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My silly days  作者: 高空天麻
邂逅
11/18

終章ーMy silly days

一旦、この章で更新はストップします。

「よし、準備OK!!」

 鏡を見て、最後の身だしなみ確認をしてから、ライカは言った。

 昨日渡された『スクール』の学生服は、昨日一度試着しただけとは思えないほどに身体に馴染んでいる。黒一色なので、茶色の髪が浮いて見えてしまうがそれはおいおい整えていく事にしよう。それを言うなら、ブレスレットもこの服に合っているかは微妙な所だ。

 右手にはめた、蒼をメインに黄色のラインが何本か入ったブレスレットを見る。それは、昨日ミーティングが終わって彼女がカリヤ達と同じチームに所属する事が決まったあとに、カリヤに入学祝いとしてもらった物だ。あの村で、彼女がコウイチとトレーニングしている間に手に入れた鉱石を加工した物らしい。

『雷の力を増幅させるから、ライカにはちょうどいいなって思ってさ』

 そう微笑みながら渡された時は、嬉しすぎて卒倒するかと思った。実際顔は赤くなっていたらしく、カリヤは困惑顔に、事情を知っているコウイチはにやつきながらこちらを見ていた。

「っとと、いけない。そろそろ行かなきゃ」

 思い出して赤くなった頬をペチペチと叩き、もう一度忘れ物がないかを確認してから部屋を出る。女子寮の入り口まで行くと、約束通りヴェインがそこで待っていてくれた。

「ごめんごめん、ちょっと遅れた?」

「大丈夫、時間ぴったりだよ。……ちょっと話があるんだけど良いかな?」

「ん、何?」

 ヴェインは少し恥ずかしそうに辺りを見回してから、一度咳払いをしてこう言った。


「僕は、ライカが大好きです」


 少しの間、何も考えられなかった。人生で、始めて告白されたのだから当然と言える反応なのだろうか。何秒かかかって、ようやっとその言葉の意味をきちんと理解した。ようやっと戻った顔が、また赤らむのがわかる。

「うん、とっても嬉しいよ。……でも、ごめんね」

 息を吸って、ハッキリと告げる。ここできちんとしなかったら、私達はここから先に進めない、そう思うから。

「私、もう好きな人がいるんだ」

 なぜか視界が潤んでいく。しゃくり上げそうになったが、どうにかきちんと言い切る事が出来た。

 ヴェインにとってはわからないけれども、ライカにとってヴェインは初恋の人だった。あの時、同じようにケガをしているのに、自分に笑いながら薬を手渡してくれたあの瞬間から、いつの間にか惹かれていた。

 そばにいたいと思った。一緒にいたいと思えた。そんな経験は人生の中で初めてだったから。

 だから、多分アレは私にとっての初恋だったのだと思う。

 でも、それは今の想いじゃない。

 今の、ヴェインに向ける感情はどうやっても友達に向ける『好き』以上にはならない。カリヤの事が好きだと思った瞬間から、この時が来る事はわかっていたのに、どこかしらで覚悟もしていたのに、それでも無性に悲しかった。

 何度も、泣きながらごめんを繰り返す。涙は止めようと思っても全然止まってくれなかった。

 そんな私を見て、ヴェインはおどけたような表情で笑った。

「あ〜あ、ふられちゃった。まあ、予想はしてたけどね。はい」

 言いながら、こちらへハンカチを差し出してきた。

「わかってたよ。ライカの気持ちがもう他に向いちゃってる事も、もう戻ってこない事もね。……僕の方こそ、ごめん。きちんとケリを付けておきたかったんだ」

 フワリと頭のてっぺんを軽く撫でて、彼は続ける。

「カリヤさんだろ? 好きな人って」

「……う、ん」

「あの人、相当難易度高いと思うよ? あの性格だと、ライバルも多いだろうし」

「それでも、好きなの……」

 しゃくり上げながらも告げると、少年は少しだけ悲しみの混じった笑顔を浮かべながら言う。

「じゃあ、僕も手伝うよ」

「え……?」

 その言葉に驚いて顔を上げる。その瞳は真剣で、強い光が灯っていた。

「手伝うよ。ライカがあの人の隣に立てるように、僕がサポートする」

「そんな事、頼める訳ないじゃない……!」

 何を言っているんだと睨み付ける。だが、その視線を物ともせずにヴェインは言葉を紡ぐ。

「そうかなあ……。良い提案だと思ったんだけど」

「どの辺が!? ヴェインが一方的に辛いだけじゃない!」

「しんどくなんかないよ。良いかいライカ……」

 そこで、ヴェインはわざとらしい笑顔を浮かべ、目一杯胸を張りながら言ってきた。


「男ってのは、自分の好きな女が幸せだったら、それでいいんだよ!」


 隣にいるのが自分じゃなくてもね、とウインクまで付けて。

 それに、悔しいが少しだけ笑ってしまう。バカだなあと言うと、「あ、ひどッ!」とあからさまに落ち込んだフリをする。バーカバーカと笑い飛ばしながら、内心で感謝した。

 昔からこうだ。私が落ち込んでいたら隣で励まして、笑わせてくれる。私といても良い事はないだろうに、ずっとそばで支えてきてくれた。

「良いわ、死ぬまでこき使ってやるから」

「ライカ様の望むままに」

 ふざけながらも、彼の言葉を了承する。それは、彼に助けてもらうんじゃなくてむしろその逆。今度は私が何かあったら助けられるように。少しでも借りを返せるように。

 その為の、約束だ。


「さて、と……。私ちょっとトイレに行ってくるね。また後で」

「うん、会議室でね」

 手を振り、トイレにはいる。鏡を見ると、目の辺りが若干赤くなる程度で済んでいた。このくらいなら、少し時間が経てば治ってくれるだろう。気分をすっきりさせようと顔を洗い、タオルを出そうとポケットを探ったが入っていない。

