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第20話:大収穫祭と、蹂躙の甘き調べ(後編)

 死の荒野は、一方的な殺戮の血に染まっていた。

「ひ、ひぃぃぃッ! 来るな! 私に近づくな化け物どもォッ!!」

 王国討伐軍の指揮官であるガリウス将軍は、魔導戦車の装甲にしがみつきながら、無様に鼻水と涙を撒き散らして絶叫していた。

 彼が絶対の自信を持って率いてきた一万の精鋭たちは、すでにその大半がただの赤い肉塊と化して大地に転がっている。

 ガリウスの乗る魔導戦車をぐるりと取り囲んだのは、黄金と漆黒の装甲を纏った数十体の機械騎士(オートマタ)であった。

 彼らの表面を覆う『白銀の光』に、ガリウスは今さらながら見覚えのある魔力波長を感じ取り、絶望に顔を歪ませた。

「こ、この光は……! まさか、第三部隊の『白銀の聖域』だと!? 馬鹿な、あの小娘は死の瘴気の中でとっくに灰になっているはずだ! なぜ、反逆者の兵器が神聖防壁を纏っているのだッ!?」

 その問いに答える者は、この戦場にはいない。

 機械騎士たちは一切の感情を持たぬ黄金の単眼でガリウスを見下ろし、巨大な大剣をゆっくりと天に向かって振り上げた。

『目標(ターゲット)、王国軍指揮官。……肥料化プロセスへ移行シマス』

 機械的な音声とともに、数十本の巨大な刃が一斉に振り下ろされた。

「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁッ――!!」

 分厚い魔導戦車の装甲ごと、ガリウスの肥え太った肉体が無惨に細切れに裁断される。

 王国の権力を笠に着て腐敗を極めた男の最期は、死の荒野の黒土を潤すための、ただの安っぽい養分に過ぎなかった。

 その瞬間。

 城塞の最上階バルコニーでセトの腕に抱かれていたエレナの身体が、かつてないほどの激しい痙攣を起こした。

「んがぁぁぁぁッ……!! あ、あ、ァァァッ……!」

 エレナの口から、凄まじい絶頂の叫びが迸る。

 指揮官であるガリウスの死、そして一万の軍勢が完全に殲滅されたことで、戦場に散った莫大な生命力が、機械騎士たちを通して彼女の魔力回路(エーテル・ライン)へと一気に逆流してきたのだ。

「あぁっ……! すごい……すごいですわ、セト様っ! かつて私を陥れた者たちの血が……命が、すべて私の結界を通して、セト様の領地へと吸い込まれていく……っ!」

 エレナの純白の裸身には、極彩色の魔力紋が浮き彫りになり、とめどなく溢れる蜜がセトの太ももをドロドロに濡らしている。

 もはや王国への怒りも憎しみもない。

 ただ、自らを迫害した者たちを『肥料』としてすり潰し、愛する主の大地を肥やすという行為が、彼女の脳髄と子宮に致死量のアドレナリンと快楽をもたらしていた。高潔な聖騎士の精神は完全に崩壊し、狂信的な殺戮と服従の喜びに染まりきった極上の雌の姿がそこにあった。

「良い啼き声だ、エレナ。お前が王国の塵芥どもから搾り取った養分、この俺が最高の『実り』へと変えてやろう」

 セトは傲慢な笑みを浮かべ、身悶えするエレナの身体を抱きしめたまま、眼下に広がる血塗られた戦場へと片手を翳した。

「すべてを喰らい、そして芽吹け。――『豊穣の神域(エデンズ・ジェネシス)・黄金の祝祭』」

 セトの掌から放たれた極大の黄金マナが、波動となって死の荒野を駆け抜けた。

 ズゴゴゴゴゴォォォォッ……!!

 次の瞬間、バルコニーから戦場を見下ろしていたヒロインたちは、あまりにも美しく、そして冒涜的な奇跡を目の当たりにすることになる。

 一万の王国兵の血肉と無数のゴーレムの残骸が散乱していた荒野の黒土から、突如として無数の『芽』が吹き出したのだ。

 それらは兵士たちの血と絶望を極上の肥料として強引に吸い上げ、瞬きする間に急成長を遂げ、見渡す限りの『浄天の霊麦(クリア・ウィート)』と、黄金色に輝く星の果樹の森へと変貌を遂げた。

「す、素晴らしいですわ……っ! 一万の軍勢の生命エネルギーを、たった一瞬で完全に植物の成長因子へと変換・固定化してしまいましたの……! 王国の侵略軍が、文字通りセト様の大地の『実り』へと書き換えられましたわ!」

 フィアナが魔導デバイスの記録限界を超える数値を前に、狂喜の涙を流しながら膝をつく。

 死と灰にまみれていた凄惨な戦場は、もはやどこにもない。

 風に揺れてサラサラと心地よい音を立てる黄金の麦畑の中に、役目を終えた一万の機械騎士たちが、まるで農作業を終えたかのように静かに佇んでいるだけだった。

「えへへ……血の匂いが、ぜんぶ甘いお花の匂いになっちゃった! セトの魔法、すっごく綺麗だね!」

「ええ……セト様の圧倒的な力が、死の荒野をここまで豊かな楽園に……。私の魔力も、すべてはこの瞬間のためにあったのですね……っ」

 ミリアが銀色の尻尾を揺らし、クロエがうっとりと眼下の黄金の海を見つめる。

 シオンもまた、主の引き起こした神業に圧倒され、ただ無言でセトの足元に恭しく額を擦り付けていた。

「はぁっ……はぁっ……。セト様……あぁ、我が主(あるじ)……っ」

 圧倒的な魔力還元を終え、完全に力が抜けきったエレナは、蕩けきった瑠璃色の瞳でセトを見上げ、その太い首に自らの両腕を回した。

「わたくしの……元いた場所は、もう、綺麗に刈り取られてしまいましたわ。……わたくしにはもう、セト様の与えてくださる熱と快楽しか……残っていませんの……っ」

「最初からお前の居場所など、俺の腕の中にしかない。お前の過去も、王国も、すべて俺がこの国を広げるための養分に過ぎん」

 セトはエレナの汗ばんだ金糸の髪を撫で、その熱を持った唇を深く、そして乱暴に塞いだ。

 戦場を飲み込んだ黄金の麦畑から、甘く芳醇な生命の香りがバルコニーへと立ち昇り、交わり合う二人の魔力をさらに色濃く染め上げていく。

 王国が誇る一万の討伐軍の完全なる消滅。

 それは、追放された無能な農業魔術師が、ついに王国そのものを『開拓の標的』として見定めたことを意味していた。

「見ていろ、王国の愚王ども。貴様らが恐れ、棄てたこの力が、やがて大陸全土を極上の畑として喰らい尽くす日をな」

 五人の狂信的なヒロインたちと、一万の無敵の魔導軍団。

 死の荒野の中心に築かれた絶対不可侵のハーレム王国は、その恐るべき根を、いよいよ外の世界へと向けて深く、深く伸ばし始めていたのだった。

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