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第1話:リストラ

「体が軽くなっていく・・・これが、“死”なのか。」

壁の中にいる俺をよそに、魂はまるで、蝉の脱皮のように宙に浮いていく。

“死んだ人には何も残らない”果たして本当にそうだと言えるのか。

それなら俺は、この後悔を、もう忘れてしまうのだろうか。

いいや、俺は認めない。この空の果てにたどり着く前に、今まであったことを思い出そう。そしてもし、生まれ変わることになれば、今日のこの事を、一生忘れずにいよう。


このヘッドホンさえ存在しなかったら、俺は・・・


・・・それは2週間前のことだった。


「えっ!?それって・・・」

「すまんな。これも上からの命令なんだ。悪くは思わんでくれ。」

俺はこの時、社会人一年生、就職して2ヶ月も経っていなかった。

「ちょっと、どういうことなんですか!?ノルマもきちんとこなしたし、それに・・・」

「そこなんだ。君は、敬語というのを知っとるのかね。君のような人が会議に出て、きちんと自分の意見を言葉に出来るのか。いいか、文句を言うのと、自分の意思を表すのは違うんだ。

分かったらもう出て行ってくれ。」

そういうと、人事部の部長はドアノブに手をかけ、やがてそれを回した。

この時の気持ちは今でも忘れない。そう心に誓って、エレベーターに乗った。

「エレベーターってこんなに広かったんだ。」

いつもは終業と同時に人口密度が一気に上がるエレベーターも、今日は自分以外に誰も乗っていなかった。それはそうだろう。今は2:00ちょうど。昼休みが終わって、個人が自分の仕事に戻る頃だろう。

エレベーターを降りると、そこには広いロビーが広がり、受付のお姉さんが一腹していた。

降りた直後、楽しい雑談をしていた受付のお姉さんが、急に静まって、ヒソヒソ話が始まった。

こんなに肩身が狭い思いをしたのは初めてだった。白い目で見られる人の気持ちが痛いほど分かった。

-これが、世間の言う“負け組”なのか。−

そんなことを思いながら、俺は目の前に広がる道路に向かって歩き出した。

桜の花弁がひらひらと舞い、人ごみの中に入って、やがて踏み潰されていくのを目で追いながら。






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