 はて? と考えること数秒、ようやっと今日はポーチの中に入れたのだという事を思い出して、手が止まる。タオルを取り出すためにはポーチに手を入れなければならない。しかし、今顔を洗ったばかりの両手は当然のことながら濡れている。

 明日からはポケットとポーチの中に入れておこう、とため息を吐きながらポーチに手を伸ばす。

「はい、これ使って良いよ」

「あ、すいません」

 パッと手渡されたタオルで手と顔を拭き、さっきまでの熱を吐息と共に吐き出す。

 さあ、会議室にいこ……。

「って、ええ!? アトリさん、何でここに!?」

 タオルを手渡してくれた人物に、驚きのままにコメントする。

「ん? 別に私がトイレにいてもおかしくはないでしょう? さっきまでこの子のメンテをしていたから、油の臭いが落ちてないのよ」

「そ、そうですか……」

 右手に持った籠手を置いて、丁寧に手を隅から隅まで洗い始めるアトリ。その動きに併せてフワフワと舞う白髪に見とれていると、手を洗い終わった彼女がこちらの手、というか両手で持っているタオルをじーっと見つめているのにハッと気付く。

 しかし、元々人の物とはいえ、自分の顔を拭いた物を人に渡すというのも気が引ける。

「え、と……。はい、どうぞ」

「ありがとう」

 ポーチから取り出したタオルを渡すと、アトリは小さく笑みを浮かべながらそれを受け取った。

(……やっぱキレーだなぁ)

 一つ一つの所作も、顔も髪も、それぞれが素晴らしいバランスで整っていて、とてもじゃないが比べ物にならない。

「? どうしたの」

「いや、アトリさんキレーだなぁって……」

「ちなみにカリヤは長髪好みよ」

「そうなんですかっ!?」

 思わず前のめりで聞いてしまう。それに、アトリはクスクスと笑いながら「冗談よ」と答えた。

「じょ、冗談ですかぁ……」

 少し恥ずかしくなって目を逸らすと、ライカはある事に気付いた。

「あれ、アトリさん髪飾り変えたんですか?」

 これまでの味も素っ気もない物ではなく、深紅の宝石がはめ込まれた物に変わっている。アトリは心なしか嬉しそうに微笑んだ。

「カリヤが買ってくれたものなの」

 その一言に、胸がズキンと痛む。何となく予想はしたものの、面と向かって聞くのはやっぱり辛かった。やはり、彼女もカリヤが好きなのだろう。どこまでの仲なのだろう、もしやもう男女の仲まで進んでいて、自分が割り込む隙などないのでは……?

 一瞬でかなりブルーになったライカに、それを見て取ったのかアトリが慌てて言ってくる。

「あ、心配しなくても私もまだ片思いだから! その、ライカちゃんが想像してるようなことはないから!」

「ほ、本当ですか……?」

「ええ、残念な事にね……。でも、負ける気はないわよ?」

 顔を上げると、そこには不敵な笑みを宿すアトリ。その、腕を組みながら立つ姿はとてもかっこよくて、すごく綺麗で。この人に勝ってあの人の隣に立つ、なんて考える事自体が無謀にさえ思えてくる。

(……でもッ!)

 立ち向かうように、あの少年のように唇を歪ませて、言う。

「私も、負けませんから」

 それは宣言だ。

 相手が誰であろうと、たとえ何があろうと、絶対に諦めない。どんなに劣勢であっても、敵がどれほど強くても、絶対に負けない。

 これまで一度も抱いた事のないほどに強い思いのために。

 数秒ほどそのままにらみ合っていたら、急にアトリの方が吹き出した。ライカも、釣られて思わず笑ってしまう。ひとしきり二人で大笑いしてから、アトリが手を差し出してきた。

「それじゃ、今日からはチームメイト兼ライバルってことで。よろしくね」

 その手をしっかりと握り返し、答えた。

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


 手を離すと、アトリは籠手を着けて言った。

「時間もそろそろだし行こうか」

「はい」

 アトリについて歩いていくと、少しずつ胸が高鳴り始める。部屋に入った時、なんて挨拶しよう? 今日はどんな話をするんだろう?

 そんな事を考えるだけで、鼓動が早くなって頬の辺りが暑くなってきた。

「ここね」

 アトリがノックをすると、ほいほ〜いというコウイチの若干間延びした声が聞こえる。扉が開いて中に入ると、真正面の席にあの人が座っているのが見えた。

「ようこそ、俺たちのチームへ」

 カリヤがそう言って、こちらに笑いかける。それだけで緩みそうになる頬を締め、右手を胸に当てて満面の笑みで言った。

「ライカ・グルーエンです! これからよろしくお願いします!」


 その瞬間、新しい日常が始まった。


次の投稿は十月末を予定しています。

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