表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魑魅魍寮へようこそ!  作者: 山田えみる
第五章:四季神の物語
PR
55/99

『朝までちぇりーぶろっさむ!』


 「……あっつ」


 椿つばき桜姫ちぇりーぶろっさむ、この奇想天街きそうてんがいに春をもたらす八百万の神。全身全霊を尽くして春をもたらしたのちは、ずっと遊び呆けようと思っている彼女だったが、ひとつだけずっと心に引っかかっていることがあった。


 「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースヤサイマシマシランバチップチョコレートクリームフラペチーノ」

 「かしこまりました〜」


 いつも作業の場としているスターダックスコーヒーでおきまりの呪文を詠唱して、フラペチーノが出てくるまで待つ。席には、自身が放送しているアマチュアラジオ『朝までちぇりーぶろっさむ!』で話すネタ帳が広げられている。フラペチーノの冷たい感触を楽しみながらも、彼女は、友人である夏の八百万のことを思い出していた。


 梅雨が終わり、わたしは鎮守の森の四季社しきしゃから降りてきた。春から夏への季節の移り変わり。八百万の神はほぼ三ヶ月間そこに篭もるのだけど、季節の変わり目には緩衝期間が設定されている。海の日を境にめっきり夏めいてきたことを考えるに、この数日でえのき夏姫なつきが四季社に篭ったのだろう。


 「なんでもないよ、ちぇりーぶろっさむは心配しなくていい」


 長年の友人である彼女はそう言った、指に光る細いリングを隠しながら。あんなアクセサリーをするような子ではないし、もし、それが同族である八百万の神からの求婚であるならば、わたしや憂姫ゆきに話しをするはずだ。Faithbookにも上げることだろう。


 にもかかわらず、彼女はずっと独り身であるかのような更新を続けて、この期に及んで、まるでリングを外し忘れたかのようにそれを隠した。ずっと独り身のわたしへのあてつけをするような子ではないし、考えられるのは、あまり考えたくないことだった。


 『ヒトと交わった神の行く末を、知らないとは言わせませんよ』


 四季裁しきさいの言葉がフラッシュバックする。まだ幼い四季神三人で、母親を殺されて暴走する憂姫を助けたときだ。出雲中央政府は八百万の神の威厳の失墜をなによりも赦さない。


 そして、ヒトと交わって生まれた忌み子には、自らのヒトとしての信仰を動力源に神様としての力を行使できるバケモノが生まれる。いまでも憂姫のことは友人だと思っているが、あの力を目の当たりにすると、さすがに少し距離をおいてしまう。立っている次元が違うのだ。


 それを怖れているのか、鎮守の森単位に出雲中央政府は四季裁を配置している。主に罪を犯した八百万の神々の処断を行う彼ら。たかが四季を操れる能力を持つわたしたちが、抗えるわけがない。通報されたら一発アウト。


 「……それを知らないあなたじゃないでしょうに」


 あくまで推測にしか過ぎないけれど、夏姫はヒトと交わりを持っている。そしてそれを隠しており、わたしたちにも相談できないでいる。進んでそんなことをヤるような子じゃないから、どんな事情があったのかは知らないけれど。


 「夏姫は優しいからなぁ」


 まだ幼い頃から、わたしたち四人を引っ張っていく明るい存在だった。もっともひさぎはマイペースだったから神出鬼没で、憂姫は(いまにして思えば、半神だったゆえに)成長が遅く、いつもわたしと夏姫で面倒を見ていた。まだ親世代が四季神を担っていた時に、鎮守の森に探検にも言ったし、みんなで自転車で川の終端まで走っていったこともある。


 不意に、胸が締め付けられる。

 みんな変わってしまった。それを大人になったと呼ぶのかもしれないが。憂姫のあの事件、そして夏姫のこの隠しごと。みんな小さい頃には想像ができなかったことだ。わたしはできれば、みんなで昔のように仲良く集まりたかっただけなのに。


