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魑魅魍寮へようこそ!  作者: 山田えみる
第五章:四季神の物語
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他ならぬその冬神を殺した四季官(しきかん)だろう。

 天網恢恢相談支援事業所に突如舞い込んできた、出雲政府、文福ぶんぶく刑部卿ぎょうぶきょうからの通報——、それを受けたのは尾裂課長で、話は断片的にしか聴こえなかったのだけど、小谷間まどかは震えていた。


 「残るは、冬と夏……」


 何故『八百万動画』を課長が再生したのかはわからないが、この言葉。この奇想天街において、出雲政府から睨まれている四季神はひとりしかいない。すなわち、働かない冬の神様『柊憂姫』だ。


 数年前の大雪害——それはわたしもしっかり憶えているが、あれを引き起こした張本人。神がヒトと交わって生まれた忌み子が憂姫であり、母親はその罪で処刑をされた。


 「ヒトーさん、あの子なにかやらかしたんですか」

 「いえ、このタイミングでバレることはないと思いますが」

 「課長、少し用事があるので、ヒトーさんとパトロール行ってきますです」


 尾裂課長に知られてはいけないことがふたつある。ここで働いているヒトーさんとわたしは相談支援員失格ではあるが、それは隠し通さなければならない。


 ひとつは、魑魅魍寮という何の変哲もないアパートが、出雲中央政府の捜査からのシェルターとなっていること。いったいどんな手品を使っているのかは知らないけれど、実際に、この地区の冬の神様は行方不明だということになっている。

 ふたつめは、その魑魅魍寮に冬の神様が引きこもっていること。


 『鬼』も隠していることも含めて、まちがっても尾裂課長にこのふたつは知られてはいけない。それに理由は知らないが、尾裂課長は四季神に対してなみなみならぬ感情を持っているそうだ。なにしろ、あの大雪害をきっかけに一から相談支援事業所を立ちあげたというのだから、思うところはあったのだろう。


 「あの、課長?」

 「あ、ああ。1時間以内には戻りなさい」


 受話器を割れんばかりに握りしめて、一点を見つめる尾裂課長の表情は、まるで妖狐が憑依でもしたかのように恐ろしいものだった。


 「……ようやく、見つけた」


 その声音にビクッと立ち上がり、わたしは何か言いたそうなヒトーさんを押し出しながら、オフィスの外へと向かっていった。階段を降りた駐輪場で、わたしはようやくヒトーさんに向かい合う。


 「どうしましょう、バレてませんか?」

 「理由が知りたいですね。彼女が魑魅魍寮に来てからというもの、わたしもここで勤めてましたが、彼女の情報が入ったことは一度もない」

 「じゃあ、どうして……」

 「いずれにせよ、私達が変な行動を取るのは危険です。あなたが魑魅魍寮に越してきたばかりというのもありますし、あそこに憂姫がいると言っているようなものですから」


 たしかにヒトーさんの言うとおりで、とりあえず先の出雲政府からの通報をはじめ、情報を整理しなければならないと感じていた。報告事項で書類が回ってくるとは思うから、それを確認して――。


 「あ、夏姫さん、おはようございます」

 「どうしたんですか、そんなコソコソ話をして」

 「い、いやあ、なんでもないでござるよ。それより夏姫さんはどうしたんでござるか?」

 「怪しさ。シフトは入ってないんだけど、ちょっと忘れ物をしちゃって。あ、それから、うち、夏はちょっと稼ぎの良いバイトがあるから長期休暇を取るもんでよろしくね」


 髪を明るく染めてショートカットの似合う彼女は、それだけ言って階段を登っていった。眼鏡で黒髪で地味なわたしは、いつもそれが羨ましく想っていた。


 「思い切って染めてみようかしら」

 「やめたほうがいいと思います」

 「え、もしかしてヒトーさんの好みが判明? それって黒髪がいいってこと!?」


 ※


 「……ようやく、見つけた」


 ヒトーと小谷間まどかが席を外したのは僥倖だったと、尾裂課長は感じていた。強く握りしめた受話器を戻し、古い馴染みの電話番号を打ち込む。もう連絡することはないとは思っていたが、こんなことで役に立つとは何かの縁なのだろう。


 忙しいとは聞いているが、旧友からの電話に出られない程でもないだろう。数コールの後に、ガチャリという音がした。


 「はろー、尾裂っち。珍しいね」

 「折り入って頼みがある。君にしか頼めない」

 「なんだい、藪から棒に。あ、もしかして寂しくなったから口説こうとしてる? 奥様ひまわりが悲しむよ? それに、わたし、もう子どもいるし」


 この軽口も懐かしい。


 「そういうわけじゃない。出雲中央政府の、しかも文福刑部卿から直接連絡があった。この奇想天街でヒトと交わった八百万がいるそうだ。私はそれが例の冬神の娘ではないかと睨んでいる」

 「……ふぅん」

 「他ならぬその冬神を殺した四季官しきかんだろう。なんだその腑抜けた返事は」

 「いや、わたしもう引退して譲ったから、詳しいところわかんないなーって。どうせ尾裂も連携協力したいって言うんでしょ、だったらなおさらわたしじゃもう不的確だよ。連絡先はあとでメールするから、ごめんね」


 文福刑部卿も代替りがあったことは言及していた。


 「……わかった。ならば、ひとつだけ教えてくれ」

 「なんだい?」


 「刑部卿は『代替りしたようじゃが、何故か連絡が取れん』と仰っていた。四季官を継がせた跡取りはどこにいる? 出雲政府の天網をすり抜ける術があるのか」

 「さぁねえ、そんなことできるなら、『観測の魔女』かあるいは……。いずれにしたって現実的じゃないね。通信網の事故でもあったんじゃないかい。いずれにせよ、その番号にかければ彼と連絡は取れるから」

 「ああ、また機会があれば飲みに行こう。山田教授」

 「じゃあねん♪」


 受話器を下ろすと、携帯電話の方にLINNEが入っていた。このサービスが始まった頃にアカウントを交換して以来、まったく連絡を取っていない彼女のアカウントの吹き出しが、見覚えのある名前を表示するのがわかった。


 「山田、はじめ……?」


次回:いつだってバケモノを封じ込めるのは、人間の仕事だ。

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