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魑魅魍寮へようこそ!  作者: 山田えみる
第三章:おうまがどき!
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《小谷間まどかの徒然日記》

 魑魅魍魎が跋扈するこの世界は驚きに満ちている。


 わたしはある座敷童に危機を救われ、こちらの世界に転移をしてから、ずっと日記をつけていた。あの日、母から盗み出してこちらの世界に持ってきたスマホは、元いた世界と接続することがたまにあった。その折を縫って、この日記をあたかも創作小説のようにして投稿をしている。もともと文章を読むのは得意だったが、読むのと書くのは大違いで最初は苦労したものだ。


 そこで、そろそろ文字数も重なってきたし、最初から読むのは大変だという人もいると思われるから、わたしが把握している限りのこの世界のことをざっと振り返ってみようと思う。テレビアニメでいうところの総集編というやつだ。


◯小谷間まどか

 いきなりわたしのことで申し訳ないが、簡単に自己紹介をしたいと思う。

 わたしは『箱庭を渡り歩いたプレインズウォーカー』であり、元いた世界では児童虐待を受けていた。というのもわたしが元いた世界でも「座敷童さんが見える」「付喪神さんといつも遊んでもらってる」なんてことを言っていたからで、それが普通の人には見えないのだと知ったのは随分あとになってからのことだった。


 その遊びの途中に母の大切なものを壊してしまったのだろう、包丁を突きつけられて殺されそうになった瞬間、ある座敷童に助けられて、そのままこの魑魅魍魎が跋扈する世界に転移することとなった。


 この世界でわたしは異常者ではなく、ここでの両親は(後述するある理由から)非常に優しくしてくれた。あの世界で遊んでくれた友達のようなものばかりではなかったが、魑魅魍魎たちは好きだったので、それを学ぶ道を選んだ。大学、大学院と進み、山田教授と出逢った。


 山田教授が教えてくれたことはほとんどなかったが、示唆してくれたことはたくさんあった。この世界における『魔女』の存在について。かつて滅ぼされたとされる『鬼』と呼ばれる存在について。もしかしたら教授は、わたしが違う世界からやってきたことを知っていたのかもしれない。


 そんなわたしは妹を学校に通わせるために、大学院を途中で辞め、仕事を始めることとなった。そこでは大学での知識を活かした仕事ができると思っていたのだけど、ほとんどが退屈な事務仕事ばかりでがっかりしていたところに出逢ったのが、デュラハンリーマンの『ヒトー』さんだった。


 ここから先はそれぞれの関わりあった人物の項に譲ろうと思う。いずれにせよ、わたしは勿体ないほど好きな人達に囲まれて穏やかでドキドキする生活を送っている。いつまでもこの平穏が続けばいいと思っているのだ。


◯ヒトー

 職場の先輩のデュラハンリーマン。

 特異生物の『デュラハン』であり、イメージとしては生ける西洋の甲冑。鎧はかなりの年代物なのか、ところどころ傷がついていたり、煤けていたりする。中身が空っぽで、よく首が外れて頭部が転がり落ちてしまう。ずいぶんな巨体なのだが、気は小さくて真面目で、鎧の上からネクタイを絞めていたりする。


 口癖は『どうかクビだけはご勘弁を!』。おっちょこちょいな性格なのか、ミスをしては、『中身のない』言い訳をしながら、よく『頭を抱えている』。


 魑魅魍寮という特異生物が優遇されているアパートに住んでいるらしく、そこから自転車で通ってきている。お弁当は寮の誰かが作ってくれるらしく、お昼ごはんはいつも二人でお弁当を開いている。彼のお弁当は昨晩の残りとはいうが、かなり女子力が高いものもあって、わたしはライバルの存在を感じている。


 夏姫さんの協力もあって一度だけ映画館デートをすることが出来た。そこで見た『静寂サイレント魔女リティ』という物語はたいへんおもしろいファンタジーだったので、見たことのない人は必見だ(わたしは途中で眠ってしまったが)。


 ヒトーさんが何を考えているのかわからないだけ、距離が縮まりそうで縮まらず、もどかしい毎日なのだが、それはそれでヒトーさんらしくていいか、と最近は開き直っている。ただひとつ気がかりなのは、時折現れる『ラプラシアン』の紋章だ。この箱庭に遺された『観測の魔女』の残滓なのかもしれないが、なかなか本人は言い出せず、小さな胸の奥に秘めている。


 「夏になったら、ヒトーさんを直射日光下に置いて一時間くらい放置させたいんです」

 「ええと……」

 「油を引いて、大☆焼肉大会をですね」

 「まったく同じことを寮の管理人にも言われましたよ」

 「……気が合うのか、ライバルなのか」



◯山田教授

 すべてが謎に包まれている女性。年齢不詳、家族構成も何もかも不詳だけれど、好奇心だけで動いていることは確かだ。黒のスーツばかりオバQのように持っていて、いつも上から下まで黒で統一している。


