夢
今回は短めです……
気が付くと、何も無い真っ白な空間にいた。
果てしなく広がる虚無の世界。
俺――神威真羅はその白い世界を漂っていた。
――――夢か……
俺はこれが夢であることを何となく理解した。
しかし、これは俺の夢ではない。
何か別の存在が、俺に意図的に見せてるものだ。
俺は何度かこの夢を見たことがある。
この夢は、これから何か大きな困難に立ち塞がることを知らせてくれる。
だが、決して俺を救うためではない。
これは、俺に試練を与えるものだ。
この先に何が起こるのかは決して教えはしない。
俺もその先にあるものは教えられたくない。
現在、俺が分かることは、この夢を見せる何か途方もなく巨大な存在がいるということだけ。
俺は何も無い白い世界を睨む。
――――いつまで隠れてるつもりだ?
俺の思いが伝わったのか、前方の空間が歪む。
顕れたのは、この世のものとは思えないほど美しい女性だった。
雪のように美しく透き徹った白銀の髪。
旭光のように暖かく眩しい金色の瞳。
見る者全てを魅了する美貌。
背中からは七色の光が流動している半透明な翼が生えている。
ゆったりとした神秘的な衣の隙間からは、シミ一つないキメ細やかな白い肌が見え隠れしている。
彼女は人間ではない――それどころか生物でさえない。
彼女はそんな低い次元にいる存在ではない。
俺は彼女を見ただけで、全身が凍り付いたように身動き一つできなくなった。
――――この存在は格が違い過ぎる。
俺の本能が訴える。
彼女は次元が違う。
彼女と比べたら、人間はおろか、どんな生物――いや、神や悪魔、どんな高次の存在でも、ちっぽけな存在だ。
身動き一つできない俺を見て、彼女は嬉しそうに微笑む。
全てを魅了する可憐で美しい笑顔だ。
俺はその笑顔を見て不愉快さを感じた。
彼女からしたら、俺は路傍の石のようなちっぽけな存在だろう。それ故、俺は彼女が理解できない。
何故が目的だ?
俺に何を求めている?
分からない。
彼女の目的も望みも。
いや、人なんていう、ちっぽけな存在では分かるはずがない。
彼女は俺の目を見ると口を開く。
「―――――――――――――――」
分からない。彼女が何かを言ってることは分かる。だが、声として、言葉としては全く分からない。
恐らく、教える気はないのだろう。
俺は彼女の名すら知らない。
というより、初めは彼女の声を音として聞き取ることすらできなかった。
魔術師として力を付けていくうちに、音だけは分かるようになった。
彼女と言葉を交わしたのは一度だけ。いや、一方的に彼女が、頭に――魂に、直接言葉を伝えてきたときだけだ。
それをしないということは、教える気がないということだ。
そのため、俺は自然と挑戦的な笑みを浮かべてしまう。
――――いいだろう。教える気がないないなら、自力で理解してやる……そして、
――――いつか………お前を越えてやる。
目の前にいる彼女は、限りなく全知全能に近い存在だ。
あまりにも格が高過ぎて普通の存在なら、認識はおろか、感じることすらできない。
恐らく、彼女の存在を知ってるのは俺だけだ。
彼女は何故か時折、俺の夢に姿を顕す。
彼女は俺の笑みを見て、大輪の花が咲き誇るような眩しい笑顔を見せる。
どうやら、彼女が望んでいたのは、これのようだ。
俺の果てのない、向上心、好奇心、探究心。
自分という巨大な存在に挑む存在。
彼女は満足したのか、白い世界が薄れ始める。
薄れゆく世界で、彼女は、まるで、我が子を見守る母親のような優しく温かな笑みを向けてくる。
そのとき、俺の中に声が響いた。
『――――待ってるよ』
その言葉を最後に俺の意識は途切れた。




