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魑魅魍寮へようこそ!  作者: 山田えみる
第三章:おうまがどき!
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《山田九十九の徒然日記》

 もし仮にわたしの生きてきた日常生活が、例えば毎日SNSで連載するような小説になっていたとしたら、おそらく第一章はてんやわんやで主役を張れるだろうが(そしてそれはひょん君に導かれてやってきたこの世界の世界観説明でもあるのだろう)、第二章があるとすれば、ほとんど出番はないことだろう。


 というのも、この魑魅魍寮という安アパートの管理人となってからというものの、誰よりも馴染んでグータラ生活を送っているからだ。料理や洗濯は従兄弟のはじめくんがやってくれるし、わたしといえば、ある事情で寮から外に出せない『鬼』の子のおうまくんの面倒を見ることが主な仕事だった。結婚こそしていないが、主婦の母親って感じだ。もっともおうまくんは賢くておとなしいため、苦労は特にしておらず、不労所得があるのをいいことに、この賑やかな魑魅魍寮で一日中暮らしている。


 さて、座敷童のひょん君に誘われてこの魑魅魍魎が跋扈する世界に転移してしまったのだが、実はわたしの持っているスマホは元の世界にも接続できている。正確には、一緒に持ってきたPocket WiFiを使えば元の世界のネットワークに、使わなければこちらの世界のネットワークに繋がるという仕組みだ(こちらの世界では電波強度が人魂っぽいアイコンに変わる)。


 元の世界では『なろう』と呼ばれる小説投稿サイトに読み専として入り浸っている日々であったが、ちょうど自らが異世界に飛ばされてしまったため、日記を細切れで投稿することをいまの趣味としていた。当然信じてもらえないだろうから、Twitterも他の活動もいままでどおり。「異世界モノにチャレンジしてみました(*´ω`*)」というスタンスで投稿を行っている。


 そこで、そろそろ文字数も重なってきたし、最初から読むのは大変だという人もいると思われる。そのため、わたしが把握している限りのこの世界のことをざっと振り返ってみようと思う。テレビアニメでいうところの総集編というやつだ。



◯山田 九十九つくも

 いきなり自分のことで申し訳ないが、わたしはこの世界においてそれほど重要な役割は持っていない(はずだ)。そのあたりの路傍の石と同じくらいの価値にちがいない。

 ただこれだけは憶えて帰ってもらいたいのは、もといた世界でわたしは幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落とされた。というのも大学時代から付き合っていた彼氏がいたのだ。彼が就職した地方の市役所にわたしも志望し、受かっていた。結婚も間近というわたしに不幸が襲ったのは、勤務が始まる前日の3月31日。


 『わりぃ、職場の子と飲み会終わりにもにょもにょしてさ……、デキちゃったみたいなんだよねえ』

 「死ね!」


 飲んだくれて街を彷徨っていたわたしは、座敷童のひょん君にひょんなことからスカウトされる。なんでも平行世界のわたしに相当する存在がいなくなってしまったので、代理で必要なのだという。それでホイホイついていった結果が、この魑魅魍寮の管理人という訳だ。


 元の世界では死にたくなるようなこともたくさんあったけれど(主に3月末に)、こちらの世界での暮らしにはわたしは大変満足している。まだこの寮から外の世界は詳しくはないし、特異生物という存在にはびっくりすることも多いけれど、この平穏な日常が続けばいいと思っているんです。



◯ひょん

 魑魅魍寮の座敷童。

 座敷童界の皇帝ということで当初は『童帝』を自称していたけれど、わたしがスルーしているからか、最近はめっきりと言わなくなってしまった。和装のショタで、手のひらサイズ。重度のショタコンであるわたしはホイホイされてしまった。

 少々腹黒いところとか、何か事情をしっているふうなところはあるけれど、まあ、いつか話してもらえるものだと信じている。ところで魑魅魍寮は完全なるボロアパートなんだけど、彼にはもう少し気合を入れて座敷わらして欲しい。


 「最近見かけないけど、何をしているの?」

 「ややややましいことなんてしていませんよ。ちょっとボクにはこの魑魅魍寮の座敷童以外にもやらなければならないことが多いのです。生きていくために働かなければなりませんし」

 「働いてるの!? はつみみ!」

 「ちょっと声が大きいですよ!」



◯山田はじめ

 魑魅魍寮の住人にして、わたしの従兄弟。

 元いた世界では『山田荘』に住んでいたが、この世界では魑魅魍寮に置換されているらしい。この寮では珍しい特異生物ではない人間であり、わたしも気心が知れているため、彼の存在には大変助かっている。

 15歳で高校1年生。毎朝自転車で百鬼夜高に通っている。

 スーパーの袋を携えて学校から帰ってきて、晩御飯の仕込みをして洗濯までやってくれる。本当にいい旦那さんになれそうだ。最近は百鬼夜高でのお友達も出来たそうで(しかも女の子らしい!)、紹介してくれとせがんでいるが本人はすごく嫌そうな顔をする。


