躑躅色・君の偽善に恋をする
「私、トーマのこと、めちゃくちゃ大切に想ってるんだからね。」
あどけない顔で。
少しキーの高い、心地の良いその声で。
何時だってそんな言葉をくれるお前は、天使の顔した悪魔のよう。
だってそれは。
一見俺を喜ばせる言葉のように見せかけて、本当は酷く残酷な言葉なのだと気付いてしまった。
それならそれでいい。
なら、俺は何も望まないければいいだけだ。
お前の隣で笑い合ったり、お前がするくだらない話に呆れたり。
そんなささやかな日常を、お前と過ごせるなら、それで良い。
でも。
「やっぱりお前はズリーよ。」
本当は俺の気持ちを知ってるくせに。
『大切』
そんな偽善ぶった、汚い言葉をくれるだけで、結果論なんてくれやしねーんだから。
「……お前が好きだよ。」
「…なぁに?トーマ。今何か言ったー?」
ほら、な。
本当は聞こえてたくせに。
俺の告白は決して小さな音じゃなかった。
だって、俺はお前に聞こえるよう言ったんだから。
首を傾げて無垢な顔で問うお前。
聞こえないふり。
まるで何も知らないふり。
それは。
それでも、こうして俺が、お前の傍から離れられないと、知っているお前だから出来る、お前だけの駆け引き。
だから俺も、お前の知らないふりに、気付かないふりをして、今日もお前の隣、お前の笑った顔を見て過ごすんだ。
人の想いは一つの、決まった形なんかに収まらないから。
「ねえ、トーマ。放課後、何か食べて帰ろー?」
「おっ、いいぜ!俺、久しぶりにお好み焼き食いてー。」
「あはは、じゃあトーマのおごりねー?」
「なんでだよっ!」
君と肩を並べて歩く渡り廊下。
見上げた空は、今日も無限に、広がっている。
君の偽善に恋をする
いつまで経っても
中途半端な君と俺
《終》