 「わたしなりのやり方で相談に乗れたら……」


 ただし、この件がオープンになるのだけは絶対にダメ。四季神がヒトと交わるのはご法度中のご法度だ。特異生物自立支援法上に規定される通報義務が課せられる事実でもあるし、それがひとたび相談支援事業所に流れようものなら、すぐに四季裁が動き出す。


 「それでもわたしはあなたの力になりたいんだよ」


 気合を入れるためにかっこんだフラペチーノで、頭を抱える椿桜姫だった。


 ※


 はぁい。

 今日も『朝までちぇりーぶろっさむ!』を聞いてくれてありがと♪


 あーあー、声、聞こえてる? うん、ご新規の方はコメントで返事をしてくれればいいよ。春のあいだはちょっと立て込んでいたからだいぶ長い休みを貰ってごめんね。夏からはしばらく時間が作れるから、定期的に放送できるかも。詳しくはコミュニティをチェックしてください。


 Autumn-Hisagi:キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

 Autumn-Hisagi:ファンです(*´艸`*)

 Autumn-Hisagi:今日はぼくのメール読まれるかな((o(´∀`)o))ワクワク

 Autumn-Hisagi:ってか、どこ住み? LINNEやってる?

 Autumn-Hisagi:なーんちゃってー!₍⁽⁽(ી( ・◡・ )ʃ)₎₎⁾⁾


 どうやらひとり荒らしみたいなヒトがいますけど、無視をしましょう。


 Autumn-Hisagi:死にたい。


 さて、今日も午後11時から二時間お付き合いいただきますので、よろしくおねがいします。お便りやコメントはコミュニティの掲示板まで。それで、今日のお便りなんだけど、今回だけ、赦してね。わたしの相談事なんだ。わたしの大切な友人の。


 Foxino:おやおや、珍しい。

 Autumn-Hisagi:二年と三ヶ月前の第124回目以来だね。


 えっと。

 それでね、その友人、仮に名前をAさんとすると、どうやら恋をしているらしいんだ。それも幸せな恋を。だけど、その関係は許されざるもので、周りに打ち明けられない。もちろん結ばれたとしても、公にすることができないような関係なんだ。


 Kankan$:不倫?


 ……まぁ、そんなところかな。わたしの憶測に過ぎないんだけど、どうにか力になってあげたいんだ。でも、彼女は何も話してはくれないし、大丈夫だって言い張る。大切な友人なんだ。みんなは、そういうときどうするかな。


 Kankan$:何もしないほうがいいと思うけどなぁ。だって、おせっかいってやつじゃない? 本当に困ったら、その子から相談に来るだろうし。

 yamada99:でも本人からは言い出しづらいってことはあると思う。いま、その人とはよく連絡が取れる感じ? ちょっとした変化とか見逃さないようにしないと。


 ありがと。でも、これからはちょっと遠くにいるから、頻繁には逢えないかもしれない。夏が終わるころ、そうだね、秋になればきっとこの街に戻ってくるだろうから、そのときにきちんと相談に乗ろうかな。うん、たしかに無駄に波風を立ててもいけないかも。


 ――ひさぎ、伝わったよね。緊急事態だ、帰ってきて。LINNEは表沙汰にされていないけど、出雲中央政府の検閲が入ってる。あなたがどこにいるのかは知らないけど、こうするしか伝える術がないの。


 yamada99:さっきの荒らしの人、真面目な話になると喋らなくなるのね。

 Autumn-Hisagi:呼んだ?ᕕ(´ ω` )ᕗ


 呼んでません。

 それじゃあ、ちょっと休憩。しばらくコメント欄も開いておくし、BGMもかけているから、雑談していて。わたしはちょっとお腹がすいたから、カップ麺作ってくる。それでは、『朝までちぇりーぶろっさむ!』後半戦をお楽しみに!

次回:尾裂の胎動

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