 「で、結局、エロ本の隠し場所はどこなの?」

 「いい加減にしてください。持ってないです」

 「持ってないわけないだろ! スマホか? スマホなのか!?」

 「……こんな人じゃなかったと思うんだけどなぁ」



◯ヒトー

 魑魅魍寮の住人にして、デュラハンリーマン。

 特異生物の『デュラハン』であり、イメージとしては生ける西洋の甲冑。鎧はかなりの年代物なのか、ところどころ傷がついていたり、煤けていたりする。中身が空っぽで、よく首が外れて頭部が転がり落ちてしまう。ずいぶんな巨体なのだが、気は小さくて真面目で、鎧の上からネクタイを絞めて、相対的に小さなママチャリで朝早くから出勤している。

 口癖は『どうかクビだけはご勘弁を!』。おっちょこちょいな性格なのか、ミスをしては、『中身のない』言い訳をしながら、よく『頭を抱えている』らしい。

 仕事は何をしているのか知らないが、結構ハードそうで、帰ってくるのはいつも日付を跨いでからだ。最近入ってきた親友社員と仲がいいそうで(しかも女の子らしい!)、紹介してくれとせがんでいるが本人はすごく嫌そうな顔をする(無表情な兜だけど)。

 

 「夏になったら、ヒトーさんを直射日光下に置いて一時間くらい放置させたいんです」

 「ちょっと意図がわからないんですが……」

 「油を引いて、夏の魑魅魍寮☆焼肉大会をね」

 「ふむ、面白そうですね」

 「……突っ込め」



ひいらぎ 憂姫ゆき

 魑魅魍寮の住人にして、冬の神様。

 人型の特異生物で、彼女曰く、付喪神型と信仰型に分かれているうちの後者なのだそうだ。人々の自然現象への畏れを糧として存在を維持している、正真正銘の冬の神様。長くて綺麗な白髪をしており、肌も透き通るような白さなのだが、残念ながら芋ジャージの姿しか見たことがない。

 神様とはいうが、わたしが見ている限りは引きこもり気味のオタク少女にしか見えない。部屋の前には宅配便のダンボールが積み上げられており、まだ見たことはないが、中にはオタク感満載の様相らしい。よく、おうま君とテレビゲームやカードゲームをやって遊んでいる。

 噂では、この地区に冬は訪れないらしい。柊さんが働いていない姿は容易に想像ができるが、それでは信仰がなくなって彼女は消えてしまうのではと最近ぼんやり思っている。でもまあ、元気そうだ。


 「いつも部屋で何をやってるの?」

 「『八百万ちゃんねる』とか……」

 「外に出たりとかはしないの?」

 「外にでると溶けるんで。暑い」



◯おうま

 魑魅魍寮の住人にして、滅びたはずの種族らしい『鬼』。

 おでこに小さな突起のあるかわいい男の子で、まだ見た目10歳くらいだろうか。わたしには実感がないのだけど、『鬼』が生きながらえていることが世間にバレるとこの世界はヤバイらしい。けれど、彼の可愛さのほうがヤバイ。角をこしょこしょしたときのリアクションとか、マジヤバなのだ。

 小学校の勉強くらいなら一緒に教えることができるけれど、ずっとこのボロアパートの中というのも可哀想だから、いま、フードを被ってこっそり散歩に連れ出すことを計画中。角さえなければ普通のかわいい男の子だしね。

 ちなみに彼の名前はひょんくんからの口伝で音でしか知らないものだから、漢字は何を当てるのだろうと考えることがある。逢魔? 王魔? お馬?


 「おうまくーん、お姉さんのことは好き?」

 「……」

 「そっかそっか~、言葉はなくても伝わるよ~!」

 「……こわい」



えのき 夏姫なつき

 魑魅魍寮の住人ではない、夏の神様。

 引きこもりダウナー系の憂姫とはちがい、かなりアグレッシブな活動系。髪は短くて明るく染めていて、ボーイッシュな朗らかな性格。でも身体の出るところは出ている感じだ。『Faithbook』や『LINNE』を見ていると、コンビニの『アラミタマート』はじめいろんなところでバイトをして資金を貯めているらしい。

 ここだけの話、買い物のついでに商店街で見かけてしまったのだが、少し年上くらいの男性と一緒に歩いているところを発見してびっくりしてしまった。相手の男性は人間だと思うのだけど、人間と神様ってセックス出来たりするのかな、とか思ったり。


 「そういえば他の季節の神様は?」

 「この地区の四季神は、あと椿つばきひさぎだね。そろそろゴールデンウィークだから、椿が頑張ってお仕事しているところじゃないかな。どういうふうに仕事をするかって? それは見てのお楽しみだ」

 「秋は?」

 「ひさぎはいまどこにいるんだろうねえ、たぶん出雲中央政府で呑んだくれてるんだろうけど。あ、機会があれば一度逢ってみるといい。とても面白いやつだから。実り行く生の季節であり、眠り逝く死の季節でもあるからね、秋は」


 

 ――そんなこんなで、わたしの賑やかで穏やかな日常は続いていくのである。

しばらくお休みをもらうといったがあれは嘘だ。

次回二十二話『或る女子高生の追憶』

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