 研究室には雑多にものが置かれているが、一冊だけ大切そうに置かれていた黒い表紙の古書を見つけたことがある。すぐに見つかって怒られたけれど、不思議なことにそのページはすべて白紙で、けれど何度もページが捲られたような跡があるのだ。厨二病の黒歴史を見てしまったと、わたしはそれ以来、そのことには触れないようにしている。


 山田教授のおかげで稲荷いの(後述)に出逢い、肉塊だった妹は身体を得た(後述)。そのことは大変感謝をしているけれど、山田教授のことだから、何か仕掛けているのではないかと疑心暗鬼にもなる。


 大学院を辞めてからは特に交流はないものの、LINNEで連絡は取れるようにしている。


 「下の名前なんていうんですか」

 「姓は山田、名はもも

 「……うそ!?」

 「うん、嘘」



◯稲荷いの

 鳥居ばかりのはざまの世界で出逢った、『神性存在』の狐。

 ケモミミ、ケモ尻尾、巫女服に太刀、語尾が「のじゃ」と、ともすればコスプレにしか見えないが、ガチの神様らしい。ただ役目を終えて肉体を失い、『鬼斬り』と呼ばれる太刀とともに封印されていたところを、妹のために契約をしたというわけだ。


 特異生物とも八百万の神とも異なる『神性存在』というものについては文献も少なく、詳しいことはまだわかっていないが、肉塊だった妹に人のカタチを与えたり、いまは失われた『魔女』の秘法である『円環魔術(意志量子力学ウィルクァンタムコンプレックスセレオムに基いて、知的生命体の観測により光子を操る極めて科学的な、されどいまの人類には魔法にしか見えないものだ)』を当たり前のように使ったりと、何かと桁外れの存在なのは間違いない。


 いの、という名前は山田教授がつけた。理由は明かしてくれなかったが、天敵である『ONI』の逆綴りなんて安易なネーミングでないことを祈るばかりだ。


 「好きな食べものは」

 「油揚げとおにぎり、それと人の魂じゃ」

 「神っぽい」

 「神じゃもん!」



◯小谷間ともえ

 わたしの、この世界における、妹。

 わたしがこの世界に転移してきた時の齟齬がどのように辻褄合わせされたのかはわからないが(座敷童が頑張ってくれたんだと思うが)、こっちの小谷間まどかには妹がいた。彼女は生まれながらにして、常識的な意味での肉体を持っておらず、目は見えず、コミュニケーションも取れず、「ぃぁぃぁ」としか呻けない肉塊だった。病院のベッドで無数のコードに繋がれて、鼻に相当する部分をひくひくとさせていたのを幼心に憶えている。


 こちらの世界での両親がひどく優しかったのも(父が母を見放さなかったのも)、きっと彼女のおかげだろう。わたしはそのおかげで暖かい青春時代を過ごすことができ、学びたいものを学ぶことができた。だからこそ、偶然とはいえ、その学びたいものの先に彼女を救える手がかりがあるのだとすれば、それはどんな胡散臭い存在であれ、掴まざるを得なかった。


 後悔はしていない。


 わたしの狭いアパートから、「行ってきます」と元気に駆け出していく妹を見るたびに、後悔なんて言っていられなかった。研究をやめて、慣れない仕事を始めたことも苦には思っていない。それに山田教授のところにずっといたら命がいくつあっても足りない。ヒトーさんにも出会えたことだし。


 ただひとつ気がかりなのは、稲荷いのという存在。ただで願いを叶えてもらおうなんてドラゴンボールなことは考えていないが、やはりあれが妹の中にいるとなると気にはなってしまう。なんといっても『神性存在』。人類とも特異生物とも格が違う。とはいえ、話に聞く限りうまく共存をしているようなので安心をしている。例えば、散歩の途中でたまたま『鬼』の生き残りに遭遇するなんてことがなければ、さしたる危険はないだろう。


 百鬼夜高でボーイフレンドが出来たと聞いた。小谷間を刻まれた者にもかからわず、肉体の再構成というズルをしてすごいおっぱいをしている娘はちがう。ズルいのだ。


 「それで、その男の子とはどうなの。お姉さんに話してご覧なさい」

 「このあいだまでその年での初恋であたふたしていた人に相談することなどない……」

 「ぐぬぬ」

 「ぃぁぃぁ」


 ――そんなこんなで、わたしの賑やかで穏やかな日常は続いていくのである。

これにて第三章が終わりです。

第四章がなにしろ書きたかったこの物語ですが、書き始めてみると思ったよりハードになってしまって、何故にコメディを選んだのかわからなくなってしまいそうですが、連載開始時から散々言われていたバトル展開・アクション展開はありまぁす!

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