えた方が妥当だろう」


「世界が無数にある?……それは俗に言う異世界というやつですか?」


「まあ、そう言った方が分かりやすいな。だが、その異世界についての研究はほとんど進んでいない。いや、進んでいないというより、研究の対象外として扱われている」


 魔術師が探求するものはあくまでも神秘であり、異世界の文明ではない。魔術師は真理を探究するという命題(もくてき)の下、その研究対象とするものは、人の手で築き上げた文明ではなく、物事の起源であり、万物の始まりにして終わりである神秘なのだ。

 魔術師たちが世界の外に求めるものがあるとすれば、それは異なる世界ではなく、必然的にその世界や虚無の元となった根源を求めることになる。そのため、魔術師たちの視点からすると、異世界というものはその根源となるものの存在を証明するための証拠の一つであり、それ自体は真理の探究とは関わりのないものと捉えられている。

 実際、観測不能で理論上でのみあるとされるものを探究するより、目の前の確実にある神秘を探求した方が、真理に至れる可能性が高いだろう。


「だから、君のお兄さんがどういった経緯で外界に飛ばされ、現在どういう状況に陥っているかはこちらからは把握できない。だが、外界の境界に穴を開けた存在がいるとしたら、十中八九は異世界の神が穴を繋いだものだと考えられる。自然に開くことがない以上、こう考えなければ説明がつかない」


「……?」


 こんな妄想じみた話を聞かされては、さすがの彼女も理解の許容量を超えてしまったようで、不思議そうに首を傾げたまま固まっている。

 シュケルも、これは仕方がないと慰めるように肩を叩き、彼女の正気を取り戻させる。


「この話はここでおしまいにしよう。取り敢えずだけど、この件については上が処理するみたいから、君は普段通りにしててくれ。このことは他言無用で頼むよ」


「は、はい……分かりました」


 有無を言わせない威圧を含んだ言葉に、星華は思わず頷いてしまう。もちろん彼女に言い触らす気など毛ほどもないが、兄が大変なことになっている以上黙っている見ている気もない。

 確かに彼女から見ても兄の真羅は変わった人物だが、それでも彼女は兄としても魔術師としても彼のことを純粋に尊敬している。魔術師としては理想像であるし、まだ十代という若さでありながら、シュケルと同じ賢者(セイジ)の位階を得ている凄腕だ。彼女にとって真羅は憧れであり、誇りでもあるのだ。


「よし。じゃあ、何かあったらまた連絡するから、今日はもう下がっていいよ」


 星華が頷いたのを見届けると、シュケルは纏っていた威圧を消して朗らかな笑みを浮かべる。その気になれば呪術的な処置で行動を制限することもできるはずだが、彼にその気はないようなので、星華は内心で安堵する。

 本当に星華が何もするつもりがないと思ったのか、それとも彼女の思惑を分かったうえで放置したのか、シュケルの内心は定かではない。しかし、魔術師の間で行われる口約束ほど意味のないものはなく、これでは星華にある程度自由にしても問題ないと言っているようなものだ。


「今回はありがとうございました。では、失礼します」


 星華は丁寧にお辞儀をして学長室を後にする。大まかな事態が分かった以上、少しでも何か手掛かりを探すために行動した方が賢明だろう。

 見習い魔術師にすぎない自分では大したことはできないだろうが、何もせずに黙って過ごしていくよりは遥かに良い。これでも真理を探究する魔術師の端くれだ。不可能なことだろうと、実際にやってみるまでは分からない。そして、諦めるなどという選択肢がない以上、後は前に進んでいくだけだ。


 決意を秘めて退室する教え子を温かな視線で見送ると、シュケルは突如目を鋭く細めて扉の隣を睨みつける。


「よもや学長室で盗み聞きとはな。貴様が何者であれ見過ごすわけにはいかないぞ?」


 先ほどとは異なり、シュケルは殺気を込めた威圧を纏い、魔力を灯した人差し指を標的に向ける。

 

『――夢幻は消え去れ』


 彼が静かに呪文を紡ぐと、付近の風景が歪み、幻影が剥がされていく。すると、扉の隣には真紅のローブを纏った女性が現れた。

 

「さて、覚悟はできてるだろうな?」


 シュケルの瞳が蒼穹の輝きを宿して、目の前の女を射抜く。しかし、女はその殺気を柳に風と受け流し、フードで顔を隠したまま笑みを浮かべる。その飄々とした様は、尊大な支配者を思わせる独特な風格を纏いながら、何処か蠱惑的な女性特有の雰囲気を醸し出している。


 真紅のローブを纏った女は無言のまま、ごく自然な動きでシュケルの蒼い瞳を不気味に輝く紅い瞳で覗き込む。

 シュケルはその動作に逸早く反応し、いつの間にか取り出した杖を十字に振るう。


 このとき、二人の魔術師の戦いは、白昼の学園にて静かに幕を開けた。

 

 

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