幕間 全ての始まり
「愛してる」
そう、はにかみながら君は言う。
「……面倒くさい」
そう、いつも僕は返していた。
誰かを愛するとか、誰かに愛されるとか。そんなことは全て、僕に許される行為じゃないと思っているから。
不幸を振りまいて、人を傷付けることしかできなくて。
それなのに、温もりを求めてしまうような欠陥品に、そんな資格は無いって、思っているから。
だから、面倒くさいって答える。どうでもいいって、はぐらかす。その度に、君は悲しそうな表情に変わる。
けど、それでいいと思っていたんだ。
それで誰も傷付かずに済むなら、それでいいと思っていたんだ。
僕も、君を愛していたから。何よりも大切で、誰よりも大事だったから。
けれど、僕はそう伝える資格なんてないと思っていて。君の隣で笑う権利なんて無いと思っていて。
だから、僕は逃げた。
君の言葉に耳を塞ぎ、君の愛から背を背けて。
自分から手を伸ばすことなんて考えもせずに、本当は自分が傷付きたくないだけなのに。
君を傷つけたくない、なんて尤もらしい嘘を周りや自分に信じ込ませて、逃げ続けた。
そうして、僕はミスをする。
君は、消えた。
泣きながら、僕の前から消えてしまった。君は傷付きながら笑っていて、けれど僕は最後の瞬間までそれに気付かない。
自分のことばかり考えていて、自分ばかりが不幸だと思っていて。
一番欲しかった、何よりも大切なものはすぐそばにあったのに。
君のことには、まるで気が付かない。
そして、君はいなくなってしまった。
残ったのは後悔だけだ。
大切なものを失ってから、初めてその価値に気付く。
どうして向き合わなかったんだろう、って。大切なものは、目の前にあったのに。いつだって、望むものはすぐそこにあったのに。
そう、後悔する。
ずっとずっと、後悔し続ける。
だから、これは足掻く物語だ。
君が消え去った後の世界で、僕がどうにかしてもう一度何かを手に入れようとする物語。
過去から未来へと、何度も、何度も何度も繰り返された…………
寂しがりやの化け物が、泣きながら足掻く、物語。